絶好調!
ベトナム芸能協奏曲
映画、テレビ、演劇、デジタル…ベトナムのエンターテインメントが急成長を遂げている。映画は興行収入が急増し、テレビではリアリティ番組が大ブーム、演劇は着実に顧客を獲得し、デジタルコンテンツが新市場を築く。豪華な業界の第一人者たちが内情を語る。
国営企業による運営がほとんどだった演劇の世界に、約20年前から民間の知恵とエネルギーが投入された。子ども向け人形劇から始め、舞台演劇、伝統芸能である水上人形劇まで、ベトナムの演劇を開拓してきた先駆者がMr. Tuanだ。
ホーチミン市内で6つの劇場を運営
「周辺のアジア諸国と比べると、ベトナムの演劇は遅れているでしょう。なぜなら、民間企業の参入が約20年前からと、遅かったのです。しかし、この20年で大きく変わりました。お客さんのニーズに合わせた出し物ができるので、演目の内容が創造的かつ豊富になり、市場としても大幅に拡大しました」
20年前の民間企業とはまさにMr. Tuanのこと。ホーチミン市師範大学を卒業して数学か物理の教師になるはずだった彼は、「決まった学生より、様々な場所で色々な子どもたちに出会いたい」と、子ども向けの人形劇を始めた。子ども向けはそれまで国営の劇場しかなく、ベトナム初の民間企業での参入となったのだ。
ホーチミン市ダムセン公園内の専用ステージで、1983年から人形劇を開始。評判となって次は子ども向けの演劇へ。こちらも成功して1994年から水上人形劇に関わり、1997年からは大人向けの舞台演劇をスタートさせた。現在では、舞台演劇を運営するThai Duong Theater & Art社と、水上人形劇及び子ども向け演劇を運営するNHA HAT TRE社のオーナーとなっている。
子ども向け劇場はダムセン公園内の他にラオドン文化会館にある。水上人形劇の劇場は2007年に完成したGolden Dragon Water Puppet Theatreと、今年9月にオープンしたRexホテル内のRex Golden Lotus。前者には毎月約1万2000人の観光客が押し寄せ、後者は水上人形劇以外にベトナムの伝統文化的な公演も行う。舞台演劇では20年に渡って圧倒的な知名度を持つIDECAF劇場と、15年続くTran Cao Van劇場。両者で毎月平均25回の公演を行い、1公演で250~300人が来場する。運営するこれら6つの劇場は、全てホーチミン市にある。
「日本へは何度も行っています。東京や横浜の舞台を見て、沖縄で開催された国際舞台芸術フェスティバルの『キジムナーフェスタ』(現りっかりっか*フェスタ)にも参加しました。今まで演劇を200作ほど作りましたが、そのうちの2本は日本を背景にしたものです」
水上人形劇は拡大悩みは舞台演劇
市場としての演劇はどうか。まず、水上人形劇は拡大を続けており、ホイアンでもこれから新しい劇場がオープンする予定だ。観光客にはお馴染のGolden Dragonでは毎日2回の公演があり、場合によっては3公演行うほど。外国人観光客を中心に動員数が増えており、ニャチャンにも劇場を作りたいと考えている。ベトナムの伝統芸術をきちんと維持して、次の世代につなぎたいそうだ。
子ども向け演劇の市場は安定しており、親が子どもと出かけて楽しむニーズがあるという。ただ、こちらは採算度外視のようだ。Mr. Tuanの会社では劇団の派遣も行っており、ホーチミン市内の小学校に1年に約50回のほか、ビンズン省、メコンデルタ、ダナンなどの地方も回る。ホーチミン市の場合は市から援助があるため料金は無料にしているが、援助がない地方では有料。しかし、チケットは1万5000VNDと格安にしている。
「地方への派遣は私たちしかやっていないと思いますが、いつも赤字です(笑)。日本にはこうした施設がいくつもあって驚きました。教育にもつながると考えているので、もっと拠点を増やしたいですね」
一方、舞台の劇場はハノイに国営が3つ、ホーチミン市に6つ(ひとつは国営)あるが、地方の劇場は閉鎖していったという。
舞台演劇の市場は拡大したものの、この7年ほどの間に映画やテレビドラマが人気になり、特にこの3年はテレビのリアリティ番組が大ブーム。お金と時間を掛けずに、手軽に楽しめるコンテンツが選ばれるようになっているのだ。
「舞台演劇は『Tam Cam』(ベトナム版シンデレラ)のおかげで続けていけます。ヒットしている理由はユーモアがあり、主役に2人の人気俳優を起用したためでしょう。劇場に来る人は20~50代で、男女の比率は半々。特にしっかりと教育を受けた、知識のある、若い会社員が多いですね」
『Tam Cam』は17年続くロングヒット作で、雨が降ってもチケットを求めてお客が並ぶほど。舞台演劇は60~70%がコメディで、ヒット作は『猛獣の契約/Hop Dong Manh Thu』や『ビキニキラー/Sat Thu Hai Manh』。
また、ベトナムの歴史をモチーフにした作品も人気で、民族的英雄のグエンチャイの神秘に満ちた死をテーマにした『レーチー荘園の秘密/Bi Mat Vuon Le Chi』や、レタントン帝を描いた『黎朝帝王/Vua Thanh Trieu Le』などが代表作だ。
「お客さんのニーズは変化し、よりクオリティの高いものを求めています。ただし、これはどの業界でも同じこと。ニーズに合わせて質を高めるという、当たり前のことを続けていくだけです」
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