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ベトナムバイクの代名詞「Honda」 国内販売もグローバル拠点作りも着実に

ベトナムのイメージといえば「バイク」。

その二輪市場で約7 割という圧倒的なシェアを誇るのが、ホンダベトナムだ。二輪市場が伸び悩みを見せる中、王者は新たな打ち手を模索し、ベトナムを海外生産拠点と位置付ける。

足踏み状態の二輪市場 新社長はどう見る?

Honda Vietnam Co., Ltd.
ホンダベトナム 加藤稔社長

「ベトナムの二輪市場は北米、欧州、日本とは全く違う。これらの国でバイクは移動手段であると同時に、趣味で楽しむファン層も確実にいる。しかし、ベトナムでは99%が移動手段。他の東南アジア諸国と比べても際立っています」

今年4月、ホンダベトナム(HVN)に着任した加藤稔社長。前職はホンダモーターヨーロッパの二輪事業担当ディレクターであり、2001年から4年半タイに、2005年から2年弱インドネシアに駐在した経験を持つ。

先進国では高齢化や若者のバイク離れなどで、二輪市場は徐々に縮小しているが、実はベトナムでもここ数年は販売台数が低迷している。ただ、減少幅は小さくなっており、来年は回復するとの見通しも出ている。

「ベトナムの二輪の年間販売台数は世界4位ですが、バイク王国に見えても、保有率では台湾やマレーシアに追いついていません。この10年で、一家に1台から1人1台の時代に変わるでしょう」

実際、同社では「SH125」や「SH150」など高価格帯スクーターの売れ行きがよく、顧客の購買力が衰えたとは考えにくい。一方で、ベトナム人メンバーを中心にした若い男性向けのプロジェクトや、都市部ほどバイクが普及していない農村部の開拓など、新たな戦略も進めている。

また、今後期待する一つはクレジット。同社では伊藤忠商事と提携してバイクユーザー向け盗難保険を始めたが、ベトナムでは保険と同様にクレジット販売も一般的でない。

「タイやインドネシアでは、私の赴任当時でも8割以上がクレジット販売でしたが、ベトナムでは8%程度。信販制度が普及すれば、購入を我慢していた人たちがバイクを買えるようになります。農村部には低価格の『Wave α』をお勧めしたいですね」

コピー製品を撃退した製品 販売店の拡大もカギ

cc_blue低価格で人気となった「Wave α」

この「Wave α」こそが、ベトナムでシェアを拡大してきた象徴の一つである。加藤氏がタイに赴任中、1500USDで販売していたバイクのコピー車が500USDで売られていた。パーツが類似していたので、200USDほどで正規の部品を買って乗せかえれば、それなりに走るようになっていた。つまり、700USDで新車が買えた。

その対策として、品質を保ちながら価格を下げた「Wave 100」というバイクを、タイで700USDで発売した。同じ価格ならばと顧客が殺到し、結果的にコピー車を「駆逐」できたのだが、同じ問題で苦しんできたベトナムに2002年、「Wave 100」を発表しに来たのが加藤氏だった。

SH150プレミアムスクーター「SH 150」

Wave 100は後に「Wave‘ α」というブランドでベトナムで販売され、その後「SHシリーズ」や「Air Blade」といったヒット商品を誕生させていく。そして1997年の生産開始以降、2010年には二輪の累計生産台数が1000万台を、2014年には1500万台を突破するのである。

同社がベトナムでシェアを広げてきた背景には、販売店の拡充もあった。

販売店は文字通りの意味だけでなく、ホンダの品質を担保する正規ディーラーである。国によって販売店の作り方は異なるそうだが、同社は1店舗ずつ販売店を増やし、現在では全国に約660店舗を展開している。

「どんなによい製品を作っても、買ってもらえなければ意味がありません。メーカー保証のよさをわかっていただける人を増やすには、販売店は非常に大事な存在。特に移動手段がメインのベトナムでは重要なのです」

ベトナムを海外第3の生産拠点に

1ベトナムで大ヒットした「Air Blade 125」

ホンダベトナムでは今年、マイナーチェンジを含めた10モデルを新たに投入し、2015年度の二輪車販売台数を200万台とする予定だ。前期の約185万台の中には輸出用の約3 万台が含まれていたが、200万台中には10万台を見込み、輸出も強化する意向である。

10月にはハーナム省で、国内3番目の工場を本格稼働する予定。既に3月末からエンジン部品の生産を始めており、10月から完成車を生産する。

昨年発足したベトナム二輪車製造業者協会の発表によれば、今年5月までの1年間の販売台数で、ホンダベトナムのシェアは69%だった。市場規模の推移にかかわらず、ベトナムでの「Honda」の存在感は揺るぎそうにない。

「ホンダでは現在、中国とタイが海外生産のグローバル拠点ですが、さまざまなリスクや為替の問題、人件費の高騰などから、ベトナムを第3の拠点にしようとしています。国内販売は当然として、グローバルな拠点づくりも、着実に進めていくつもりです」