日本の自治体、 ベトナムを駆ける!
日本各地の自治体がベトナムに乗り込んでいる。特産品の輸出、工業団地への援助、販路の開拓、現地企業との連携…。従来と異なるのは、進出企業を「戦略的」に支援している点だ。共通していたのは「人とのつながり」の大切さだった。
クール北海道株式会社 クール北海道ベトナム執行役員(経営企画、管理担当)
大塚 隆博氏民間企業11社が団結
道内の中小企業がチームを組んで、北海道の魅力や強みを丸ごと東南アジアに売り込む。輸出を皮切りに人材交流や観光客誘致、現地製造への参加ももくろむ。そんな戦略を元に2014年11月、北海道の民間企業や金融機関など11社で設立されたのが「Cool Hokkaido」(クール北海道)だ。
その第一弾として、ホーチミン市中心部にフードコート「Hokkaido Village」(北海道ビレッジ)を、今年内にオープンする予定である。
北海道ビレッジは以前から展開が予定されていたが、ホーチミン市の再開発プロジェクトにジョイントする形で早ければ今年10月にも完成する見込み。約700㎡の敷地面積に、北海道の多彩な食文化が楽しめる割烹や寿司店、ラーメン店、スイーツ店、おむすびや惣菜店などのフードコートなどが常設され、文化発信ゾーンとしてミニステージも併設。初音ミクのコンサートというアイデアもあるそうだ(「初音ミク」で知られる音声合成エンジンは北海道のベンチャー企業が開発)。
他にも体験型のクッキングスタジオや、ガーデニングゾーンがあり、北海道観光コンシェルジュも置く予定。また、飲食店は常設店舗だけでなく、テスト出店用のスペースを2店舗分用意するという。
「ベトナムに進出したい中小企業は多くても、現実的には予算もかかるしリスクもあります。そこで、3ヶ月程度のテスト出店をしてもらおうと考えました。いわばベトナム進出の登竜門で、店舗が変化してお客に飽きられないというメリットも出ます」
こう語るのはクール北海道株式会社の吉村匠氏。同氏は北海道新聞に勤務しており、一般社団法人北海道食産業総合振興機構(フード特区機構)の販路拡大支援部長を経て、現在はクール北海道に出向しているが、フード特区機構とクール北海道との「なれそめ」が面白い。
そもそもクール北海道は札幌でコールセンター事業を行うITコミュニケーションズを中心に進められ、同社は2014年9月にホーチミン市にコールセンターを設立。系列会社の北海道マーケティング総研が同時期に食材輸出や飲食店進出を支援する活動をするが、飲食系のノウハウは乏しかった。
一方、フード特区機構は北海道内の食品や食材をASEANに輸出する目的で作られ、税制や金融の支援制度も持つ。こうした両者が出会って、互いに協力する形で、現在のクール北海道が誕生したのだ。現地法人であるクール北海道ベトナムの大塚隆博氏は次のように語る。
「私は北海道マーケティング総研の出身。これまでは出張ベースでしたが、2月からホーチミン市に常駐しています。北海道から進出するのは中小や零細企業が多く、日本市場の縮小などで海外に活路を求める企業です」
「かつて、札幌ラーメンを多数の国に多店舗展開して成功したものの、長続きしなかったことがあります。チームで進めることが大事です。北海道ビレッジの入居企業も決まりつつあります」(吉村氏)
卸販売、農業、観光へも
ベトナムのYoutuber約20人招いての食事会。様々な手法で「北海道」をPR
クール北海道は既に食材を輸出している。相手企業はホーチミン市を中心に「すし北海道さち」を運営するTAKAHIRO FOOD CORPだ。これから北海道ビレッジが稼働すると相当量の食材が必要になるので、一括調達によるコストダウンを図るという。
「食材が高品質とはいえ、価格は高くなりますから、できるだけコストは下げたい。そこで道産品の輸出や卸販売を行う新会社を、タカヒロフードさんと設立する予定です」(吉村氏)
この会社では北海道ビレッジの飲食店に食材などを提供するほか、ベトナムの小売店などにも販路を広げる予定で、クール北海道ベトナムの子会社となるそうだ。
「現在は空輸で運んでいますが、輸送費の安い船便と併用していきます」(大塚氏)
将来への構想は広がる。例えば、ベトナムでの他産業への進出だ。飲食店というサービス業の第3次産業から入ったが、これを第2次、第1次産業へと上げていくことを考えているという。例えば、北海道の農業ノウハウを使って、イチゴや牛乳などを作って生産化率を高める。乳牛を揃えるハードルが高ければチーズから始めてもいいし、人材の交流も進めていきたいと語る。
「これはベトナムが農業国だからできることで、例えば香港では不可能です。また、観光にもつなげていきたいですね。ベトナム人は桜と雪が好きですが、北海道の桜の時期には残雪があるんです(笑)。ただ、どれもこれもと今から多角化は進めず、拠点を維持して続けることが大切と考えています」(吉村氏)
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