1991年に駐在員事務所を開設した丸紅は、2011年に現地法人を設立。成長するベトナムの国内需要を取りに行くためだ。食料畑を歩いてきた坂上社長はその手腕を発揮するとともに、今年4月にはホーチミン日本商工会(JBAH)の会長に就任した。

コモディティー商品に注力 キーワードは「肥料」

代表取締役社長 坂上 勉
撮影:大池直人

―― ベトナムには二度目の赴任とか。

坂上 はい。1994年4月にハノイに駐在し、ハノイ総合大学(現ベトナム国家大学ハノイ校)のベトナム語学科に1年留学しました。その後はホーチミン市に1年間駐在し、ビフォンエースコック(当時)やロッテベトナムに出資する担当をしていました。

―― 2012年に再赴任したわけですね。

坂上 私の中でベトナムは1996年で止まっていましたから、約20年ぶりに来越して驚きました。荷物にはシャンプー、タオル、トイレットペーパーなどを詰めていましたが、街には大きなスーパーがある。シクロはメーター付きのタクシーに変わっている。まさに浦島太郎状態でしたね。

―― 御社の主な事業は何でしょうか。

坂上 北と南で異なりまして、北部は火力発電所の建設や建設機械の販売などの重厚長大型ビジネスが中心となります。これらの事業の担当者はハノイにおります。私は主に南部を担当しているのですが、コモディティー商品を多く扱っています。穀物・食品と化学品がこの順番で多く、他にも段ボール原紙や古紙、パルプといった紙の原料の輸出入や、繊維製品の生産も行っています。

―― 中でも食品とは?

坂上 コーヒーと水産品が2本柱です。コーヒーは、対日向け輸出量ではナンバーワンの実績があります。水産品では、例えば加工品などを、日本を中心に欧米マーケット向けにも輸出しています。20年前とは随分と様子が違いまして、当時は原料を冷凍して付加価値が低いまま輸出していましたが、現在は寿司ネタ用やフライ用などに、加工度を上げて輸出しています。フライ用なら衣を付けたり揚げたりと、最終製品に近い形にするわけです。

こうした事業には他の日系商社さんも参入しています。

―― 他にはどんなものを?

坂上 例えば、家畜用の飼料です。一番多いのが、大豆から大豆油を絞り取った後の大豆粕、次がトウモロコシですね。大豆粕は南米、トウモロコシは北米などから輸入しています。ベトナムでは食の西洋化が進んでおり、従来の米と野菜中心の食事から、肉や魚などのタンパク質をより多く食べるようになりました。肉なら豚肉が圧倒的に多く、次が鶏肉、残りが牛肉や山羊肉などでしょうか。

肉が大量に消費されるに従い、ブロイラーのような食肉生産の工業化も進み、餌の需要が急増しているのです。また、ミルクの需要も上がって乳牛も増えています。現在もそうですが、今後も飼料原料のビジネス拡大に注力したいと思います。

会員数1000社を見据えJBAHを改革

丸紅グループが100%出資するブラジルの穀物輸出ターミナル会社

―― 4月にはJBAHの会長になりました。

坂上 JBAHは年々会員数が増えており、2014年度の入会企業数は過去最高だった2013年度を超えて105社になり、2014年度末の時点で合計765社になっています。1000社を超える日もそう遠くないと考えています。

―― ASEANの中でも最大規模のひとつになりますね。

坂上 はい。1994年4月にJBAHとしてスタートしてから約20年、前年度の活動に改善を加えながら成長してきましたが、1000社を目指すとなると話が違ってくる。そこでその前に、商工会という組織自体を変革しようと思います。

組織の体制や運営、各委員会のミッションを見直します。例えば、従来からの慣習で続いていても、実は役目を終えたものがあるかもしれない。逆に、今だからこそ、やるべきこともあるでしょう。JBAHに「何が必要か」を考えたいと思います。

また、商工会はボランティア組織で、基本的に1年で担当が変わるため、課題が引き継がれにくいのです。会員間の情報伝達が不十分な場合もあります。こうしたことを是正するために、必要なら組織やルールを変えていきます。ルールのないところには新しいルールを作ってもいいでしょう。

―― その原動力となるのは何でしょうか。

坂上 一番難しいのですが、執行委員を含めた、課員各社の皆さんの意識を変えることです。例えば、情報は自分から積極的に取りに行くような意識変化です。その情報は我々が整理して用意しますから、執行委員長、部会長、理事から考え方を変える必要があります。

ただ、今までなかった変革なので、受け入れにくいと考える人もいるはずです。そのために目標を、「Doi Moi(革新)~拡大する商工会の機能強化とチーム日本(ジャパン)の総力の結集~」としました。皆で同じ船を動かしてこそ、各自の負担は減り、参加する意味も出てきます。

意識改革と突破力で、1年後に成果を出すつもりです。

丸紅 General Director 坂上 勉

1964年生まれ。大学卒業後に丸紅に入社。主に食糧・食品分野を担当し、1994年~1996年にベトナムに駐在。帰国後は丸紅において食品並びに流通事業に対する投資案件を担当し、2012年4月に現職として再赴任。