撮影・文/杉田憲昭(GRAFICA)

安心・安全の牛肉製品を提供し
新たな食文化と健康を創造する

双日とベトナムの大手乳業メーカーであるビナミルクグループにより2021年に設立された「ジャパンベトナムライブストック」。牛の肥育から販売まで一貫して行うことで高品質な牛肉製品の提供を目指す春本洋一氏に、新事業への思いを尋ねた。

ビナミルクとの
シナジー効果で畜産業を改革

――合弁会社設立の経緯を教えてください。

春本 パートナーの「ビナミルク」とは、もともと双日グループの飼料事業会社を通じて接点がありました。ビナミルクは大手乳業メーカーで、ベトナム全土で15〜16万頭もの牛を管理しています。しかし、乳製品に必要なのは牝牛で、雄牛は主力商品ではありませんでした。
 
そこで雄牛を単なる牝牛が生む副産物とするのではなく、大切に育てることで肉牛としての価値が生まれるのではと考え、協力して会社を立ち上げることになりました。
 
双日が日本で培ってきた知見を活かすことができるのも大きな利点です。双日には畜産関連の複数の企業が加盟するアライアンス「ミートワン」があり、畜肉の原材料調達から加工・物流・販売などのノウハウを結集させ、日本や世界の消費者に向けて競争力のある価格で畜肉加工品を提供してきました。その経験とビナミルクが持つ広大な販売網とブランド力、安定した素牛供給能力を組み合わせることで、高い相乗効果が生み出せると考えています。

――ベトナムの畜肉市場の現状や特徴を教えて下さい。

萩生田光一経済産業相と訪日中のファム・ミン・チン首相の立ち会いの下、2021年11月に双日とビナミルクが肉牛飼育・牛肉製品の加工販売の覚書を交換

 
春本 ベトナムの牛肉は、約7割が伝統市場で、残りの3割がスーパーマーケットやコンビニ、オンラインショップなどで取り扱われています。ほとんどがオーストラリアやインドなどから生後8〜10ヶ月の成体を輸入したもので、数ヶ月間ベトナムで育てた後に加工して販売されます。
 
しかし、牛自体が丁寧に育てられたものではない上、市場に並ぶのは衛生管理が行き届いていない屠畜場で加工され、冷蔵せず生温かい状態で輸送されたもの。加工後すぐに出荷されるため「鮮度が高い」と好まれていますが、産地や工程に対する消費者の関心は薄く、品質や衛生管理の基準が日本と大きく異なっているのが現状です。
 
一方、都市部では既に6割ほどがモダントレードを通じて購入されていて、梱包された衛生的な牛肉が好まれるとの調査結果もあります。そのため今後はよりモダントレードの比率が高まり、安心・安全といった付加価値の高い牛肉が求められるのではと思っています。

双日グループとビナミルク、パートナー各社の知恵を結集させて事業を進める

一貫工場を建設し、良質な
牛肉製品でベトナムに貢献

――推進中の事業内容や特徴・強みを教えてください。

春本 まず、ベトナム北西部のヴィンフック省に、牧場・屠畜場・加工場がそろう一貫工場を建設します。2022年の夏頃から建設を始め、2023年の夏頃に操業開始を見込んでいます。早ければ、その時期からベトナムで生産した牛肉製品をお届けできる予定です。日本基準の品質・衛生管理を徹底し、日本の技術で加工します。
 
たとえばベトナムは現在、牛海綿状脳症(BSE)の清浄国として認定されておらず、弊社では日本の管理基準に沿ってリスクのある牛については全頭検査も行います。
 
さらに生産だけでなく、ビナミルクの持つ物流・販売網、「イオン」や「シティマート」、「ミニストップ」などパートナーの小売各社や大手ホテル・レストランと連携することで、一貫したバリューチェーンを構築。生産場所や工程の追跡まで可能な安心・安全の製品をご提供していく予定です。
 
とはいえ、自社での生産にはまだ少し時間がかかるため、その前に日本の国産牛の味や美味しさを知ってもらう試みを始めました。2021年末から販売を開始した「ユキビーフ」もそのひとつです。小売各社での販売のほか、1月にはホーチミン市のステーキハウス「イルコルダ」などでも、素材の味を活かした独自メニューを提供しました。
 
ベトナム産の牛肉については、より手頃な価格を検討していますが、品質は日本の国産牛と同等を目指しています。しかも、国内で生産するため、輸入品と比べて価格変動をマネージしやすいと思っています。
 
ただ、重要なことは価格競争ではなく、選択肢があること。日本でもアメリカ産と和牛では用途が異なるように、牛肉には様々な種類があることを知ってもらい、日本基準で作られたベトナム産牛肉を新しい文化としてご家庭に受け入れてもらえれば嬉しいですね。

――今後の展望を教えてください。

北海道から輸入した国産牛「ユキビーフ」。程よく脂が乗った柔らかな肉質が特徴

春本 ベトナムは今後、経済成長と所得の向上に伴い、食文化や消費・購買様式が変化し、牛肉の需要が高まっていくと考えています。
 
具体的には和食や洋食といった食の多様化や食品安全に対する意識の向上、伝統市場からスーパーなどへの購買シフトなどです。
 
かかる市場の変化を捉え、衛生基準や美味しさ、調理法など様々な観点から、ベトナムの人々のニーズに応えるマーケットイン志向で、この地に新しい食文化を創造できればと思っています。
 
一方、生産面では将来的に東南アジアや日本を含めた諸外国へ輸出ができればと考えています。そのためにはまず、ベトナムでナンバーワンのミートパッカー事業社となることが目標です。
 
タンパク質は三大栄養素のひとつ。その安定的な供給体制を確立することで、食の側面からベトナム、ひいては東南アジア地域の持続的な発展に貢献できればと願っています。

 

COMPANY INFO
ベトナム大手乳業メーカーのビナミルクグループ傘下の「ベトナムライブストック」と「双日」の合弁会社として設立。日本の技術を用い、ベトナム国内で持続的に畜肉製品を生産・販売することで、安心・安全な食の供給への貢献を目指す。
General Director  ゼネラルダイレクター 春本 洋一
YOICHI HARUMOTO
アジアでのプラント建設や通信インフラ事業に携わった後、インド駐在や米国MBA取得を経て再生可能エネルギービジネスに従事。2020年より双日ベトナムにて食肉事業開発の現場責任者として勤務し、2021年から現職を兼務。