環境に配慮した設計・施工で
新たな価値の創出を

2021年11月、大成建設はハノイで大型オフィスビルの着工を発表。設計・施工は同社100%出資のベトナム現地法人「ビナタインターナショナル」が担当する。代表の太田耕司氏に、これまでの歩みや新規事業の特徴、今後の展望を聞いた。

下請けから元請けへ
地場ゼネコンへの変革

――御社の沿革を教えてください。

太田 ビナタインターナショナル(ビナタ)は1993年に大成建設(大成)とベトナム建設省傘下の国営総合建設会社であるビナコネックスによる合弁会社として設立されました。ベトナム国内における日系顧客の大型建設工事案件における大成の下請業者(サブコン)、中小規模工事案件の元請けとして設計・施工を担っていました。
 
2007~2008年にはベトナムにおける日系製造業の建設投資ブームに伴って、売上規模を大幅に拡大させました。途中、リーマンショックの影響を受けながらもその事業規模は順調に拡大推移し、設立当初の「元請け=大成、下請け=ビナタ」から、発注者から直接工事を請け負う、いわゆる「元請化」が進みました。
 
2017年にベトナム国営企業の多くが持分整理を進め民営化が進む中、ビナコネックスより持分譲渡の申し入れがあり、当社はこれを受諾。大成の完全子会社となりました。
 
今日現在までビナタの施工実績としては日系の製造工場を中心に、サービスアパートメント、ホテル、工業団地の造成・インフラ工事、オフィス内装工事など多岐にわたり、また大成が元請けした大型開発援助型案件の側方支援的な参画も含め、ベトナム国内を中心に建設工事に携わった案件は約500件に及びます。
 
1993年の創設から最初の約15年間は大成建設からビナタへの社員の出向はほぼなく、ベトナム人のビナタプロパー社員を中心に構成されていましたが、将来性豊かなベトナムにおいて事業を継続・拡大し、施工済案件などへの質の高いアフターケアを推進し、より高い顧客満足を獲得し続ける為に、大成建設の下請けとしてではなく、当社を元請けとして地域密着型の設計・施工の促進という方針へと舵を切りました。その結果、2007~2008年頃から元請化、2017年の大成建設の完全子会社化の流れとともに、大成建設の社員がビナタに出向。ビナタの組織の中から建築・設備・設計・管理の各部門における中核として機能する現在の体制へと変革を遂げてきました。

――御社の強みは何ですか?

ハノイ・カウザイ区に2024年竣工予定の「大成ハノイオフィスタワー(仮)」。日本品質のワークプレイスを提供する

 
太田 大成建設の強みはそのままビナタの強みであると考えます。大成建設グループの強みのひとつに「生産施設エンジニアリング」があります。具体的には、食品工場、医薬品工場、半導体工場では、用途に応じて最適なクリーンルームを実装する必要がありますが、ビナタは大成建設本体の設計・施工・エンジニアリング部門と相互連係して速やかにプランを提示し、大成建設グループ全体の様々な実績を背景に、短工期でお客様のニーズに応えることができます。
 
お客様が設計、設備、搬送装置などを別途発注した場合に必要となる性能・品質・工期・コストの管理、コーディネーションは大きな負担となりますが、弊社は大成クオリティーを確保しつつワンストップで実現します。これはコストの削減、工期の短縮、責任の一元化にも繋がり、お客様にとっての大きなメリットであると考えます。ビナタはベトナムにおいても、日本品質の最適なソリューションの提供が可能です。

 ハノイ市内に新たな
ウェルネスオフィスを

――――新事業「大成ハノイオフィスタワー(仮)」の特徴を教えてください。

太田 本事業は、地下4階、地上20階建て、延べ床面積は約4万6000㎡のオフィスビルです。

日系製造業工場案件の他、近年はビル物案件に取り組むなど、設計・施工を手がけた施設は多岐にわたる。写真は東京健康科学大学ベトナム

 
日本とベトナムの建築物は至る所に大きな違いがあります。本事業の事業主である大成建設の開発部隊がハノイの主要オフィス約30棟を調査し、日系テナントのニーズを踏まえて計画を行いました。
 
コンセプトは「日本品質の快適なワークプレイスの実現」。具体的には、ベトナムではセントラル空調が一般的ですが、利用者自身で温度設定が可能な個別空調を採用しています。また、温水洗浄便座やパウダーコーナーを設置したドアレス設計のトイレなど、共用部分の快適さも追及しています。窓面はハイサッシを使用しているため眺望が良く、オフィスにいながら開放感を感じられます。人がいない場所の照明が自然に消える感知センサーやLED照明など、環境配慮型の設計も特徴です。また、アメリカグリーンビルディング協会が環境性能を認定する「リード/LEED」の取得も目指しています。

――今後の展望を教えてください。

ホテル機能を兼ね備えたサービスレジデンス「ロイジェントパークスハノイ」。日本式の大浴場など、設備が充実。最近では日本人以外の入居者も増加している

太田 2014年、大成建設は技術センターに、建物単体で年間の1次エネルギー収支がゼロになる「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)実証棟」を完成させました。これはビルが集中する都市部に建設する建設物のZEB化を目指し、技術開発を推進するものです。ベトナムにおいても環境に配慮した設計・施工に積極的に取り組み、事業セグメントの拡充を行いたいと考えています。
 
現在、大成建設はベトナムを海外事業における最重要拠点と位置付けており、「事業規模の更なる拡大&安定継続」は大成建設とビナタにとっての最重要テーマです。その為、より柔軟な施工リソースの確保、案件母数の拡大を狙って、2018年には地場大手ゼネコンとのアライアンスも開始しました。
 
以前は日系製造業のお客様の工場の設計・施工案件が売上の大部分を占めていたのに対し、近年では病院、サービスアパートメント、ホテルなどの新たなセグメントで着実に成果をあげており、事業の幅に広がりを見せています。このような現状と大成建設・ビナタのベトナムにおける将来を見据え、日本人社員はもちろん、ベトナム人社員へのノウハウや技術を伝承していくことも重要なテーマであると感じています。
 
例えば、製造工場の建設工事のマネジメントを任せられる社員がいたとしても、その社員がホテルを同じように任せられる、というわけにはいかない場合が多く、建物の特性に応じた経験とスキルが必要です。選抜された数名のベトナム人社員に対して日本の大成建設でOJT研修を行うなどの取り組みを実践中である一方で、ベトナムにおいても日頃から安全性や品質管理のノウハウなど、大成建設の研修プログラムを活用して施工管理の仕組みを学ばせるという取組みの継続が着実に成果を上げてきています。これらの取り組みにより「更なる事業の拡大・継続」、「技術・ノウハウの伝承」の実現を目指しています。

 

COMPANY INFO
1993年、他日系ゼネコンに先駆け、大成建設がビナコネックスとの合弁会社として「ビナタインターナショナル」を設立。2017年8月に独資化(大成建設100%)を完了。日系企業の工場、ビル、事務所、教育施設などの建設工事を手掛ける。
General Director 代表 太田 耕司
OTA KOJI
1989年大成建設入社。大成建設横浜支店の開発、複合商業施設、病院建設プロジェクトなどの建築工事作業所長、本社建築総本部、国際支店建築部工事部長などを経て2019年現職に就任。