データ収集と分析から生まれる
「生活者発想」のマーケティング

マーケティング・コミュニケーション戦略立案から実行に至るまで幅広いサービスを提供。さらに、ベトナム人の行動/思想潮流を探るシンクタンク業務なども行う博報堂ベトナムグループ。独自の取り組みや、今後の展望を聞いた。

マーケティングのすべてを
ワンコンタクトで提供

――ベトナムでの事業について教えてください

山口 もともと博報堂のベトナムでの事業は、1995年にタイの駐在員事務所によって活動が始まりました。経済成長に伴い、本格的に日系企業のベトナム進出が増えたことで2002年に博報堂SACを、2012年に博報堂ベトナムを設立し、現在国内のグループ会社は10社にまで拡大しました。マーケティング戦略の立案から、広告制作、メディアバイイング、イベント運営に至るまでワンコンタクトでお客様にサービスを提供するために、2019年はデジタルチームを新設したほか、ベトナム最大規模のマーケティング&コミュニケーションエージェンシーのスクエアコミュニケーショングループを子会社化するなど、グループ内での内製化を進めています。

M&Aなどで新たにグループに加わった企業には日本人スタッフを配置し、研修などでマーケティングや制作に関する知見やノウハウを共有し、日本人リーダーの下で成功体験を蓄積させることで、博報堂のフィロソフィーを浸透させるよう尽力しています。

――独自の取り組みは

山口 日本と同様にマーケティング施策は生活者への深い洞察・理解のもとに生まれるべきだという博報堂グループのフィロソフィー「生活者発想」に基づき、すべてのプロジェクトを推進しています。ベトナムにおける「生活者発想」で欠かせないのが、博報堂のシンクタンクである博報堂生活総合研究所アセアンのベトナムチームの取り組みであり、ベトナム人の生活動向や思考パターンを研究し、収集している“生活者”の膨大な分析データです。2019年10月にはベトナムチーム初の試みとして、「第5回アセアン生活者フォーラム」内で、「ベトナム人のセルフィー(自撮り)」に関する独自の調査結果を発表しました。「ベトナム人は自己ブランディングにセルフィーを使う。そのとき経営者やマーケターにとって学ぶべきブランディング手法があるのでは?」という切り口から各世代の行動特性を分析した内容は、各方面からの反響も大きく、手応えを感じました。

さらに、現在ベトナム人の購買データやメディア視聴データなどを収集し、博報堂ベトナムグループ独自に構築したデータマネジメントプラットフォーム(DMP)の公開に向け、準備を進めています。このDMPに、顧客データを掛け合わせることで、分析・マーケティング施策にさらなる厚みが生まれることが期待されます。

また、日本で博報堂は「マーケティングの会社」と言われます。ベトナムでもそれを踏襲するために、調査からデータ分析、戦略立案までマーケティングに幅広く関わるストラテジックプランニング部門を強化しています。恐らく、ベトナム国内の広告会社では最大規模のチームと言えるでしょう。「生活者発想」と「ストラテジックプランニング」を柱に、オーダーメイドのマーケティング施策を、「情報量×思考量×対話量」を掛け合せて作り上げています。

CAPTION

「パートナー主義」を体現
マーケティングのその先へ

2019年10月のフォーラムの様子。来年以降も独自研究の発表は続けていくという

――ベトナムの広告市場はどう変化していくと考えますか

山口 ベトナムはGDPが同レベルの国と比較し、スマートフォンの普及スピードなど、デジタライゼーションが早いこと、雑誌・新聞などの紙媒体が弱く、テレビとデジタルの影響力が大きいことが市場の特徴と言えます。

個人的にはテレビとデジタルの2強構図は当分の間進み続けると予想しています。総人口の8割がモバイルデバイスを所有しているというデータもあり、今後デジタル広告市場は伸びる一方で、デジタルメディアへの1日当たりの接触時間も増え続けるでしょう。ただ、テレビはなくなるのかと言えばきっとそうはならないはずです。日本では5年ほど前に同様の議論が起きましたが、今日本で何が起こっているかというと、テレビを観ながらツイッター(Twitter)でその感想をつぶやくなど、テレビとデジタルへの接触が並行して行われるのです。ベトナムでも同じく、テレビとデジタルが両立していくという現象が起こるのではないでしょうか。よって、テレビを使ってデジタルで話題を生むことや、屋外メディアをデジタル上で戦略的に話題化させる手法が有効になっていくかもしれません。

モバイルデバイスの普及により、ベトナムの生活者のネット上での行動データが収集できるようになりました。行動特性を分析することで、より効果的な広告の出稿先など、企画にフィードバックができるようになり、データマーケティングがより一層重要性を増していくと思います。さらに、今後電車が走り始め、人やモノの動きが変化すると、広告のあり方が大きく変わるでしょう。

――今後の目標・展望は

山口 いずれはマーケティングのみならず、お客様の事業パートナーとして、経営戦略からコミュニケーション施策まで一貫して関わっていきたいと考えています。企業の課題を整理し、方向性を示した上で、効果的なコミュニケーション施策を説得力を持って提示できることが、ストラテジックプランニングに長けた弊社の強みだからです。そうなると、ゆくゆくは広告会社に限らず、経営・ITコンサルタント業界が競合となることが予想されますが、ベトナムのマーケティング・コミュニケーション市場の変革の旗手になっていきたいですね。

COMPANY INFO
株式会社博報堂のベトナム拠点として2002年に博報堂SAC、2012年に博報堂ベトナムが設立。現在グループ会社はベトナム国内に10社。マーケティング戦略の立案から、テレビCM・デジタルなどの広告制作、メディアバイイングなどすべてのサービスを一貫して提供している。
山口 銀太
Ginta Yamaguchi
1987年生まれ。2009年株式会社博報堂に入社。広告制作領域のほか、商品開発やブランディング、マーケティングストラテジー立案などを担当。2016年に渡越し、2018年より現職。博報堂生活総合研究所アセアンベトナムチームの代表を兼任。