ベトナムに進出した製造業の大きな悩みは、現地調達率の低さだ。優秀なローカル企業は少なく、部品や部材を輸入に頼る日系企業も多い。ただ、現調率は少しずつ上昇しており、ローカル企業も成長中だ。今、ベトナムの裾野産業は変わりつつある。

出典:JETRO「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査2014」

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現地調達率は上昇中
必要なのは産業政策

ベトナムの現地調達率は急激に上昇している。JETROの調査によれば、2010年には22.4%だったが2014年には33.2%と約11%も上がり、特に南部では現地調達の52.7%がローカル企業からのものだという。

裾野産業の弱点は資金力

ホーチミン事務所 所長 安栖宏隆氏
JETROの「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査2014」によると、ベトナム現地調達の意外な姿が浮かび上がる。日系企業の主な進出先である中国、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンのアジア諸国と比較すると、やはりベトナムの現調率は低い。ただ、2010年の22.4%から2014年には33.2%へと伸びているのだ。

「これほどの上昇率は調査対象の他国では見られません。ただ、課題が多いことも確かです」

安栖所長によると、ローカル企業の技術力はまだ低く、特に産業構造として、電気電子部品及び特殊な金属やプラスチックなどの素材系が弱いという。そのため、加工系の業務が中心となっているが、そこでも熱処理や表面加工などの高度なものより、金型系や機械加工などの仕事が多くなっている。

それでも日系メーカーなどからの注文はあるのだが、資金力が弱点となっているという。日本の中小企業向け金融公庫のような低金利の施策が少なく、ローカル企業の新たな設備投資が難しいようだ。

「注文があっても、新しい機械を買えないから仕事を受けられないというローカル企業も多いようです。このため、資金力のある企業が優良企業の中心で、日系サプライヤーにない最新機械を持つ企業もあります」

前述のようにJETROはMETALEX VIETNAM 2015において「部品調達展示商談会」を開催し、日系・日本企業と裾野産業のローカル企業との、ビジネスマッチングを行った。ローカルの優良企業には日系・日本企業が列を作ったというから、明るい兆しは見えているようだ。

南北で異なる現調率の差

同調査ではベトナム南北での差も調べており、興味深い結果が出ている。まず、2014年のベトナム全体の現調率は33.2%だが、北部は30.6%、南部では36.3%と開きがあることだ。グラフのようにそれ以外は輸入をしており、南北共に日本からの調達が最も多い。

また、現地調達先はローカル企業、進出日系企業、他の外資系企業に大きく分かれるが、その「内訳」にはより大きな差が見られた。ローカル企業からの調達が北部35.9%に対して、南部では52.7%と半分以上となっているのだ。

「北と南では進出の経緯が違います。1995年からの第1次進出ブームの時代、北部に進出した大手日系メーカーには一緒に日系サプライヤーを連れてきた企業が少なくなかった。その後、同業他社が進出する際にはこうした日系企業から部品などを調達できたので、ローカル企業との接点があまりなかったのです。南部は事情が異なり、進出日系メーカーは独自にローカルサプライヤーを求めたため、その関係性が現在でも続いています」

ローカル企業と日系企業の「不足分」を補う外資系企業の多くが、台湾系ということだ。台湾系企業はベトナムに3000~5000社あると言われており、日系企業との親和性も高いようだ。

また、南部の現地調達率(36.3%)に、その内のローカル企業の割合(52.7%)を掛けると、ベトナム南部のローカル企業からの現調率は19.1%となる(北部は11%)。実はこの数字は、自動車産業を中心に日系企業が多く進出しているタイの23.2%、インドネシアの21.2%とさほど変わらない(JETRO調査)。これらの国では現調率は高いものの、現地日系企業からの調達が少なくないからだ。

「南部のローカル企業からの調達率は2011年15.3%、2012年16.8%、2013年15.6%で推移しており、ここにきて19.1%と急激に伸びました。例えばタイでは、日系サプライヤー同士が競い合い、そこに日系企業が技術を教えたタイの企業が参入しています。ベトナムの企業にも早くそうなってほしいですね」

これからが本当のチャンス

融資、技術移転、人材育成など、ローカル企業の将来性について安栖所長は、「ベトナム政府がどれだけ裾野産業をサポートできるか」によるという。現段階では人、モノ、金が十分に集まらないことが問題であり、十分なサポートを受けていないようだ。政府の施策は実効性でも規模の面でも十分とは言いがたいようだが、現在は裾野産業の支援のために商工省では政令作り、計画投資省ではJETROも協力して中小企業支援の法律案を作成中とのことで、今後に期待がかかる。

「ベトナムのローカル企業のポテンシャルはASEANの中で突出していると思います。現在は道半ばでも、到達点を示して、インセンティブを付けて、成功例を見せれば、伸びる企業は増えると思います」

今後はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)がスタートし、年末からはAECも始まる。日系企業からローカル企業への発注増が見込まれる。

「ローカル企業には絶好のチャンスであり、ここで受け皿にならなければ仕事は他に取られてしまう。彼らに仕事をしてもらうためのビジネス環境を整える、産業政策が必要です」