ベトナムの動脈を動かす 新しい物流の波
物流系企業がベトナムで新しいサービスを始めている。大型・多機能倉庫の建設、冷凍・冷蔵輸送、周辺国へも触手を伸ばす。TTPやAECを見据えて、この勢いは加速するばかりだ。日系物流各社の真意は、どこにあるのか。
多機能倉庫、国際間輸送…
新しいニーズが生まれている
2011年にビンズオン省に多機能倉庫を竣工後、今年は2つ目の多機能倉庫を竣工させ、11月には3つ目が完成予定。ITを活用したソフト面にも注力する一方、上海とシンガポールを陸路で結ぶクロスボーダーサービスも稼働中だ。
多機能倉庫のニーズ増
今年2月、ドンナイ省のアマタ工業団地に多機能倉庫を開設したベトナム日本通運。11月にはハイフォンのディンブー工業団地に、同社最大規模となる多機能倉庫を開設予定だ。倉庫事業に熱心なのはなぜか。
「ひとつはお客様の生産量が増大しているからで、2~3倍の増産という企業様もあります。すると、工場内の保管場所は埋まりますし、保管場所を生産のために使いたいという意図も出てくる。一時保管の場所が必要となるわけです。また、大量に生産した製品を組み合わせて出荷するための保管といったニーズもあります」
倉庫が多機能なのは顧客の業種が多岐に渡るためだ。取り扱うのは工業部品や家電製品などから、冷凍・冷蔵が必要な生鮮食料品や食品加工まで様々。特に冷凍冷蔵倉庫は今後の拡大が見込まれるとのことだ。
同社の主なサービスは、海外や国内から部材などを調達し、自社倉庫で保管や物流加工を行い、顧客の倉庫に配送・出荷。必要があれば設備の搬入や据付けなどを行い、国内や海外に出荷する。顧客は進出製造業、特にEPE企業が多かったが、近年増加しているのは販売会社や商社だという。EPE企業に納入する部材や、内需向けの消費材などを扱っているそうだ。
「お客様の業種は製造業系が約6割、販売会社・商社系が約4割と増加中です。ベトナム人の所得が上がって購買力が旺盛となっていることが背景にあるのでしょう。日本と同レベルの、高品質な物流が求められつつあります」
2013年頃から物流系企業の進出が目立ってきたという。ローカルの物流系企業に比べて日系企業の価格は高めだが、GDPに対する物流コストの比率は先進国で10~13%で、ベトナムは20~25%とのこと。つまり、ローカル企業の価格も実は割高なのだ。また、「価値の高い製品を価値を壊さずに運ぶ」ノウハウがローカル企業には十分にないのかもしれないと長嶋氏は言い、こうした事情も日系企業の後押しとなっているようだ。
倉庫事業が注目される同社だが、強みはソフト面にあるという。それは主にITによる「見える化」。バーコードで全ての荷物を管理し、通常は工場入荷時から始めるカウントを日本出国時から行い、荷物をトレースし、リアルタイムで管理している。在庫管理だけでなく在庫の最適化や回転率の向上なども行い、顧客はWEbサイトで随時閲覧できる。また、各種データをKPIで分析して改善活動につなげているという。
始まるクロスボーダー
近年ニーズが増えているのは、トラック輸送と周辺国を含めた国際トラック便だそうだ。同社の国際間輸送は上海からシンガポールの陸路7000キロを結ぶクロスボーダーサービス「SS7000」。ベトナムでは中国の華南地区・ハノイの中越ルート、ハノイ・バンコクの東西回廊、ホーチミン市・プノンペン・バンコクの南部回廊があり、東西回廊では40フィートのコンテナが1ヶ月に約100本走っているという。
「ハノイで生産した電子部品や自動車部品をバンコクで運ぶなどです。ハノイ・バンコク間は海路で2週間ですが陸路では4日。価格は高くても期間の短縮になります。また、少しずつですが、日系企業のタイ工場で作った電化製品をベトナムの販売会社に運ぶなども増えています」
南部回廊では陸路と海路の日数が3~5日とほぼ同じだが、ホーチミン市・バンコク間ではなく、中間地点のプノンペンからホーチミン市やバンコクに運ぶ動きがあるそうだ。カンボジアにはアパレル系の工場が多く、同社はベトナムとカンボジアを運行できるダブルライセンスを持っているので、国境での荷物の積み替えが不要となり、スピードアップが図れるという。そこで今夏から、プノンペンからホーチミン市までをトラック輸送し、ホーチミン港から東京と大阪に船で運ぶ混載サービスを始めている。
AECが本格化すれば、国内で起こっている水平分業がASEAN域内で始まると長嶋氏は見ている。例えば、労働集約型とそうでない地域との物流であり、前者の工場からの後者の最終工場に半製品を配送するなどの新しいニーズが生まれそうだ。
「オランダはEUの中心にあり、物流の玄関口となって成功しました。実はホーチミン市から空路で2時間、2000㎞内に多くのASEAN諸国が入ります。AECが始まって税関制度や社会インフラが整備されれば、ベトナムはASEANのゲートウェイになれるかもしれません。逆に物流を強くしないと、生産工場が逃げていくことも考えられます」
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