中間・富裕層が増加する中で、子どもに投資する親が増えている。玩具や服などのモノから、塾や習い事などの教育系、エンタメ施設まで市場は多彩で、ニーズ拡大は必至とみられる。膨張するキッズ市場を追った。

 

キッズ市場の成長に伴い高品質化する文具のマーケット。法人に強みを持つキングジムは数年前から子供・家庭向けにヒット商品を投入し、シェアの獲得を目指している。将来の「キングジムファン」を増やす戦略だ。

日本のヒット商品をベトナムに投入

ベトナムでも日系を初め数多くの企業に愛用されているキングジムの文具。マレーシアとインドネシアにも工場を持つが、ビンズン省の3工場が最大規模の生産拠点だ。日本向けの輸出比率が一番高いものの、同時にシンガポール、タイ、マレーシア、カンボジアなど東南アジア一帯への輸出拠点ともなっており、近年では国内市場にも注力している。

「5年前の赴任時と比較するとベトナムでの売上は10倍以上になり、昨年も30%の成長をしています。ファイルとテプラが法人向けの2本柱で、日系企業だけでなくローカル企業にも浸透しています」

テプラLite

ベトナムや他国の工場では主力商品であるファイルを中心に生産し、ラベルライターの「テプラ」は日本からの輸入だ。代理店を介して小売店に販売しているため、輸入品の場合は輸送コストに加えてその分のマージンが上乗せされる。必然的に商品価格は高くなるはずだが、「薄利多売でも国内シェアを取っていきたい」という意図の下に自社の利益を犠牲にして、日本より10%程安い価格で販売している。

このような戦略は数年前から始めた家庭向け、子ども向けの新商品にも反映されている。同社では日本のヒット商品である「テプラLite」と「ブギーボード」の輸入販売を、価格を抑えてスタートさせた。

テプラLiteは大きさと重さがテプラの半分以下という手のひらサイズで、同社で初めて英語版を作った商品。2014年から、世界で初めてベトナムを含めた数ヶ国で販売を始めた。

ベトナムでは南部の大型ショッピングモールを中心に販売されており、税込みで約120万VNDとベトナムでは高価格でも、中間層や富裕層の学生などがコンスタントに購入しているという。生活必需品という買い方ではなく、「生活の質を高める」ことを目的としているらしく、それはショッピングモールでのデモに集まる子供の反応からも見て取れる。

「発売当初にイオンで子ども向けのコンテストをしました。自分の名前を印刷して持ち物に貼ったり、Congratulationsなどと打ち出してバースデイカードを作ったりと、様々なアイデアが出ましたね。今でもデモをしますが、人が集まりすぎてすぐにテープがなくなってしまうんですよ(笑)」

2016年に発売した電子メモパッドのブギーボードは、よりキッズ市場を意識した商品だ。データの保存機能はなく、電子ボードに文字や絵が自由に描けて、ボタンを押すだけで簡単に消せる。5万回の使用が可能。こうした説明不要の簡便な機能と薄くて軽い本体が人気となり、多彩なシーンで利用されているようだ。価格は税込みで約100万VNDだが、リピートオーダーが続いており、在庫待ちの状態が多いという。

子どもたちをキングジムファンに

今後は国内の小・中・高校生などに向けて、個人用のクリアファイルを積極販売していきたいという。日本やシンガポールなどでは特に新学期の時期に爆発的に出荷する商品なのだが、勢いがないのはベトナムくらいだそうだ。ローカル製品に比べると割高ではあるものの、表紙が頑丈であったり、ポケットの素材を厚くして破れにくくしたり、ローカル小売店での汚れを想定してファイルをビニールで包んだりと随所に工夫を凝らしている。他国での実績があるため、ベトナムの平均所得が上がれば確実に売れる商品と自信を見せる。

ブギーボード

学生向けのクリアファイル

「日本やアジアへの輸出用としても大量に生産しているので価格は抑えられます。現在のシリーズに加え新しいシリーズも追加したいですし、リーフレットのノートや、日本で販売しているキッズ向け商品の輸入も考えています」

法人顧客がメインのキングジムがキッズ市場向けの商品を展開しているのは、子どもたちに「キングジムファン」になってほしいという目的もあるからだ。その動機付けがファイルだけでは難しいので、まずは日本の人気商品を投入して購入してもらい、馴染んだ同社の製品を社会人となってからも使ってもらう。そのためには高品質でありながらも手頃な価格で提供し、市場での存在感を高めていきたいと語る。

「もし、『ベトナムにはないが良いもの』があれば、日本のキングジム本社のネットワークを使って、他社の商品をベトナムで販売することもあり得ます。ベトナムのキッズ市場は発展が確実視されていますし、現在だけでなく子どもたちが大人になってからもキングジムファンのままでいてくれたらうれしいですね」