ベトナム人向けのクレジットカード発行を始めたJCB。大手銀行と組み、中間層を狙ったプロモーションを続け、数年でシェアを急伸させてきた。VISAとマスターカードの2強を「ひっくり返す」と、山口朋晃代表は意気込む。

ベトナムでJCBカードを発行

首席代表 山口 朋晃
撮影:勝 恵美

―― 御社は近年、ベトナムに注力しています。

山口 弊社は1991年からベトナムでビジネスをしていますが、日本の会員がベトナムでJCBカードを使えるようにするアクワイアリング(加盟店契約業務)が中心でした。現地の銀行と提携し、加盟店網を構築してもらう業務です。その後、ベトナムの成長に合わせて、2011年9月から提携銀行でのカード発行も始めました。ベトナム人向けのクレジットカードです。

―― ベトナムではクレジットカードがさほど普及していません。

山口 逆に言えば、黎明期ということです。ベトナムのクレジットカード発行枚数は約300万枚と、国民30人に1人の割合。複数枚持つ人を考えれば利用者はもっと少ないでしょう。しかし今後は、経済成長による中間層の増加に伴って、利用者が増えると思います。

ただ、市場があまり拡大してしまうと参入コストが高くなります。VISAやマスターカードはベトナムで長い間カード事業を続けており、シェアも高い。これ以上市場が拡大すると、弊社のパートナーになる銀行に付加価値を付けるのが難しくなり、コストがかさみます。そのため、参入には今が最適と判断しました。

―― 何行と提携しているのですか?

山口 現在は10行で、そのうち5行にて発行業務を行っております。ベトナム国内に使える店舗は約7万店以上、利用できるATMは約1万台以上で、2015年は新たに2~3行と提携する予定です。

―― どんな人たちがターゲットなのでしょう?

山口 カードには「一般」、「ゴールド」、「プラチナ」等あり、各種プロダクトを発行しておりますが、メインターゲットは中間層となります。そのため主なターゲットは、大卒で社会人になり立ての20代から30代後半のホワイトカラーです。現在のベトナム人向けのJCBカード発行枚数は20万弱で、この3年で急増しています。勢いを加速させたいですね。

シェアを拡大させ近隣諸国に展開も

JCBカードの広告動画

―― 具体的にはどんな施策を?

山口 VISAやマスターカードは富裕層を狙っているようですが、我々の狙いはボリュームゾーンである中間層。そこで、初めてカードを持つ人向けに、「お得感」を訴求したプロモーションを行っております。例えば、「レストランで2割引」ではなく、「スーパーマーケットでバウチャーがその場でもらえる」などです。組んでいる航空会社もベトナム航空ではなく、LCCのジェットスターです。

また、我々は「Daily Enjoy」をメッセージにしていて、Webサイトを中心に広告を打っています。YouTubeや動画の専用チャンネルでもPRをしていまして、ネット媒体との相性が良いようです。Facebookが好きなベトナム人だからでしょうか、弊社の「いいね!」が約20万に増えました(2015年1月現在)。

―― 手ごたえがあるようですね。

山口 赴任して1年数ヶ月が経ちますが、その間に発行事業の強化、新規事業の立ち上げ、認知度の向上などを進めてきました。多くの銀行では富裕層から中間層をターゲットとしたマスリテールを強化しており、話をすると反応がとてもいいです。VISAやマスターカードで既に発行していても、日本発のカードということで大いに関心を持ってくれます。

そもそも、ベトナム人は新規事業の話に前向きだと感じます。細かく採算を計算する前に、新しいことは早くやろうと考えるようです。今後はプロモーションをもっと強め、パートナーである銀行にも多くの付加価値を提供していきたいと思います。

―― シェア拡大が目標になると。

山口 目標は2016年でのシェア10%です。クレジットカードの利用者がまだ少ないベトナムですから、それを20%、30%と増やして、今の2強のシェアをひっくり返したいと思います。

そのためには、JCBカードをお客様の「メインカード」にしていただき、継続して使うことで、各種の優待やサービスを楽しんでほしい。その一方で、カードの汎用性を高めなければなりません。いつでも、どこでも使っていただくためには、会員を増やすと同時に加盟店も増やし、店側にもJCBカードを認知してもらうことが大切になります。こちらも進めていきます。

―― 将来的な展望はありますか?

山口 ミャンマーは規制が緩和されたばかりで、ラオスやカンボジアはポテンシャルがあるものの人口がさほど多くない。しかし、ベトナム人にベトナムでカードを使ってもらい、近隣諸国に普及させることはできると思います、メコン圏で相乗効果を高めるような、一国に限らない「面」でのカード利用を広げたいですね。

JCB International (Thailand) Co., Ltd.
Chief Representative 山口 朋晃

1975年生まれ。大学卒業後にJCBに入社。法人向けカード営業、総合企画部などを経てアジア営業部で統括・管理業務に携わる。2013年9月、バンコク支店内のベトナム事業部が独立する形でベトナムに駐在員事務所を開設すると同時に赴任。