昨年新工場を竣工させたビナキョウエイスチール。そのブランドはベトナムに浸透し、鉄鋼需要の成長もあって業績は順調だが、鉄鋼は世界的に供給過剰にあるという。昨年赴任した岩佐社長の戦略とは何か。

市場拡大の陰に潜むリスク

代表取締役社長 岩佐 博之

―― 昨年は念願の新工場が竣工しました

岩佐 はい。バリアヴンタウ省フーミーⅠ工業団地に製鋼(電気炉)工場と第二圧延工場が完成し、新ラインが稼働しています。最新設備を導入すると同時に、将来の人件費増への対応と安全確保のために、省人化と自動化を考えた作りにしています。

これまではベトナムの鉄鋼需要が増大する中で生産が追い付かない状態が続き、徐々に生産能力を上げてきましたが、最終的には2014年の年産45万トンから約90万トンへと2倍になります。共英グループ最大規模の生産拠点になりますね。

―― それほどマーケットが拡大していると。

岩佐 「ロング」と呼ばれる建材用鋼材の国内需要は2011年と2012年に少し下がりましたが、2014年は上昇して700万t、昨年は少なくとも800万tになったと思います。日本の同分野の鉄鋼需要は縮小しており年間800万t程度ですが、ベトナムは2020年に1000万tになると見られています。ASEANで一番伸びているのではないでしょうか。

―― どんなものがあるのでしょう。

岩佐 戦略的な商品として、鉄筋同士をカプラーと呼ばれるものでつなげる「ネジ節鉄筋」があります。ベトナムでは鉄筋をつなげるとき、先端同士を重ねて針金で巻くのが一般的ですので、強度と同時に安全性が高まります。ネジ節鉄筋はホーチミン市の地下鉄工事やイオンモールなどに使われています。

また、鉄筋はサイズをフルで揃えており、橋梁などに使われる大型サイズを扱っているのは弊社くらいだと思います。

―― 順風満帆のようですね。

岩佐 それがそうでもないのです(笑)。鉄鋼は世界的には供給過剰で、価格低下が続いています。材料を最初に仕入れ、販売時の価格は市場に左右される商材ですから、価格が低下すると売上は上がっても利益が出ない状態になります。価格低下の理由には、供給過剰でも雇用を守りたいと増産を続ける中国の存在が大きく、しばらくは変わりそうにありません。

国内の競争激化もあります。ローカルや外資系の鉄鋼メーカーが進出し、新工場の立ち上げ期には韓国のポスコが進出しました。実はポスコを初め競合他社が同じ工業団地内に数社ありまして、ここだけで年間400万t程度を生産していると思います。同じ場所にこれだけコンペティターが集まっているのは、世界でも稀でしょう。

今後はニッチを積み上げる

工場内の様子

新工場の竣工式典に出席したサン国家主席と岩佐氏

―― ただ、御社は約20年前から製造販売をしており、共英ブランドは浸透しています。

岩佐 ありがとうございます。ただ、弊社製品の特徴である曲げやすい、転がりやすい(真円度が高い)などの点は、特に南部では他社が確実に技術力を付けてきています。安心はできません。

―― 鉄鋼の需要は南北で差がありますか?

岩佐 以前は南での需要が多く、2000年前後で半々になり、今では北の方が強くなりました。北部では政府が大型プロジェクトを進めており、チャイナプラスワンで日系の工場が増えたなどが理由でしょうが、現在の全国の需要は北部が6、中部が1、南部が3くらいの割合ですね。中部ではダナンが伸びています。

弊社も今後は中部やカントーなどに販路を広げるつもりですし、輸出先は現在カンボジアだけですが、インドネシアや他国にも進める予定です。

―― ベトナムやベトナム人をどう思いますか?

岩佐 社会、人生、家族などの仕事に関わる価値観は、南北間だけでなく地域単位で特徴があると思います。これらは労務管理上はもちろん、営業施策的な面でも念頭に置くべきと思います。

また、新しい製鋼工場では重量物や高温作業などによるリスクが高まっていますが、ベトナム人は危険に対する肌感覚は強いものの、安全に気を配ったり、規則を遵守するなどは苦手だと思います。日本流の安全教育を徹底させたいと思います。

―― 今後の戦略を聞かせてください。

岩佐 ローカル他社がやりたがらない、手間やコストがかかる製品を作り、品質を高めていきます。例えば、「アングル」と呼ばれるL字型の鉄筋です。コスト高で小ロットが多いので、ニッチな製品と呼べます。数多く扱われるマスの製品を生産・販売しながらも、こうしたニッチを積み上げていく手法です。

マンション建設などプレイヤーが多い分野は受注や売り上げに波があるのが一般的ですが、ニッチマーケットではこうした変動が少なく、安定している強みがあります。そして、20年をかけて達成した販売量を、生産量の倍増で2~3年のうちに達成するのが最大のミッションです。

VINA KYOEI STEEL CO., LTD.
General Director 岩佐 博之

1970年生まれ。大学卒業後に共英鉄鋼株式会社に入社。製造部にて工程管理、本社経営企画部を担当した後、2006年~2009年にVINA KYOEI STEELに購買・管理担当副社長として赴任。本社海外事業部を経て、2015年に再赴任して現職。