食を守れ!
“美味しい安全”ビジネス最前線
強度な農薬を乱使用して育てた肉、野菜、魚。原料や原産地が不明な食材や加工食品。
多くのベトナム人がこうした「食」に危機感を感じ、高価でも確かな品質を選ぼうと動き出した。
「食の安全」は既にニッチ市場ではない。
日本有数のレタス産地である長野県川上村。そのノウハウをダラットで開花させたAn Phu Lacueは農地を増やし、野菜を増やし、果物にも挑戦する。日本式農業の安全性と味覚が、ベトナムで広がっている。
シャキシャキレタス各地で話題に
2014年に設立されたAn Phu Lacue(APL)は、日本とベトナムの企業が、両国をつなぐビジネスに共感してスタートした合弁会社。土屋泰統氏が代表を務める。
「川上村のレタスを土産として、ベトナム人の友人たちに食べてもらっていました。評判が良く、ダラットを訪問した際、この地で栽培ができないかと考えました」
川上村の標高は約1300mでダラットの約1500mと近く、気候も類似していた。種子や肥料は日本から輸入し、苗床、種まき、畑の耕しから収穫までを日本のノウハウで実践。ゼロスタートの苦労はあったものの、収穫されたレタスは真に日本のレタスでそれが評判となり、日系のスーパーやコンビニなどで発売されていく。日本ではお馴染みのアイスバーグという品種のレタス「朝霧」(あさぎり)を、コンビニなどで目にした方も多いだろう。
APLは現在ダラットに10 haの農地を持ち、そのうち3haほどで野菜を育てている。2015年11月からはハノイ北西部のソンラ省モッチャウでも、国家予算が付与されるベトナム農民連合と組み、2haの農地で委託形式によるレタスの栽培を始めた。最近ではダラットにおいてキュウリの出荷もスタート。人気の商品はアイスバーグであるが、他のレタスの消費も多い。ダイコン、ハクサイ、キャベツを始め、その他の野菜などの実験栽培もしているという。
「生産量は気候などに大きく左右されます。昨年からは乾季なのに雨が続いていて、生産に響いています。レタスは2日おきに週に3回、1日約5000粒の種をまき、出荷までは2ヶ月半です。ベトナムで苦労することは、新鮮な野菜を届けるための物流の悪さでしょうか」
同社の基準ではA級品、B級品とあり、基本的にA級品を一般市場に出荷して、B級品以下がレストランなどの業務用だ。ただ、ニーズがあればB級品を2つにして市場に出すなどもある。こうしたグラムでの計算は後述のようにベトナムの特徴だが、土屋氏は「玉(個数)で売りたい」と語る。
農場の様子
「朝霧」の市場価格は1玉3万~4万VNDほど。地場のレタスに比べると高額だが、APLはあくまでベトナム人をターゲットにしている。実際、この1~2年で生野菜を食べるベトナム人が増え、購買力も付いてきたため、売行きが伸びているという。また、安全性を求める傾向が強まったことも追い風で、スーパーでのテイスティング(試食会)でも、食べた後にその場で購入する人が増えてきたそうだ。
このような一般消費者向けはハノイとホーチミン市を中心としたイオン、ファミリーマート、Aeon Citimart、Coopmartなど合計約60店舗で販売。他にはレストラン、ホテル、高級食材店などにも卸している。
桃の実験をスタート海外生産を本格化
ベトナムの野菜の価格は重さによって決まるため、良い野菜の基準は「がっちりした重いもの」だそうだ。そのため、農家は収穫を遅らせて大きくなったものを出荷したがるが、それでは味が落ちる場合もあるという。
「我々はオーガニック農法ではなく農薬も使います。それはベトナムの栽培基準『VietGAP』はもちろんのこと、日本の基準に沿った方法を取っています。川上村でも農家により農法は異なりますが、日本式の安全・安心がベースとして出来上がっています」
ただ、ベトナムで安全・安心への意識が高まっても、トレーサビリティの概念は最近始まったばかり。「日本人」だからと信頼度は高くても、今後はどう保証するかが課題となると土屋氏は語る。
同社では昨年6月に北部のサパとモッチャウで桃の実験栽培をスタート。この1月には実験の数をさらに増やし、2年後から少しずつ出荷したいと意欲を見せる。桃以外の他の果物にも実験栽培を広げる予定だ。
一方では、これまで築いてきたスーパー、コンビニ、レストランなどへの販売網を使って、オーガニック野菜や精肉の販売も考えている。精肉は日本のプレミアムブランドの豚肉と、ベトナム農民連合とをつないで始めたいという。
「日本には野菜も果物も美味しいものが多いですよね。ただ、海外展開は日本からの輸出でなく、製造業のように海外で現地生産し、現地の市場と輸出を考えたほうが良いと思います。我々もASEAN諸国への『朝霧』の輸出を考えていまして、そのための国際基準である『GlobalGAP』の取得を予定しています」
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