ベトナムの動脈を動かす 新しい物流の波
物流系企業がベトナムで新しいサービスを始めている。大型・多機能倉庫の建設、冷凍・冷蔵輸送、周辺国へも触手を伸ばす。TTPやAECを見据えて、この勢いは加速するばかりだ。日系物流各社の真意は、どこにあるのか。
多彩に展開するベトナム戦略
10年後の売上を今の5倍に
今年3月に100%出資会社の「SG佐川ベトナム」を設立。将来は大型多機能倉庫をホーチミン市郊外に保有予定で、日本の「SRC 佐川流通センター」をベトナムに展開したいという。今のベトナム事情と合わせて語ってもらった。
新会社でベトナムを攻める
TPPやAEC(ASEAN経済共同体)でベトナムの物流事情が変わり、多様なニーズ増が生まれる。ならば、スピーディに、自由に動ける独資のほうが進めやすい。そう見越して設立されたのがSG佐川ベトナムだ。資本金は500万USDだが、今後は増資や借り入れを増やし、再投資をする予定という。
「SG佐川ベトナムでは、100%外資で取得できるフォワーディング事業(航空・海上輸送)、国際エクスプレス、倉庫事業を佐川急便ベトナムから移管している最中です。現在申請中の国内宅配便もライセンスが取得でき次第に移管する予定。チャーターなどのトラック事業や通関業は合弁会社でないとライセンスが取得できないため、佐川急便ベトナムで事業を継続していきます」
新会社設立に合わせた大型案件もあり、将来的にはホーチミン市近郊に、物流加工エリアと冷凍・冷蔵・チルドなどの冷蔵倉庫を持つ、多機能倉庫の保有を考えているという。
物流加工とは倉庫に荷物を運ぶだけでなく、そこで値札の貼り付け、セットや仕分け、検品・検針なども付加するサービスのこと。また、日本には「SRC佐川流通センター」があり、顧客から預かった商品の入荷・一時保管・各種物流加工を始め、入出庫管理や在庫管理まで総合的な物流業務を行っている。顧客にとっては、ここの倉庫エリアに入居することにより、出荷時間の短縮やコストダウンなど多くのメリットが生まれる。
「お客様にとって効率アップが図れるなどお互いのメリットが大きいので、今後はこのシステムをベトナムに広げていきたいのです。多機能倉庫に関してはまだ構想ですが、今後ベトナムにおける倉庫のニーズは高まっていくと予想しているので、前向きに検討していきたいと考えております。実際、ハノイとホーチミン市にある倉庫はほぼフル稼働しており、大きな案件のご依頼はお断りしている状態です」
来年にはチェーンが完成
最近は日系企業を初め大型倉庫の建設が盛んだが、その背景には何があるのか。島崎社長は3つの理由を挙げる。一つは、多くの企業で工場内の保管場所が埋まり、外部に新たな場所を借りる必要が出てきたこと。
もうひとつは、材料などの輸入が増えて、一時保管のニーズが高まっていること。まとめて荷物を納入して、小出しに配送するような使い方だ。最後は冷凍冷蔵倉庫のニーズで、ベトナムで遅れているコールドチェーンが今、立ち上がりつつあることだ。
「現在倉庫でお預かりしている品物は繊維製品、材料、プラスチックなどの原料、自動車部品などですので、冷凍冷蔵倉庫では新しいお客様を見込んでいます。冷凍冷蔵倉庫の海外展開は初めてなので、ぜひベトナムで成功させたいですね」
定期便の国際間輸送はまだ始めていないが、今年3月、国土交通省調査「メコン地域におけるクロスボーダー宅配輸送のための実現性及び課題調査事業」に協力、タイからベトナムのホーチミン市とハノイへ複数の小口混載貨物(宅配)輸送の実証実験を行った。混乱なく概ね予定通りに配達できたが、課題も多数見つかったという。
「国際間輸送の課題は様々あり、現状でのサービス提供は難しい。しかし、AECの発足が近づいていることから、実証実験の経験を活かし、対策を講じていきたいと思います」
佐川急便のベトナム事業はハノイとホーチミン市が中心だが、来年はダナンで宅配事業を始める予定で、カントーにも進出したいと島崎社長は語る。現在は大手のローカル物流企業との提携でほぼ全国をカバーしているが、自社で取り扱うエリアを広げたい意向だ。
「フォワーディング、国際エクスプレス、倉庫、トラックなどが揃えば、全てがチェーンでつながり、ワンストップサービスが可能になります。このチェーンは来年には完成させたいと考えております」
増収増益が続く佐川急便ベトナムは、今年は過去最高の利益を出す見込みで、達成すれば過去最高益が3期連続になるという。こうした実績を受けて日本のSGホールディングスやシンガポールある海外統括会社もベトナムを重視しており、今後は「ベトナムモデル」の他国への展開を考慮しているそうだ。
「全てのベトナム戦略は、シンガポールの海外統括会社が策定した海外展開方針に則り、私の方でベトナムの展開シナリオを描き、承認を頂いています。10年後の売上を今の5倍にすることが、私の目標です。失敗はできません」
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