前年比30%増で伸び続けるベトナムのEC(電子商取引)マーケット。市場規模は40億USDと日本の30分の1程度だが、2022年までに100億USDになるという試算もある。一方、品質、配送時間、キャンセルといった課題も多い。今と未来を業界の専門家たちに聞いた。

 

大手IT企業FTPの子会社であるSen Do Technologyが運営する「Sendo.vn」はマーケットプレイス型のEC。サイトへの出店は無料で、決済、配送、店のサポートはSendo.vnが負担、広告費を収益とするビジネスモデルだ。

48時間返品可能 人気商品はアパレル

「Sendo.vnに登録しているのは個人と法人を併せて約10万店、商品数は600万ほどです。一方、顧客の50%以上はハノイやホーチミン市など中央直轄市以外の人たちで、範囲は全国63省に及びます」

ネット上の売買仲介の場であるマーケットプレイスなので、Sendo.vnは売手と買手のサポートに徹している。顧客がサイトで商品を注文するとSendo.vnが各店に連絡し、店が取引の承諾を返すと、Sendo.vnは配送会社に指示して商品が配送される。買手の権利を保証するためとして、商品受取後48時間以内で、商品に満足しなければ返品が可能となる。

「女子 ブラウス 韓国スタイル」の検索結果

支払方法は「SenPay」という電子ウォレットでの決済サービス、クレジットカード、銀行振込、現金などで、返品した場合の返金は、カードや銀行は銀行振込み、現金の場合はSenPayのアカウントに返金。SenPayを使わない顧客は郵便局から返金するが、ほとんどがSenPayを持っているという。返品の際の配送費は、不良品であった場合は店側が、それ以外は顧客が負担する。

「ベトナムのEC市場は拡大していますが、まだ使っていない人も多くいます。なぜならECを信頼していないからで、彼らに信頼感を持ってもらえるような返品の仕組みを考えました」

配送はベトナムで最大級の配送会社4社と契約。Sendo.vnの注文数は大量なので、同社の求める質の高いサービスを提供しながらも、一般的な小売配送より低価格だそうだ。

ちなみに、顧客の注文を店に確認するのは、店が取引を承諾しない場合もあるからだ。個人での出店も多いので、例えば注文された商品の「在庫切れ」などもあり、その場合は店がSendo.vnにキャンセルの連絡をするか、直接顧客に連絡する。この連絡で「白い服はないが、黒い服はどうか?」などの提案も活発になっており、ベトナム的なショッピングのやり取りも生まれている。

売買されているのは圧倒的にアパレルが多く、特に女性服が約60%を占める。その他は男性服、アクセサリーやコスメなどで、こうしたファッション系の次にI T機器が売れているそうだ。I T機器の販売率が高いECサイトが多い中で、アパレル商品がトップのSendo.vnは珍しいとMr. Linhは語る。

「アパレルの商品は限りなく多いため、競争が激化し、価格競争も始まっています。お客様もたくさんの候補から安い商品を選べますので、今後もアパレルは売れ筋だと思います」

広告費が収益源 技術力に自信あり

このように同社はECプラットフォームから、出荷、決済、配送、カスタマーサポートまでを提供しているが、出店(サイトへの登録)は無料となっている。収益源は店からの広告費だ。

Sen Do Technologyの社内の様子

Sendo.vnが扱う商品は大量なので、キーワード検索で探す顧客が多い。例えば、「女子 ブラウス 韓国スタイル」などとするとマッチした一覧が表示されるわけだが、広告費を払うと、その商品は集団の中で上位に表示される。また、カテゴリーの上位に表示される。

広告費は一律だが、アクセス数が多い昼間の時間は「競争相手」が多いため、上位に長時間表示されるのは難しくなり、深夜であれば逆になる。そのため、数回分の広告費をも出すことも可能で、すると表示の順位や時間がより優位になる。

「ただ、お客様が望まない商品は表示させません。Sendo.vnはテクノロジーに特化したECサイトであり、ビッグデータのアルゴリズムに基づいて、買手の購入履歴から検索する内容を想定し、同様の商品を提示します。満足される商品の購入が、広告販売よりも優先されます」

SendoはFPTの社内プロジェクトとして2012年に始まり、2014年に子会社のSen Do Technologyとなってマーケットプレイスのサービスを開始した。マーケットプレイスを始めた理由は、9200万人という人口からB to CもC to Cも全国的に大きな売買ニーズが見込めることと、ECの利用拡大。個人でも小規模な事業主でも、多くの人の仕事と収入を増やして、ビジネスがよりプロフェッショナルになるようにしたいという。

「EC市場は経済成長と合わせるように伸びています。伝統的な市場での購入からオンライン購入へと変化しつつある中で、小売全体のEC化率はまだ1%。これが将来は10%になってもおかしくありません」

同社の売上は毎年約3倍で伸び続けており、FPTのCEOであるMr. Truong Gia Binhは、Sendoの取引額は2020年までに10億USDに達すると述べている。また、返品率は店により異なるが全体的に低く、信頼感を得るに従って今後も低下するとし、先進国に比べて長いベトナムの配送時間は、市場の拡大につれて解決できると見ている。

「弊社は4社の日本企業から出資を受けており、事業を始める前には日本に行って、数多くのECサイトを訪問しました。この取材を受けたのも御社が日系の企業だからなのです(笑)」