急増が続くベトナム人観光客の訪日アウトバウンド。 2017年の訪日人数は過去最大の30万人が見込まれている。彼らはどんな人々で、日本のどこへ行き、何をしているのか。 日系企業のマーケティングに、彼らの消費動向を活かしてほしい。
 
 

一般的なパッケージツアーの「募集旅行」の他に、「MICE」と呼ばれる団体旅行がある。2015年に業務をスタートし、MICEを強化しているタガートラベルは、日系企業のMICEを主事業として展開。2017年は約1500人、約50本のツアーを組んだ。

大切な取引先の重鎮たち 欠かせない丁寧なサービス

「スケッチトラベル・サムライツアー」のブランドで展開するタガートラベル。価格で選ばれることも多い募集旅行では大手企業に分があると、MICEツアーに舵を切った。

MICEとはMeeting、Incentive、Conference/Convention、Exhibitionの頭文字を合わせたトラベル用語で、同社は特にMとIに注力している。中でも多いのは、日系企業から受注する取引先企業への招待旅行だ。

「自動車や飲料等の日系メーカーさんが、仕事を依頼しているディーラー、卸店、小売店の優良店を日本に招待するなどです。ツアーのお客様はローカル企業の社長やオーナーが主です」

そのため顧客には男性が多く、年齢は30代後半から40代が中心。旅行者は20人から100人程度の、バス1~2台で移動できる人数という。日程は主に4~5泊で、日系企業の本社、支社、工場などに迎えた後で、観光地に移動する場合が多い。

彼らはビジネスで成功している富裕層なので、日本旅行の経験者もおり、競合他社の招待旅行に誘われることも多い。そのため、ツアーに魅力がないと参加せず、競合他社が招待する旅行を選ぶこともある。競合相手に好意を持たれては顧客企業もタガートラベルも困るので、十分なサービスを心掛けている。

タガートラベルの訪日教育旅行

「ツアーにはベトナム人のガイドとベトナム語が話せる日本人の添乗員が付き、日本人添乗員はサポート役に回ります。ベトナム人は食事にこだわるので、事前に料理の好みを聞き、それでも現場で不満が出れば、その場の判断でレストランを変えることもあります」

ベトナム人は野菜が少ないことは嫌がるという。添乗員は提供する料理を事前にチェックするので、セットメニューの1品を減らして、野菜を増量してもらうなどもあるそうだ。また、事前に用意されて冷えた食事は嫌がる傾向にあり、寿司などの生ものが食べられるかどうかを聞くのは必須。

特に北部の人は食に関して保守的で、知らないものは食べたがらないそうだ。小林氏は「ベトナムになくて、ある程度おいしいとわかるもの」が喜ばれると語る。

「ヌックマム、生唐辛子 、カップラーメンは必ず持参します。ベトナム人が好きな調味料と、口に合うものがなかった場合の非常食です。ただ、カップラーメンを食べるのは北部の人が多く、南部の人は幅広く食べるのでほとんど必要ありません」

ショッピングは「棚買い」 リピーター客に新しい提案

観光地ではフォトジェニックな場所が人気で、富士山は車で行ける5合目まで登りたがるという。遠景を眺めるだけでは満足せず、5合目の看板の前で写真を撮るのが恒例とか。また、より多くの場所を見てほしいと訪れる観光地を増やすと、「疲れた」と不評になる場合もある。これも募集ツアーのベトナム人と違う点で、そのため同社では到着初日はゆっくりとしたスケジュールを組むようにしている。

ショッピングでは一番人気が健康系のサプリメント。ほかに目薬、胃薬、コラーゲン系などをドラッグストアで「棚買い」(棚にある商品をすべて購入)するそうだ。買い物熱はかなりのもので、高速道路のサービスエリアの休憩時間に買い、街に着いたらまたショッピング。同社が以前実施していた募集ツアーの顧客より、明らかに購入金額が多いという。

特に北部の人が顕著で、地域のコミュニティが強いために、家族以外の近所や隣人への土産が多いのだろうと小林氏は見ている。

【MICEの意味】
Meeting
企業の会議や研修旅行
Incentive
招待旅行や社員旅行
Conference
国際会議や学術会議への旅行
Exhibition
展示会やコンサートへの旅行

「一定以上の年令の方々なので子どもを持つ方も多く、お土産に十数万円する特注モデルのスニーカーやブランド時計なども買っています。土産に合計で100万円から200万円を使う場合も珍しくありません」

最近では日本旅行の経験者も増えてきたので、典型的な観光地は飽きられつつあるという。同程度の旅行金額ならヨーロッパやオーストラリアを希望する者もおり、新しい提案が欠かせない。

「旭川の近くにある層雲峡に行くツアーを10月に作りました。ここは日本一寒いと言われる場所なのですが、雪を喜ぶベトナム人が増えてきたため、この時期に雪が降ると期待してのことです。層雲峡に行ったベトナム人はさすがに少ないでしょう」

そのために欠かせないのが事前のヒアリング。上記の料理の好き嫌いや海外旅行の経験、日本への渡航歴はもちろん、招待客の出身地も聞いている。同じ南部でもホーチミン市とメコンでは好む味が違うなど、細かな対応が可能になるからだ。

「訪日ベトナム人の数はインドネシアやフィリピンと同程度ですが、ベトナムの場合は留学生や技能実習生も多いので、観光客は日本への渡航者の30%程度です。逆に言えば伸びしろが大きいということ。そのためホテル、レストラン、自治体さんなどには『3~5年後を見てほしい』と伝えています。何かを仕掛けてすぐに結果を出すのは難しいと思っています」