ビジネス成否のカギとなるのが、提携・合弁先となる地場のベトナム企業だ。良いパートナーシップが組めれば事業は好転し、逆なら頓挫もあり得る。では、どんな企業をどう探せばよいのか? 事業実現までのカギとは?多業種の企業に本音を聞いた。

 

工業化が進むベトナムで需要増が確実視される、産業廃棄物処理という分野にいち早く注目。2008年にFirstを起業した郷氏は、共に社長職にあるパートナーを「義理の兄弟」と呼ぶ。企業だけでなく人の選び方も大切だ。

産業廃棄物で起業 必要だった交渉役

2002年に来越し、飲食店の経営、日系の工場勤務などを経てコンサルタントになった郷氏。経験した職種は様々だが、一つの共通点があった。

「飲食店時代にベトナム人のコックが食材の納入価格を高く設定して、実際の価格との差額を着服していたんです。工場時代の上司のベトナム人も同じことをしていて、梱包資材や文房具などを含めた国内調達物品の購買価格、条件の是正や改善を目的とした部署を社内新設してもらいました。その後、日系企業が適正価格で物品を調達するためのお手伝いをさせてもらおうと、現地調達に関するコンサルティング会社を起業しました」

倉庫内の様子

そのうち顧客企業から、樹脂や段ボールなど産業産廃物の売却価格を相談されるようになり、「自分で始めたら?」という顧客もいて、新しく事業の拡張を決断する。ただ、同業に日系企業はなく、当時はいわゆるブラック企業が多くて、新規参入が難しかった。そこで、日本語が話せて、産廃業者のネットワークを持つ、ベトナム人を誘って事業を始めた。

そのベトナム人が、「業務は2人でできるが、この業界は役所などへの交渉役が必要だ」として、友人の参加を提案する。最終的に3人で始めるのだが、この交渉役の友人こそが現在の欠かせないパートナーとなる。その後、当初のベトナム人は不正行為で会社を去り、2010年に2人での再スタートになった。

Firstで扱うのは産業廃棄物全般で、大きく分けると機械油や蛍光灯、工業廃水などの合法な処理を有する有害廃棄物、梱包資材や製造工程から出る鉄くずや樹脂、紙などの有価廃棄物。また、工場での引取作業や清掃作業の実績を買われ、大型ショッピングモールチェーンの生活ゴミ置場の清掃業務も受託している。

「ホーチミン市にある土地を借り、約5000㎡の倉庫を作りました。ここで廃棄物の保管や分別、まだまだ未熟ですが古い粉砕機を数台置き、試験的に自社で粉砕もしています。併せて、船会社のコンテナを一時的に置いておくコンテナデポとして活用しています」

長期契約の顧客は約30社。工場の建替えで一時的に出る廃棄物の依頼や、数ヶ月に一度の定期業務など単発の仕事も少なくない。社員はアルバイトを含めて100人弱と、事業は順調に伸びている。

言葉と肌で知る知識 パートナーは見つかる

産業廃棄物には公安省と資源環境局の他、EPE企業の場合はゴミも輸出とみなされるために通関も関係する。これら役所との交渉役となるのがパートナーだ。ただ、元々経験があったわけではなく、事業の拡大に伴って徐々にノウハウと知識、ネットワークを広げていったという。

日系企業から処理費用が不当に高いなどの相談が多く、事業の当初から見積もり依頼があったそうだ。契約すると以前のローカル企業から不審な電話や連絡が入り、次に嫌がらせが始まることも多いそうだが、その前に交渉に出向いて話をまとめるのもパートナーの仕事になった。

産廃物

とはいえ、彼は交渉役専任ではなく、郷氏と同じポジションの社長職で、価格設定や人員配備なども行う。会社の名義はパートナーで、郷氏は主に経営と日系企業の窓口を担当している。

「有害廃棄物の処理委託では、南北各1社の国営企業と代理店契約を結んでいます。以前は民間企業と契約していましたが、中には不法投棄をする企業もあり、複数社変更の後、行き着いたのが国営企業でした。これもパートナーが話をまとめました」

現地のパートナーを見極める一番良い方法として郷氏は「言葉」を挙げる。ベトナム語を覚えるということだ。

実際、同社の日本人は彼1人で、パートナーも日本語を解さない。ここに来た当初、家庭教師では覚えられないので、郷氏は友人を作ってベトナム語と日本語を教え合ったという。半年で何となくわかるようになり、実践を重ねた。今では当然のようにベトナム語で商談をする。

「友人でもないのに日本語で商売の話をする外国人には、何か魂胆がある人が多い。通訳も100%信用できない。それより、自分からベトナム語で積極的にビジネスを進めたほうが、相手も本気になるし、きちんと対応してくれます。何よりも人と人の距離がグッと縮まります」

ただ、駐在員は仕事が最優先で、時間を作るのが難しい人も少なくない。それならまず、ベトナムとベトナム人のことを肌で知ることだという。ネットに書いてある、人が言っているなどの、あやふやな認識で事業を始めるのは危険すぎるそうだ。

「ベトナムのことを肌で知り、ベトナム語で気の利いたことを少しでも言えるようになれば、ビジネスパートナーはたくさん見つかると思います」