順調に成長を続けるベトナム経済において、その動向が特に注目される分野がある。完成車の輸入関税が撤廃された「自動車」、急騰を続ける「株式」、バブル再燃とも言われた「不動産」、経済発展に連れて拡大する「物流」だ。第一人者に「2018年」を聞いた。

 

2018年1月から、アセアン域内で生産された自動車の輸入関税が完全に撤廃された。しかし、時期を同じくして輸入車の制限を設けた政令116号も施行。今後は国産車の需要が高まるとトヨタモーターベトナムの木下社長は語る。

自動車の輸入関税撤廃も 新たな政令で生じた混乱

東南アジア諸国連合に加盟する10カ国で構成されたアセアン経済共同体が2015年末に発足し、アセアン域内の関税が撤廃されることが決まった。域内で生産された自動車の輸入関税は2018年1月に完全撤廃となり、ベトナムでは輸入車の増加と、自動車価格の値下がりが期待されていた。

「弊社としても、2017年の売り上げは厳しいものになるとの覚悟でした。確かに2017年の自動車市場は冷え込んでいましたが、同年10月に政令116号の通達があったことで状況が一転。今年の関税撤廃を待っていた人が今後自動車の価格が下がる見込みはないと判断し、昨年末に購入へ走り市場が少し拡大するという、予想に反した展開となりました」

2018年1月から施行された政令116号では、アセアン域内で完成した自動車に対し、生産国の品質証明書の提出や性能の検査などを義務付けており、今後は完成車の輸入に時間がかかるほか、費用もかさむこととなる。

従来政府は2018年からアセアン完成車関税を0にし、市場を開放する方針を宣言していた。しかし政令116号によって突然その方針が転換されたことで、市場および自動車産業は困惑。そのため各自動車メーカーは政府に対し、同政令の見直しや施行の延期を求めている。

このような政令が通達された背景として、ベトナム政府が国内の自動車産業の育成を強化する方針であることなどが理由に挙げられる。
「現在のベトナム経済は成長が続いており、またお客様の車の保有率を見ても、自動車の市場自体は確実に膨らんでいく予想です。しかし今後は完成車の輸入が難しくなるため、国産車の需要が高まるとみられます」

出典:VAMA(ベトナム自動車工業会)

ベトナムは大きな人口を抱え、人材も優秀で中長期的には魅力的な投資先である。しかし、政令116号通達前はタイやインドネシアからの輸入が有利になる可能性が大きかったため、自動車メーカー、部品メーカーとも生産拡大への投資は極めて難しい環境であったほか、残念ながら自動車産業は市場規模が小さくメリットが中々得られていないのが現状だ。

「今後は安定的な生産量が確保できるかどうかが重要になってきます。それに向けた投資も行いたいのですが、関税撤廃直前で政令116号が施行され、それがまたいつ変更されるかもわかりません。今後の見極めがなかなか難しい状況ではありますね」

同社は今後も現地調達率を引き上げていく方針だが、生産量が追い付かない今、そこに集中してもコストがかかる。地場サプライヤーも活用したいが、品質において納得できるものばかりではない。また、国内の生産量が増えない理由の1つとして挙げられるが人の技術力だ。その状況を少しでも改善しようと、同社は技術教育への取り組みも始めている。

「2017年から弊社の技術スタッフを各地場サプライヤーに送って指導を行っていますが、まだ始まったばかりなので今すぐに結果を出すのは難しいでしょう。ただ、ベトナム人は技術力や経験が十分ではないものの、指導後は自身で考えて実践する能力が高い傾向にあるので、今後の成長に期待が持てます」

この国の将来を見据え ハイブリッド車を推奨

ベトナムの大手不動産企業ビングループが2017年9月、国内初となる自社ブランドの国産車製造に参入し、電動バイクの生産にも取り組んでいく計画が発表された。これにより国産車の需要が大いに高まるだけでなく、環境対策への意識も強まっていくことが予想される。


ベトナムでは「カムリ」など4車種を生産

「環境対策は弊社の最優先事項の1つです。ただ、EVも良いのですが、火力発電に力を入れているベトナムで電力を多く消費するようになると、その分環境にも悪い影響があるかもしれません。それに国内の電力が足りなくなる可能性もありますし、現在の国内のインフラを考えても、弊社としてはハイブリッド車の方が良いと考えています」

同社では既にハイブリッド車に関するセミナーを開催しており、今後もハイブリッド車を推進していく方針だ。政府が進める政策と、各自動車業界団体の要望は必ずしも一致しないが、同社は引き続き政府とのコミュニケーションを密にして、様々な可能性を探っていくという。今後の市場拡大に当たっては、安定した産業政策による生産拡大への投資誘導が、必須と考えているからだ。

「弊社がベトナムに進出した背景には、自動車の生産台数やコスト、クオリティも強化して、この国の発展に貢献したいという思いがあります。政府の判断を受けて、それが最終的にどういった状況になっていくのかをしっかりと見極めて、一番良い道を見つけていきたいと思います」