飲食店の店舗営業が禁止された社会的隔離期間に、人々の食生活を支えたのは、食品小売業者だ。感染対策を徹底し、状況に応じながら消費者ニーズに合わせた生鮮食品や加工食品などを取り揃える、注目の企業を紹介する。

技能実習生から正社員雇用へ
ベトナム人社員と切り拓く新事業

富分ベトナム
代表取締役社長 清水貴博さん
日本で「スーパー富分」の店長を経験後、同店と「居酒屋お富さん」のベトナム進出を担当。現在、全6店舗を統括する。

-TOMIBUN VIETNAM-
1975年、千葉県に「スーパー富分」を創業。2021年11月末には「スーパー富分コーナーストーン店」の開業を控える。


スーパー富分リンラン店(2階:ドラッグストア)
住:108 Linh Lang St., Ba Dinh Dist., Hanoi
電話:096 4669 486
営業時間:【スーパー】7:00〜22:00、【ドラッグストア】9:00〜21:00
休み:なし
Facebook:@Tomibunドラッグストア 108-110Linh Lang店


コロナ禍で奮闘した宅配サービス

日本人在住者が多いハノイ・バーディン区キムマー通りに「スーパー富分」1号店が開業したのは、2018年。生鮮食品、加工食品、酒類、生活用品などに加え、惣菜コーナーも展開。日本の街中にあるような、〝欲しいものが揃うスーパー〟は、在住日本人の間でたちまち評判が広がった。

ベトナム進出のきっかけは、日本の店舗で店長を務めていた清水貴博さんと、当時ベトナム人技能実習生として勤務していたレー・チュン・ヒエウ(Le Trung Hieu)さん、ニン・ティ・トゥイー・ミン(Ninh Thi Thuy Minh)さんが出会ったことだ。

「技能実習生として会社に貢献してくれた彼らが、ベトナムへ帰国後も日本で得た能力を活かして働けるようにと考え、ベトナム進出を決めました。現在は、店舗マネジャーとバイヤーとして、会社を支えてくれています」

2020年上旬、新型コロナ第1波による社会的隔離政策を受け、スーパーは宅配サービスを開始した。日本での実績に加え、受注方法や現金の受け渡しなどは日系運送会社からベトナム式のノウハウを学んだ。

外出規制や飲食店の営業停止など、より厳格な処置が取られた2021年7月には、前日注文・翌日配送だった宅配を、当日注文・当日配送に切り替え、サービスの充実化を図った。

「宅配がピークの時は、自社便だけでは対応しきれず、お客様をお待たせしてしまった時もありました。あらゆることへの対応に追われる日々でしたが、ベトナム人スタッフが力を発揮してくれました」

ベトナム進出当初の客層は、9割が日本人だったが、最近はベトナム人や欧米人が増えている。

「ステイホーム期間中は、レトルトご飯や缶詰などの保存食や調味料の売り上げが伸びました。日本食を自分で作るベトナム人が増えているようで、店頭で、『出汁はどれがいいですか?』と聞かれたこともあります。ベトナム人の日本食への関心度の高さを実感しますね」

商品は約2000種以上。日本店舗の売り上げデータも活用する

弁当やおかずが充実した惣菜コーナー。人気ベーカリーのパンも販売

輸入卸売業も開始目標はフランチャイズ化

社会的隔離政策が実施されている中、2021年8月には、3号店となるリンラン店のオープンを果たす。上階には初の業態となるドラッグストアを、数軒隣にはリカーショップも開業した。

「リンラン界隈に住む方のために、1日でも早く開店したいという気持ちで、スーパーを先にオープンしました。店舗の工事が進まず、ホーチミン市からの運送もできなかったため、全体で2ヶ月遅れのオープンになりました」

ドラッグストアとリカーショップの開業にあたり、輸入卸売業を行う「ミンジャパン」を設立。リカーショップは店舗を運営しながら、レストランやバーなどへの卸しも担う計画だ。

ピンクの看板が目を引くドラッグストアは、日用品だけでなく、コスメやサプリが充実している。

「ドラッグストアの仕入れは、女性スタッフに任せました。自分では決して作れない、女性のアイデアが生きた売り場になったと思います。

将来的には、ローカルをターゲットにした『富分』のフランチャイズ化を目指しています。まずは、日本から共に働いている2人のマネジャーの故郷、ハイズオン省とフンイエン省に出店したいですね」

日本酒、焼酎、ワインなどを多数取り扱う。贈答用にも適した商品が並ぶ

化粧品は日本、アメリカ、韓国ブランドまで、トレンドを意識した品揃え