新型コロナウィルスの蔓延と厳しい社会的隔離の環境で、生活に困窮する人々のために活動する日本人がいる。飲食業界のキーパーソンに「今、できること」を聞いた。

HCMC
野菜の無料配布で隣人の生活を支援

木村屋 店主兼配達員
木村 勇雄 さん
2009年来越。2010年に電気設計会社を設立。
2014年に食材店「漢の食材店 木村屋」を開業。
焼肉酒房「やきまる。」も管理する。

地域が一丸となり持続的な活動を提供

新型コロナウィルスの市中感染が広がるホーチミン市。長期にわたる社会的隔離措置で食料品の入手が困難な中、7月下旬よりベトナム人や在住日本人へ向けた野菜の無料配布を行う人がいる。1区タイヴァルン通りの路地内で、惣菜や食材の卸・小売業務を行う「木村屋」の木村勇雄さんだ。

「食材を普段から取り扱う私に何かできることはないか、と考えたのがきっかけです。当初は自己資金の3000万VNDを使って配布する予定でした。

しかし、レストランのオーナー、地域に住む大家さんやベトナム人の方々、ベトナム在住の友人、以前ベトナムに住んでいた方々などから寄付をいただき、100万円ほどの資金が集まりました。そこで、現在は毎日7〜8種、約140㎏の野菜を近隣の人々へご提供しています」

野菜の仕入れは、スタッフの家族が営むドンナイ省の販売店から。多くの人から大切なお金を預かっているため、無駄なく、そして継続的に活動できるように、ホーチミン市内より格安で仕入れられるルートを探し出した。

「配布当初は不安から1人で大量に野菜を確保しようとしたり、取り合いになったりするような雰囲気もありました。定期的に配布が行われることが分かった今では、皆さん必要な分量だけを取ってくれるようになりました。

私はボランティアの経験もないため、もともと個人で、そして小規模で行うつもりでした。しかし今はできる限り長く、少なくとも10〜11月頃までは続けたいと思っています」

日々、「木村屋」の店頭に新鮮な野菜が届けられ、無料で配布される

配布に並ぶ近隣の人々。一定の距離を開けた列は何十メートルも続く

日本人街の再開時 笑顔で迎えられるように

木村さんの支援は、1区タイヴァンルン通りの路地内にとどまらない。事務所兼ストックヤードがあるフーニュアン区への支援も行っている。

「米を1000㎏と即席麺3000食。また3日に1度、肉や海鮮類などをお届けするようになりました。その食材は警察の方が調理し、お弁当として路上生活者など生活が困窮している人々へ配布しています」

とはいえ、活動を続ける上で思うようにならないこともあった。

「隔離措置により地域をまたぐ移動や配送に制限があるため、野菜の仕入れにも通行許可証が必要です。しかし、制度の変更により従来の許可証が使用できなくなるなど、一時的に配布が止まることもありました」

そうした中、今後は野菜の配布だけでなく、近隣の日本料理店と協力し、炊き出しなども行いたいと話す木村さん。

「全ての人を支援することはできませんが、せめて日々お世話になっている地域の人々へ何かできれば。タイヴァンルンの路地には各店のスタッフも多く住んでいます。店の休業で収入が途絶え、日々の食材の確保も難しい。だからこそ、せめて食の不安を取り除くことで英気を養ってもらい、タイバンルンの日本人街が復活した際には全員が元気に、そして笑顔でお客様を迎えられるようにしたいと願っています」

個人的にパンや牛乳、水などを購入し、路上生活者の支援を行うスタッフも

フーニュアン区の警察に届けられた大量の米と即席麺