1995 年にベトナムに進出し、今年で20 周年を迎えたトヨタモーターベトナム。その存在感は大きく、今年1 ~ 6 月の新車販売台数は2 万3000 台強、外資系企業ではシェアトップの約45%(乗用車)だ。
丸田社長が戦略を語る。

南部と北部で異なる志向 トヨタが人気の理由とは

代表取締役社長 丸田喜久
撮影:勝 恵美

―― 新車販売を教えてください。

丸田 小型セダン「ヴィオス」がよく売れています。昨年は1万台を超え、今年も6月までの半年で6000台を超えました。昨年3月に新型モデルを出して商品力がアップしたことも理由でしょうが、新規、個人のお客様が多いことから、中間層の拡大も感じています。

―― 他の車種はいかがでしょうか?

丸田 北と南ではお客様の志向が全く異なります。北部では運転しやすい、複数保有などの理由で、比較的小型な車が売れています。一方、南部では大型の車が人気です。2世帯、3世帯で家族旅行に行ける3列シートの車、現地生産している中ではイノーバやフォーチュナーが売れています。

―― 人気の理由は何でしょう?

丸田 ありがとうございます。私はよく購入されたお客様に理由を聞くのですが、答えはいつも同じです。ひとつめは、故障しなくて品質がよい。2つめはサービスの信頼感。例えば、何かあったらすぐに部品を取り寄せて修理してくれるなどです。3つ目はリセールバリューの高さ。総じて言えば、値段は多少高いものの、長い目で見ると得だというご意見。これは弊社の考え方ともマッチしていまして、今後も商品とサービスの両面で、よりよいものを提供したいと思っています。

―― 商品力だけでなくサービスも。

丸田 はい。トヨタは他のASEAN諸国と同様に、ベトナムでもサービスからスタートしました。新興国は中古車販売から普及するケースが多く、従ってまずはサービス主体の販売店を展開し、新車市場の拡大に合わせて徐々に新車のラインナップを増やしていくのが普通です。トヨタは1995年の進出前から、中古車のサービスやサポートを行う店舗を作りました。弊社ではそれを「2S」(サービス+部品)と呼んでいまして、販売も行うディーラーになると、セールスが加わって「3S」になります。

今でも、新しい店舗は2Sからスタートし、顧客満足度などが一定の基準に達した後に、新車の販売権を与えます。現在は3Sが35店舗、2Sが7店舗あります。今後、特に地方を中心に、徐々に店舗ネットワークを拡大する予定です。

現地へのサポートが日本人の付加価値

トヨタモーターベトナムの工場内

―― ベトナムでの課題には現地調達率の低さがあります。

丸田 そうですね。計算の仕方により数字は異なりますが、現地付加価値で言えば弊社でも20%程度です。この理由には、1年に約16万台という、ベトナム全体での自動車生産台数の少なさがあります。

多くの部品は金型や設備が必要となりますが、1車種1万台レベルではコストがとても高くなってしまい、国外からの輸入に頼らざるをえません。二輪メーカーの現調率が高いのは、生産台数が多いことが理由でしょう。 それでも弊社では可能性のある部品を絶えずリストアップして、現地価格と輸入価格を調べ、コスト低減につながるものから地道に現調率を上げてきました。

―― 解決策はないのでしょうか。

丸田 将来、この国の市場は間違いなく伸びますが、問題は時間軸で、競争力ある生産に足る台数になるまで、いかに現地生産を続けられるかにかかっています。奇策はありません。自分たちのできるコスト低減を地道に続けます。

自動車産業は将来、この国の雇用や経済に大きく貢献できる可能性があります。また同時に、日本とベトナムの産業界での、より深い関係作りにもつながるのではと思っています。自動車産業が発展したタイでは、既に多くの現地企業の部品メーカーもいますが、その育成には日本の部品メーカーさんが大きく貢献したと聞いています。ベトナムでも実現したいですね。

―― ここはどんな国でしょう?

丸田 めちゃくちゃいい国です(笑)。仕事でも生活でも、ベースとなるのはその国の国民感情だと思いますが、どちらの面でも日本人を受け入れてくれます。国民性の根っこのところが日本人に近いと感じますし、責任感も向上心も強い。

仕事面での不満がないわけではないですが、それは単に経験不足だから。粘り強く伝え続ければ理解してくれますし、こうしたサポートが我々日本人の付加価値だと思います。特に最近の若いベトナム人は海外の知識を持ち、何事にも積極的で、将来性を感じます。彼らの世代が管理職になったらと、今から楽しみです。

―― 今後の思いを聞かせてください。

丸田 どの国でもそうですが、トヨタは「ベトナムに必要な会社」だと思われたいですね。そのため、ビジネスだけでなくCSRを打ち出しており、交通安全、人材育成、環境、文化・スポーツという4つの柱で進めています。今年で20周年ですが、逆に言えば、まだ20年しか経っていないのです。

TOYOTA MOTOR VIETNAM CO., LTD
General Director丸田善久

1962年生まれ。大学卒業後にトヨタ自動車株式会社に入社。国内営業を一貫して続け、海外初赴任で2012年4月に来越して現職。2015年1月にベトナム自動車工業会(VAMA)の会長に就任。