拡大するベトナム市場へと、2011年に進出したJFEスチールベトナム。鉄管製造会社J-スパイラルスチールパイプ社のサポートと共に、在越7社の関連企業と協力する。「長期的に産業構造の変化が起こる」と前野社長は語る。

インフラでニーズが急増

代表取締役社長 前野浩二

―― ベトナムに進出した理由は何でしょう。

前野 ドンナイ省の鋼管製造会社を買収し、2010年にJ-スパイラルスチールパイプ社を設立しました。鉄橋、港湾、発電所などの重量構造物の基礎支柱となる「鋼管杭」を製造する会社で、鋼管杭は急速に進むベトナムのインフラ整備に欠かせないものです。同社へのサポートに加えて、JFEスチールの全ての製品の販売支援、事業等のためのマーケティング、本社への情報発信などのために設立されたのが弊社です。
また、ベトナムにはJFEグループは事務所が3社、製造業が5社の計8社あり、その中核企業として各社間の業務協力や共同での展示会などもサポートしています。

―― ベトナムの鋼材需要はいかがですか?

前野 急増しています。2015年の鋼材見掛消費量は1800万tを超えて、タイを抜き、ASEANの中でトップに立ちました。前年比で27%も伸びているのです。ただ、自動車や家電向け高級鋼板が多いタイやインドネシアと比べて、ベトナムの用途は約85%が建材です。しかも、汎用品の比率が高く、中国からの安価な輸入品の割合が、輸入全体の6割程度を占めています。
 JFEスチールの販売戦略は、交通インフラプロジェクトなどに使われる高級材への注力です。例えば、日本のゼネコンさんが作る橋梁や地下鉄の工事で使われるのは、成分のばらつきが少なく、強度や品質精度が重要な鋼材です。こうした製品は日本の高い技術力がないと製造できません。
 これらは日本から輸入するわけですが、それをサポートしているのが弊社です。汎用品分野では、中国製品に対抗する意味でも、生産拠点の現地化が重要な課題となりますね。

―― ニーズはどう変化するでしょう。

前野 中長期的には自動車や家電などの分野が伸びるでしょう。10年後にはベトナム人の年収が3000USDを優に超えて、モータリゼーションの時代が来ると思います。仮に日系自動車メーカー各社がベトナムで本格的に鉄鋼製品をプレスし、使用するようになれば、我々もそれに見合った供給体制を取る必要が出てきます。産業構造が変化すると、鉄の用途も変わってくるということです。

JFEスチールはインフラ、自動車、エネルギーを事業の3本柱にしていまして、万遍なく力を入れています。ベトナムはインフラ分野で魅力的ですし、モータリゼーションが興れば自動車産業に期待でき、原油価格が戻ればエネルギー分野での成長も考えられる。非常に有望な市場です。

―― ベトナムをどう感じますか?

前野 ビジネスとして、とてもエキサイティングな国だと思います。なぜなら、産業界、政府、国営機関、大学などの産・学・官がとても近いのです。弊社も設立以来、建設省や交通運輸省傘下の研究機関、大学の土木工学部などとネットワークを築いてきましたし、特に建設分野では日本の鉄鋼技術を紹介できるのが醍醐味です。

発展段階にある国や産業界に、弊社の製造技術と利用技術をセットで提案・貢献できるのは、何よりもうれしく思います。その背景には、ベトナムの基礎的インフラに貢献するという弊社のコンセプトに対する、政府や大学関係者の共感があると思います。

今期のJBAH会長に

JFEスチールの高炉

J-スパイラルスチールパイプ社の工場

―― 今年4月から、JBAH(ホーチミン日本商工会)の会長を務めています。

前野 本業と併せて、従来の2倍働く覚悟で引き受けました(笑)。大切なのはまず、日系企業が直面する事業環境の改善と、在越日本人とそのご家族の生活環境の改善。もちろん、ベトナム社会への貢献や日越文化交流なども欠かせません。

また、「One for all, All for one」をスローガンにしていまして、受身ではない全員参加型の商工会活動を目指しています。

―― 具体的にはどのようなことをされますか?

前野 例えば、ホーチミン市をはじめビンズン、ドンナイ、ロンアン、バリア・ヴンタウなど各省と意見交換会や日系企業の対話集会を行いますが、そこに参加していただく。ご協力もしていただく代わりに、その利益も皆で享受するような仕組みにしたいのです。各企業の個別の課題も取り上げるのが難しいのですが、それも含めてJBAHのネットワークで解決することも考えています。

また、スポーツ・文化活動では新しく、盆踊りとマラソン大会を企画しています。日越文化交流も意識しまして、ベトナム人の方々にもぜひご参加いただこうと考えています。情報発信も大切ですから、3月からのフェイスブックに加え、5月からは月単位で活動内容を伝える「マンスリーレポート」の配信も始めました。やりたいことがたくさんあるのです。

JFE STEEL VIETNAM CO., LTD.
General Director
前野浩二

1960年生まれ。大学卒業後に川崎製鉄株式会社(現JFEスチール株式会社)に入社。国内営業、技術移転のためのアメリカ駐在などを経て、2011年に初代ホーチミン事務所長として赴任。2013年に現地法人化すると共に現職。