日本で危ぶまれる介護事業継続
海外人材・進出で明るい未来を

日本で介護付き有料老人ホームなどを運営する「ケア21」。2019年2月からベトナム人実習生の受け入れを開始し、2020年11月にはハノイに子会社「ケア21ベトナム」を設立する。これまでの実績や今後の展望について、現地代表の中谷氏に聞いた。

日本で活躍する実習生たち関わり方、勤勉さが優秀

――ベトナム人実習生の受け入れを開始した理由を教えてください

中谷 日本国内は介護人材の不足が長年続いている状態で、経済産業省の試算によると、2035年には約79万人もの人材不足が予想されています。人口の減少に伴い、高齢者数もですが働き手も減っていくことが明らかなのです。人材の確保に向けて日本だけに絞っていては難しいと感じていたところ、日越経済連携協定(EPA)によって2014年から介護福祉士候補者の受け入れが認められたことで検討が始まり、2017年11月には技能実習制度に介護分野が加えられた事もあり、受け入れを開始しました。

――実習生の日本での様子はどうですか

中谷 現在は当社が複数展開している事業施設の中でも、介護付有料老人ホームに絞って各施設に約2人ずつ派遣しています。ご利用者さまからの評判はとてもよいですね。ベトナム人は本当に勤勉で、日本語の勉強はもちろん、技術や知識を習得するのがとても早いです。中には食事を摂ることが難しいご利用者さまに、技術が必要な食事介助を上手にできる人もいます。

ベトナム人実習生の在籍数は36人。彼らの努力、勤勉さを見て、日本人従業員はよい刺激を受けているという

また外国の人が珍しいこともあって、どういう風に働いているのかが気になってわざわざ見に行ったりする方もいらっしゃいました。実習生の語学習得の速さは素晴らしく、関西弁を使って話かけてくれるので、ご利用者さまとの距離がグンと縮まり、アイドル的な人気を持っている実習生もいます。

ベトナム人は人と人との関わりをとても大切にしている人が多いと感じています。介護業界は離職率が高く、異動も多いので、担当が変わる、仲間が変わるといったことにとても敏感です。それくらい人に対する思いが強く、人見知りの気質がありつつも、情に厚く愛情深いところがあり、長く働きたいと言ってくれる人も多いですし、ご利用者さまとの関係を長く続けたいという思いは日本人よりも強いと感じています。

――今後の課題はありますか

オフィスはプライムセンターに入居。利用者が笑顔で暮らし、その家族が安心できる介護サービスを提供していく

中谷 個人差はありますが、大きくはやはり日本語の習得でしょうか。話し言葉もですが、文字の読み書きが難しく苦労する人がいます。また、運営側としても体制が変わると不安にさせてしまうことがあるので、そのようなことが極力ないようにしていくのも課題だと感じています。

今はコロナ禍の影響で実習生の受け入れが停滞してしまっていますが、来年、再来年に向けて採用の計画は進めています。現在は老人ホームのみへの派遣に留まっているところを、今後は認知症対応型グループホームへの配属も開始しようと考えていて、どのようにして彼らの活躍の場を広げていくか、詳細を詰めていく必要もあります。

日本式の介護事業を展開
実習生の受け入れも準備

――ベトナムで子会社が設立されます

中谷 私が直接、現在の当社グループ代表取締役社長からその計画を聞いたのが3年ほど前になります。先述の通り、日本国内は高齢者を含め人口が減少傾向にあり、もちろん介護事業も縮小していくでしょう。その中でこの先の10年、20年を考えた時、会社として長く活躍していくには海外への進出が必要不可欠だと考えました。

ベトナムは経済の成長率が高く、日本のそれを越す勢いもあります。また、ベトナム人実習生の受け入れを通じて、彼らの性格の優しさ、介護の実践能力などを見て、ベトナムという国で事業を展開していきたいと感じました。

ハノイに決めた理由は、政治・経済の中心地であると考えたからです。ベトナムには日本の介護保険制度のような仕組みが存在せず、介護施設に関するライセンスの種類が少ない状態です。これからビジネスモデルを作っていく上で、国の制度改正に対し柔軟かつ迅速に対応していくことを考慮すると、政府の主要機関との協議もあると考え、首都がベストだと判断しました。

――子会社設立後の計画を教えてください

中谷 ベトナム人実習生が働いている日本の老人ホームに近い状態の施設をベトナムでも設立すべく、まずは施設の物件探しなどから開始する予定です。

施設の箱だけであればお金をかければ簡単に作れますが、人材はそうはいきません。技能実習生として来日した1期生は2022年2月までの勤務なので、もし希望者がいればベトナムへ帰国後も、日本で培った技術や能力を発揮できるよう彼らの力を借りて、施設の運営を行っていきたいと思っています。

――今後の目標は何ですか

中谷  介護施設の運営は当社の力だけでなく、ベトナムの皆さまの力を借りながら成功させたいと思っています。介護にまつわるサービス、例えば食事や福祉ケア用品など、日系企業の皆さまとも協業できるところは積極的に繋がっていき、ベトナムのために何ができるのか知恵を集めて、日本のいいところを一緒に形にして広げていけたらうれしいです。

COMPANY INFO
大阪市に本社を置く「ケア21」は、訪問介護や看護のほか、介護付有料老人ホーム、認知症対応型グループホーム、認可保育所などさまざまな事業を日本全国で展開。2020年11月に海外子会社「ケア21ベトナム」を設立し、介護施設の開設・運営などを行っていく。https://www.care21.co.jp/
Deputy General Manager 副社長 中谷 鉄平
TEPPEI NAKATANI
1975年生まれ。大阪府東大阪市出身。2003年より「ケア21」の登録制訪問ヘルパーとして勤務。その後正社員となり、営業マネジャー、海外事業推進課次長などを経て、2020年11月のベトナム子会社設立に伴い、現地代表に就任する。