進出する日本・日系企業を支援する日本貿易振興機構(JETRO)ホーチミン事務所。どのような活動をしているのか、専門家はベトナムの現在と今後をどう見るのか。昨年6月に赴任した滝本事務所長が語る。

JETROの主たる3事業

事務所長 滝本浩司

―― 御事務所の事業内容を教えてください。

滝本 主に3つありまして、日本からベトナムへの対越投資、日本からベトナムへの対越輸出、ベトナムから日本への対日投資を促進させることです。対越投資では日本の中小企業のベトナム進出支援が中心です。海外進出が初めて、専門スタッフがいないなどの企業も多いですから、視察や相談に来る企業さんに情報提供、通訳や不動産の紹介、人材派遣などを行っています。

ただ、年商数百億の企業から家族経営の会社まで千差万別ですから、例えば前者には政府や税関の実情を伝え、後者にはマーケティングのアドバイスやバイヤーを紹介するなどと分かれます。ベトナムに限りませんが、「新輸出大国コンソーシアム」という専門家による個別支援サービスも行っています。

―― 進出を希望する企業は増えていますか?

滝本 はい。日本の人口減が始まり、特に地方都市では顕著になると言われる中、新たな市場を海外に求めたり、ECで国内外に商品を販売する動きが始まっています。現在、進出を相談される企業に多いのは消費財業とサービス業です。前者の例では、OEMメーカーさんが自社ブランドで、ベトナムでの製造・販売を始めたいなどがあります。進出後の企業サポートも行っていますが、こちらは製造業が多いですね。


METALEX VIETNAM 2016で講演する滝本氏

―― 対越輸出とはどのような内容ですか?

滝本 特に日本の食品と農林水産物の輸出支援に注力しています。昨年11月に開催した日系小売りさんと連携した「ジャパンフェア」もその一環ですし、2月19~21日にはホーチミン市で日本の水産品の商談会を開きます。日本のサプライヤーに現地のバイヤーを紹介するような、マッチングの場を広げていくつもりです。日本政府の成長戦略として、日本の食品と農林水産物の海外輸出額を2019年に1兆円にする目標があります(2015年は7451億円)。政府と一体となって強く推進したいと思います。

最後の対日投資はまだ始まったばかりですが、ベトナム企業の日本進出支援です。例えば、IT大手のFPTは日本に支社がありますが、ベトナムの優良企業にもっと日本に進出してほしいのです。昨年7月にハノイで対日投資セミナーが開かれましたが、来年度には南部でも開催したいと考えています。

ベトナムの課題と有望分野

―― ベトナムの裾野産業をどう思いますか?

滝本 地場企業を何社か訪ねた程度ですが、日本製の工作機械など優良な設備を導入したり、高い技術力を持つ企業が意外に多いのです。ただ、全般的に品質管理とコストへの意識が弱いようですので、マネジメント力を上げる必要があると感じました。また、3Sや4Sは実施していても、そもそもの意味が分かっていない企業もあり、これらを解決できれば将来性はあると思います。

裾野産業の育成はもちろん大切ですが、裾野の頂点を高くする施策も重要だと思います。高くするほど裾野は広がり、必要とされる企業が増えるからです。一方では、ベトナムには労働集約型の産業が多いので、付加価値の高い産業を育てることも課題です。

これらを解決するカギのひとつが自動車産業です。自動車産業は裾野が広く、サプライヤーが切磋琢磨しながら競争するので、大きな付加価値を生み出します。2018年から輸入関税ゼロが始まるので、心配な部分はありますが。

―― 中間層が増加し、個人消費も上がっています。

滝本 発展する都市部の豊かさへの対応は、量は足りているので、今後は選択肢が増えてくると思います。品質や種類が多彩になり、深夜営業のコンビニなども増えているので、物でもタイミングでも「選ぶ楽しさ」を提供する企業の参入が多くなるでしょう。

一方、地方では都市部との経済格差が大きな課題になりそうです。ベトナム政府の人によく、「日本のハイテク農業を導入したい」と言われるのですが、実際に農業分野は発展の余地が大きく、政府や各省も積極的です。JETROホーチミンでも、日系食品関連企業の事業展開のために情報共有や意見交換を行う「海外連絡協議会」を支援しており、種、肥料、農業機械、生産者など農業系の日系・日本企業が56社集まっています。

―― これから進出する企業にアドバイスを。

滝本 サッカーで言えば、ボールにからんでいては中々勝てないので、「空きスペース」に駆け込むことが大切だと思います。競合が多い大都市ではなく地方だったり、製造業など業界では進出企業が少ない分野などです。そうした空きスペースをご紹介して、支援するのが、我々の最大のミッションなのです。

KOJI TAKIMOTO
Chief Representative 事務所長
滝本浩司

1967年生まれ。大学院修士課程修了後、1991年に通産省(現・経済産業省)に入省。機械情報産業局宇宙産業課課長補佐、外務省チリ共和国大使館一等書記官、中小企業基盤整備機構経営支援部長などを歴任し、2016年6月より現職。