1991年にベトナムに進出した伊藤忠商事。これまではホーチミンに駐在員事務所を置いていたが今年4月に現地法人化し、ハノイ支社も設立した。伊藤忠商事株式会社のベトナム支配人も兼務する、倉重社長が語る。

ベトナム企業20社に投資


社長 倉重猪知郎

―― ベトナムでの事業は何でしょう?

倉重 中心事業としては、ベトナムは繊維の生産拠点であり、同時に原材料を輸入して販売するマーケットでもあります。

伊藤忠商事の東京、バンコク、香港支社はベトナムの企業20社に投資していまして、業種別では繊維7社、機械4社、食料3社、金属2社、建設、不動産、物流、金融などの住情が4社。繊維は日本でダントツですが、ベトナムでもダントツだと思います。

―― やはり伊藤忠さんは繊維が強い。

倉重 例えば、ベトナム最大級の国営繊維グループであるVietnam National Textile and Garment Group (VINATEX)の株式を取得して、ジョイントベンチャーの子会社で繊維工場を運営したり、地場大手アパレル会社のKOWIL社と資本・業務提携して、国内販路を広げるなどです。

ただ、繊維系はほとんどが衣料品の縫製と北米、欧州、日本への輸出です。ユニフォーム、下着、肩パットに使うパットなどの服飾部材から、欧米系ブランドのアパレルなどまで多様な製品を作っています。今後も繊維系企業との提携は増えると思います。

こうした地場企業は先のように東京本社などからの投資や提携です。一般的に商社は、貿易というより事業投資、特に海外への投資が利益の多くを占めていますが、伊藤忠ベトナムは現段階ではトレードが基本です。

―― TPPが始まると繊維業界に追い風が吹きそうです。

倉重 TPPには参加国内で製造した部品や素材を使用するという、原産地規則があります。繊維であれば原材料は糸などになりますが、ベトナムでは8割ほどが輸入です。伊藤忠は輸入も生産も得意ですから、自分たちで一気通貫でやろうと考えています。

―― 他の分野はいかがでしょうか?

倉重 機械ではODAと円借款で、ハイフォンのラックフエン港にコンテナ埠頭を建設中です。ベトナム北部には深水港がなく、南部に依存していたのですが、この埠頭が完成すれば大型コンテナ船が接岸できるので、北米などへダイレクトな海上輸送ができます。2018年5月の完成を予定しています。

食料分野ではファミリーマートさんに出資しているのと、農業や食料品を中核事業とするタイ大手のCPグループと提携しています。

提携する繊維工場

トレードでは化学品、食料、金属、住情がコア事業ですが、化学品の分野は規模が大きく、樹脂原料、有機・無機材料、農薬などのスペシャルケミカルなどまで多種多様に取り扱っています。ほとんどが輸入で、特に増えているのが農業系や軽工業に関わる素材です。

ベトナムのための仕事を

―― 今年4月からの赴任ですね?

倉重 2007年から4年程シンガポールに駐在していました。シンガポール支社はASEANの総本山でして、ベトナムにも関わっていました。当時は国力がまだまだと感じていたのですが、現在では国家財政は安定し、政府主導で自由貿易協定も推進しており、ビジネスの「機が熟した」という思いです。

弊社が駐在員事務所を現法化したのも、伊藤忠が海外マネジメントを見直していることに加えて、ベトナムへの経済上昇期待があるからです。

また、中国の賃金上昇や経済成長の鈍化などで、中国からベトナムへの生産拠点のシフトが増加しており、繊維産業も同様です。面白いのは、中国人が国境を越えてベトナムに入り、ベトナムに縫製工場を作って服などを生産し、完成品を自国に持ち帰って販売するケースもあること。これからは、こうした中国からの商品をベトナムで取りに行くなども起こり得ますね。

―― 今後の計画を教えてください。

倉重 日本製品の高品質を理由に、「良いものだから買ってよ」では、賢いベトナム人は購入しません。やはり、ベトナムのためになることをしたいと思います。

例えば、国家財政には脆弱な部分もあるので、輸出を増やして外貨を稼ぐお手伝いをする。具体的には、輸出に必要な原材料にはベトナムにないものが多いので、それらを輸入するなどです。輸出品目では電子部品や繊維製品が目立ちますが、逆に言えば他の分野は伸びておらず、裾野製品も道半ばですから。

経済成長や中間層の増加で国内消費が伸びれば、小売り商品が売れてコンビニも流行るでしょうし、インフラが整備されればEコマースも成長するはず。協力できることが増えてくると思うのです。

この国は色々なことがフリーハンドでできそうですので、繊維以外の小規模、中規模な投資チャンスも探したいと思っています。

ITOCHU Vietnam Company Limited
General Director 社長
倉重猪知郎

KURASHIGE ICHIRO
1959年生まれ。大学卒業後、1984年に伊藤忠商事に入社。主に生活資材部門、特に紙パルプを担当。1992~1995年に米シアトル、2007~2011年にシンガポールに駐在。今年4月にベトナムに赴任して現職。ハノイ支社長も兼務。