人事部不在の リスクマネジメント
技術や営業など「本業」が優先される結果、日系企業の「人事部」は機能不全の状態だ。仕方がないかもしれないけれど、それでいいのか? 採用、評価、給与、リテンション、組織作りまで、人事は全ての事業の根幹だ。今一度、人事の仕事を真剣に考えるため、現状の課題と解決策を各業界のプロに尋ねた。
国際展開を続けるリクルートホールディングスのベトナム現地法人、人材紹介会社のRGF HR Agent Vietnam。世界を知る同社から見て、日系企業の人事の課題と、その解決策はどこにあるのか。
人事で悩む日系企業
「日系企業の特徴の一つが、人事部門に注力しないこと。例えば、人事担当マネジャーがいなくて総務などのスタッフだけがいる。これでは組織的、戦略的な人事が望めず、採用時にもプロの評価ができません」(Ms. Vuong)
一方、他の外資系企業は異なるという。進出前から人事戦略を作っており、特に多国籍企業は既にある規格に沿って戦略を立てる。
採用、人事制度、社員の成長トレーニングなどで、そのために人事の機能は安定している。在越日系企業でここまでしているのは10%、多くて20%ということだ。
特に近年は日系の中小企業が増加しており、現地法人や事業の立上げが最優先されるので、整理された人事戦略を持っていないケースが多いという。
アジアの中でもベトナムは注目されているので、「今を逃すな、行ってこい」と全てを任される駐在員もいる。
「人事業務が未経験のダイレクターやマネジャーが担当しているのが実情です。また、駐在員は定まった任期が多いので、人事制度に高い優先順位を付けて取り組める方が少ないようです」(細田氏)
また、企業が小規模のうちは何とかなっても、経営が落ち着いて、業績が伸びたり、規模が拡大した後に「人事はどうする」となるケースも少なくない。ここで他国の支社の人事スタッフが制度作りに来たり、問題意識の高いダイレクターは自分で考えるが、「あきらめてしまう人」もいるそうだ。
「弊社に相談に来る方もいますが、企業の組織、各部門の人数、ポジション、ベトナム人と日本人の数、従業員の年齢、業界の動向、市場の拡大や伸ばしたい部門など今後の目的などを細かく聞いて、理解することから始めます。それほど会社によって状況が異なるということです」(細田氏)
参考データ:リクルートキャリア “アジア給与サーベイ2015”他 N=404社
人事業務で大切なのは2つあるとMs. Vuong。一つはキャリアエンゲージメント。入社して3年後、5年後のスタッフのキャリアをどう伸ばしていくか、会社がどのように発展するかの将来像を見せること。これがないと社員のモチベーションがダウンする。
もうひとつは職場環境や企業文化で、特に「上司」。スタッフが尊敬でき、彼らの仕事をしっかりサポートできる人。そうでないと部下は辞めていく。
今の時代は上司の言われたことをするのが部下ではなく、両者はWinWinの関係であるべきという。
「これら2つが人事の前提で、その次に制度、収入、福利厚生となります。進出前にビジネスプランを考えるのと同時に、必要な人材を入れてこれらを企画するのがベストですね」(Ms. Vuong)
人事のマネジメント層ベトナム人に期待
リクルート社系列のリクルートワークス研究所の調査によると、ベトナム人の仕事観は独特で、自己の成長機会を求める傾向が強い(右ページのグラフ)。そのため、キャリアアップ研修などを提供するのは、先のキャリアエンゲージメントなどにもつながる。
「日本語や英語のできる人材が日系や外資系企業に入社したら、何かを学びたいと思うものです。ベトナム人は特にそれが強いですね」(細田氏)
ベトナム人の離職率は高くても、給与が理由だけではなく、「仕事に慣れて、この会社ではもう成長できない」が理由で辞める人もいるという。一方では、成長機会を与え続けると、家族のように長く勤務する人もいる。
「ただ、日系企業で働くベトナム人には、上のポジションを望む人が多くないと思います。本来は社内で育てていければと思いながら、マネジメント層を採用したいという日系企業は多いです」(細田氏)
外資系企業が人事部門のマネジメント層を採用する場合は、ベトナム人がほとんどだ。多くのパートナー企業が現地企業であるためと、人件費を抑えられるから。
こうしたベトナム人のエグゼクティブ人材は10年ほど前から人気だというが、「量はいても質に不安」とMs. Vuong。ベトナムの大学では実務を教えないため、新卒で入社するとゼロからOJTで学ぶことになり、結果として経験3~4年でも十分に育たない人がいるという。
「特にエグゼクティブクラスでは顧客の条件を満たせる人が少ない。ただ、この5~10年で海外経験があり、市場に理解のある人が増え、高い評価を得ています。これからますます改善されるでしょうから、人事系での有能な人材も増えてくると思います」(Ms. Vuong)
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