日本のビール会社で初めてベトナムに進出したサッポロベトナム。2011年に工場を竣工。その味とマーケティング戦略で、知名度と販売量を伸ばしてきた。一層の浸透を図るため、正脇社長は新戦略をスタートさせた。

すっきり飲みやすい味に

General Director 社長 正脇幹生

―― 9月にサッポロホールディングスの完全子会社になりました。

正脇 はい。これまでは国営たばこメーカーのVINATABAとの合弁でしたが、国営企業は本業に注力することになり、弊社には成長戦略の中で経営スピードを上げたい思いがあり、両社共にハッピーな結果となりました。

―― 成長戦略と言いますと?

正脇 これまで広告やプロモーションガールなどでPRを続け、弊社の調査によれば、知名度はホーチミン市で93%まで高まりました。こうした活動は続けるものの、今後は商品自体の魅力も強く打ち出すつもりです。そのひとつとしてサッポロプレミアムビールをリニューアルし、11月から順次発売を開始いたします。

330ml缶に650ml缶と同じシルバー色を採用し、デザインを統一します。また、味をよりすっきりさせて、飲みやすいものにします。コンセプトを”JAPAN’ S PROMISE”として、カートンデザインも一新しました。ベトナム人が信頼感を持つ「日本」をイメージしています。

―― 味も変わるのですね?

正脇 ビールの味自体、いわば設計図は変えません。ベトナム人はビールを何本もごくごくと飲みますが、調べるとサッポロビールは少し「重い」と感じる人が多かったのです。そのため、エキス分を微調整して、すっきりとしたのど越しにしました。試飲調査では、美味しくて飲みやすいという評価がほとんどでした。何杯でも飲んでいただきたいですね(笑)。

―― 今の消費者の動向は?

正脇 ベトナムのビールは大きく3つのクラスに分かれます。サッポロビールやハイネケンなどの「プレミアム」、タイガービールやサイゴンスペシャルなどの「メインストリーム」、333やラルーなどの「エコノミー」です。中間層の増加で拡大しているのが「メインストリーム」で、これらのビールを飲むのがステイタスであり、格好いいと思われているようです。この人たちが次に求めるのが「プレミアム」でしょう。

―― 彼らが御社のターゲットだと。

正脇 そうですね。外資系企業に勤めたり、商売をしているなどの中間層以上で、年齢は20~30代でしょうか。ただ、所得が高くない人にも、特別な記念日などに飲んでいただきたいです。昔の日本で、正月にはヱビスビールを飲んだイメージです。

ローカルを攻めたい

―― これまでは南部が中心でしたが、他の都市へも進めますか?

sapporo-beerリニューアルされたサッポロプレミアムビール

正脇 ハノイでは日本食レストラン、高級ホテル、ゴルフ場などに約550の取扱店があります。今年の8月にはダナン、10月にはニャチャンでも取り扱いを始めました。まずは観光都市の日本食レストランや高級ホテルから広めるつもりです。

こうしたお店で日本人にサッポロビールを飲んでいただくことが、日本に興味を持つベトナム人への口コミ効果につながると思っています。次の段階として、ローカルのレストランを拡充するつもりです。高級店である必要はありません。

―― 販売の中心はレストランだと。

正脇 取扱量はレストランなどの業務用が約8割で、小売店などの家庭用が約2割と、日本と逆になっています。ベトナム人には晩酌などの習慣がなく、店で仲間と飲むことが多いからでしょう。ただ、知名度の高いホーチミン市中心部でも、サッポロビールのシェアは1割程度。元々ベトナム人がメインターゲットですから、これからはローカル店でもっと飲んでほしいと思っています。

ビールの飲み方も変わりつつあり、若者に人気のビアクラブでは、背の高いビアタワーがよく注文されます。何店かを調べてみると、1番人気はタイガービールで、2番がサッポロビールでした。「格好いい」と思ってくれていたらうれしいですね。

―― 生ビール用の20lの「樽」も販売していますね。

正脇 サーバーを使ってきめの細かい泡を出しますから、店側に技術と品質管理が求められます。サービスを始めた当初はこれらを教えるのに苦労したそうですが、今では樽生のアドバイザーがおり、卸している店を回っています。

―― 今後の予定を教えてください。

正脇 ベトナム人の平均年齢は約28歳で、中でも多いのが17~18歳。これからの新しい消費者です。市場の拡大に伴って弊社が成長する余地は十分にあると思いますので、ブランド力をさらに強めて、サッポロビールをもっとベトナムに浸透させたいです。

先の話をすれば、ワインなどを輸入したり、違う種類のビールも販売したい。工場の土地は50年契約で借りていますから、最低50年はベトナムにいるわけです(笑)。サッポロビールを息の長いブランドにしたいですね。

SAPPORO VIETNAM LTD.
General Director 社長 正脇幹生

1964年生まれ。大学卒業後にサッポロビール株式会社に入社。営業部門、マーケティング部門などを経て、2000年~2009年にアメリカに駐在。その後日本でM&Aなどを担当し、2014年にベトナムに赴任。2015年9月より現職。