統計総局以外には主要な調査データがないベトナム。市場調査は主に民間の調査会社が引き受けており、新規参入も増加中だ。
一方で、調査手法や得意分野、調査結果も個社で異なる。
今のトレンドは何か?ベトナムではこれから、何が流行るのか?

Dream Incubator Vietnam JSC.

地道な調査から
大きな戦略が始まる

ベトナム大手企業に向けた投資ファンドの運用、日系大手企業やベトナム政府などの戦略コンサルタント、マーケティングなどを行うDIベトナム。

市場調査は顧客の要望に応えるための手段であり、調査は「足で稼ぐ」のが基本という。

農業大国へ戦略作り1年

General Director 細野恭平氏
「日本には市場データが豊富にあるので、戦略コンサルタントが知識で勝負できる時代は終わりました。今は、顧客だけでは思いつかないような鋭いインサイトが求められます。そのため、複数の産業・企業を融合して事業を新たに作る、ビジネスプロデュースのようなアプローチを提案します。例えば、グーグルやテスラが参入する自動車市場で自動車メーカーはどう戦っていくのか、といった難しいテーマが日本では多い。

しかし、まだデータも未整備なベトナムでは、我々の役割はより伝統的な知識で勝負できる段階です。ただ、どうしたら日本企業が参入できるかに知恵を絞る必要があります。例えば、ラムドン省の農業プロジェクトです」

ダラットのある同省はベトナム中部の農業地帯。ここで今、同省人民委員会とJICA(国際協力機構)の主導の下、同省を「東南アジア一の高付加価値農業エリア」にする計画が進んでいる。調査と戦略を主に担当したのが同社であり、調査には約1年を掛けたという。

その結果、同省の主要農産品はコーヒーやお茶など大きく5つあるが、優位性の高いのは野菜と花卉と判断。共に国内で高い認知度とブランド力を持ち、日本での生産量が減少しているものだ。つまり、ベトナムでの販売拡大だけでなく、日本への輸出も見込める。日本が輸入している加工野菜の競合国は中国だが、安全性や信頼性に乏しい。同様に切り花の競合国はマレーシアやコロンビアであり、前者は土地拡大の余地が限定的で、後者は距離が遠いというネックがある。ベトナムにチャンスあり、なのだ。

「日本企業もビン・グループなどのローカル大手も続々参入しており、ラムドン省には農業の一大ムーブメントが起きています」

足で集めた現実の姿

同社では、調査は「足で稼ぐ」のが基本だ。約15人のベトナム人スタッフが現地でのインタビューなどで情報を集めている。調べるテーマを設定して、それを元にマネジャーが調査内容を設計。社内ミーティングが週に1~2回あり、各分野を受け持ったスタッフが結果を発表し、議論し、次の方向を決めて調査を再開する。

「弊社は調査会社ではなく戦略コンサルタントですので、調査は顧客の戦略を作るための手段という位置付けです。戦略仮説を立てて、それをサポートするため、どのようなデータを取りに行くべきかを考えます」

ラムドン省の調査からは意外な現実が見えてきた。例えば、ダラットの野菜は高品質であると、ベトナムの多くの消費者が考えている。表のように調査でも、97.5%の人は野菜購入時の最重要要素は「産地」と答え、中国産の野菜は敬遠されている。しかし現実には、産地を特定できた人はとても少なく、市場は中国産野菜で占められている。

また、ラムドン省で最も生産が盛んなバラとキクへの設備投資に関する調査も興味深い。高品質なグリーンハウスは栽培密度の上昇、農薬使用量の削減、人件費減などのメリットがある。結果として、高品質な製品を使えば、売上は9~10%の拡大、コストは5~7%の削減が見込まれるという。しかし、ほとんどの農家は、安価な低品質のハウスを選ぶ。

「農民が高品質の設備投資をするためには、農業金融の制度から変更していく必要があります。現状を考えると、設備の高度化は難しいでしょう。ラムドン省には多くの課題がありますが、それを解決するのも弊社の仕事です」

伝統的業界にもチャンス

同社はベトナム企業向けの投資ファンドで、大手4社に約50億円を運用している。運用先を決めるまでに600~700社を訪問。企業の財務、経営、人材などを調べる過程で各業界に精通していったという。

そんな同社によれば、「伝統的な業界でも新規事業のチャンスはある」。例えば、細野氏の友人であるモバイル・ワールド・インベストメントの創業者が始めたのが、女性靴専門のECサイト「JUNO」。

「ベトナムは縫製業が盛んですが、販売されているのはブランド物と安価な中国製がほとんど。ならば、ベトナムで作ったベトナムブランドを売ろうと思ったようです」

製造から販売まで一貫して行い、販売はネットのみ。1足30万~40万VND程度で、バッグなど小物も販売。製造工場を持つ企業は多くても、こうした形で内需を狙う手法は珍しいようで、隙間を狙った新ビジネスだ。

「ベトナムに限らず成長中の新興国に共通したことですが、市場データが不十分で、外資やローカルに競合が多い国でのビジネスは難しいものです。その中で成功するには、自社の差別性を徹底的に明確にすることが大切になります」

グラフ出所:JICA「ベトナム国ラムドン省農林水産業及び関連産業集積化にかかる情報収集・確認調査」((株)ドリームインキュベータが受託)