撮影:大池直人

人気歌手から実業家へ転身
制作映画が大ヒット

人気歌手だった青年は、早くから事業家だった。顧客ニーズを探り、ブランド戦略を展開。音楽界に新風を吹き込んだ。この才覚を武器に実業界にも進出し、一人4役を務めた映画『正体の暴露』は今年の大ヒットとなった。

Ly Hai リー  ハイ
1968年、ミトー生まれ。ホーチミン市映画演劇学校で演出を学び、卒業後に歌手に。2000年にアルバム「Trọn Đời Bên Em」がヒット。金属製タンクの製造会社など数社の事業を手掛け、昨年から映画製作に進出した。

物語性のある歌とMV 斬新さがブームに

Ly Hai リー ハイ
「日本には子どもの頃から憧れていて、今まで8都市に行ったことがありますよ」

笑顔で話すHai(ハイ)氏はメコンデルタ、ミトーの出身。「決して豊かでなかった」という少年時代を過ごし、ホーチミン市映画演劇学校の演出科へ。しかし、卒業後は俳優でなく歌手を目指した。当時は映画・演劇産業が発展途上で、エンターテイメントの中心は音楽だったからだ。

「移動の手段は自転車、家賃は6万VND。その家賃すら払うのが大変でした。歌手活動は夜がメインだったので、昼間はダンスのコーチや駐輪場係などのアルバイトをしていました」

そんな雌伏の時代を経て、2000年に出したアルバム「Trọn Đời Bên Em」(永遠に君のそばに)がヒット。これには工夫があった。当時のベトナムのミュージックビデオ(MV)は、歌手がただマイクの前で歌うのが普通だった。そこで彼はアルバムの10曲をストーリー仕立てに展開し、MVはその内容に合わせてドラマ風に撮影。その斬新さがブームとなった。

「小さな家を持っていて、それを元手にアルバムを作ったのですが、ヒットですぐに借金を返せました(笑)」

歌手と並行して、1990年代後半から不動産の売買を開始。この投資で増えた資産も、彼のその後のビジネスを支えた。

例えば、大型金属タンクの製造会社。兄がタンク業界の会社にいたのだが、彼が出資をして支援。同社は現在、タンビン工業団地内にあり、20年以上も事業を続けているという。

新たな会社も作った。家屋を壊して土地を更地にする事業で、親友に資金を提供すると同時に、自分のネットワークで案件を広げていったという。

また、昨年からロンアン省に広大な土地を購入して、農村に市場とそのための施設を建設中。同地域には市場がなく、農民が不便を感じているのを知って、政府に働きかけたそうだ。

顧客ニーズの集大成 映画2作目が大ヒット

家族と一緒に
歌手活動では、同名のアルバムをvol.1、vol.2…と毎年リリースし、好評のうちに2010年のvol.10で一旦終了。

その後は映画業界に進出した。何人かと資金を出し合い、初の制作映画『なくなった秘密』(Bí Mật Lại Bị Mất)を昨年公開。Hai氏がプロデューサー、監督、シナリオライター、主演の4役を務めた。ただ、「残念ながら、あまり利益は出なかったですね」。

今年は自己資金で2作目の映画を制作。やはり一人4役の『正体の暴露』(Lật Mặt)を5月に公開し、ベトナム映画の興行収入トップ10に入るヒット作となった。資本金約100億VNDに対して、現在(6月の取材時)までに約700億VNDの売上があったという。

「アルバム10枚とそのMV、最初の映画、これらから得たお客のニーズと好みを、全てこの映画に注ぎ込みました」

今年末にはベビー用品のブランドを立ち上げ、妻に運営を任せるという。彼の妻はイギリスの大学院で法律を学んだ才媛で、長男(4歳)、長女(2歳)、次女(5ヶ月)の3人の子どもがいる。

「これが私の略歴です。芸能人でなく、SKETCHPROに合わせたビジネスマンとしてのね(笑)」

趣味は買物と旅行 食事はブッフェが好き

映画『正体の暴露』のポスター
成功者である彼に収入を聞くと笑顔でかわされた。それでも、と聞き直すと、その代りに教えてくれたのが「長男」の年収。その額は約12億VND(約5万5800USD)。乳製品大手「ダッチレディ」のブランドキャラクターを務めているという。2人の娘は紙おむつのブランドイメージとなっているそうだ。

「子どもの服や靴、ミルクまで、企業が無料で提供してくれています。これらを使った写真をFacebookに載せると、広告効果があるからね」

お金を使うのは主にショッピングと旅行。ショッピングは服、靴、アクセサリーなどだが、他の芸能人のようにブランドにはこだわらないという。食事は高級レストランばかりでなく、路上店にも行くそうだ。

「以前は友人と路上店に行って、5人で100万VND使っていたけど、今は1人100万VND払ってブッフェに行ってるよ。ホテルニッコーサイゴンのは最高だね」

海外旅行には数多く出かけている。アメリカ、アジア、ヨーロッパに合計何十回も出かけており、近い国なら3~4日、日本なら10日、欧米なら半月ほど滞在するという。ホテルは5つ星か、最低でも4つ星。家族同伴なので、子どもの遊び場やプール、レストランの充実が条件となるからだ。

「昔は皆、食べ物と着る物があれば満足していた。それが今では、美味しくて、格好良くないと受け付けない。やはり商品やサービスは需要に合わせて水準を上げないと」

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