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ベトナムではIT産業が急伸している。近年ではオフショア開発にとどまらず、ITを活用した他業種への展開やインフラ作りなど、より大きなビジネスを進めている。日系大手ITベンダーの戦略を探る。

 

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全国千台のタクシーで実証実験

車体に「WIFI FREE」という白いステッカーを貼ったマイリンタクシーをご存知だろうか。その車内にはWi-Fi機器が設置され、乗客は無料でWi-Fiを利用できる。大手タクシー会社のマイリングループが2月から始めたサービスだが、その目的は乗客の利便性向上だけではない。ソフトバンクテレコム・ベトナムの森本氏は語る。

「Wi-FiルーターにはGPSと加速度センサーが搭載され、位置情報と共に急ブレーキや急加速の場所、縦揺れが検知できるので道路の凹凸もわかります。位置情報は1秒置きに測位しており、各種のデータは3分に1回、日本のデータセンターに送られます」

これは同社とマイリングループ、ベト・テクノロジー&ソフトウェア開発(Vietek)が共同で始めた実証実験で、今年2月にホーチミン市とダナン、3月にはハノイでもスタートした。5月末までの予定で、ホーチミン市で600台、ハノイとダナンで各200台の計1000台のタクシーがデータを収集している。目的はベトナムの大きな課題の一つ、交通安全だ。

車内に搭載されたWi-Fi機器
車内に搭載されたWi-Fi機器

Wi-Fi機器を設置したタクシーでは、車内のモニターに渋滞状況などの情報が表示されるので、ドライバーは混雑を回避できる。また、センサーにより収集された情報を分析して、交通ハザードマップを作りたいと森本氏は語る。

例えば、スピードオーバーや急ブレーキの箇所をポイントしたマップで、これらの場所を特定できれば注意喚起だけでなく、原因も特定にもつながる。

「信号機が見えにくいためにスピードを出し過ぎたり、障害物があるから急ブレーキを踏むなど、問題の解決もできると思います。弊社では同様の実証実験を昨年フィリピンのマニラで行っており、ある程度のノウハウもあります」

個人使用の乗用車はある程度決まったルートを通りがちだが、タクシーはお客の指示で様々な場所を走るので、有益なデータが集まりやすいという。また、マイリンのタクシーは基本的に2人交代で乗り、1日20時間程度稼働するので、収集データが増えるのだそうだ。

「客待ちのために止まることが課題ですが、エンジンを止めるとルーターの電源も切れるので、客待ちの時間がわかります。マイリンさんが国家交通安全委員会のメンバーとのことで、今後は分析結果を交通省に渡すつもりです。現時点(4月1日)で十分なデータが収集できており、日本で分析した結果を元に提案書を書いている最中です」

 
ベトナムは今ITの黎明期

ソフトバンクテレコム・ベトナムは2012年に現地法人を設立。日系企業向けのITインフラサービスを主に進めてきたが、今後はITを活用したベトナム社会への貢献にシフトさせたいという。そのための「仕掛け」はいくつかあり、一番早く形になったのが本プロジェクトとのこと。

マイリンタクシーのステッカー
マイリンタクシーのステッカー

そして現在、交通省への提案と並行して進めているのが、二輪での同様の実証実験だ。ベトナム政府からも「バイクで試してほしい」と言われているようで、二輪大国のベトナムならでは。バイクの場合はWi-Fiが不要になるためGPSとセンサーだけの装着になり、機器を小型化できる。ただ、機器を設置するバイクの選別が必要になるため、そこは「政府の協力を仰ぎたい」と考えている。

「弊社は通信キャリアなので外資規制がありますから、ITの活用ではローカルキャリアと組んだコンシューマー向けサービスも始めたいです。例えば、日本でノウハウのある携帯電話ショップの運営やブランディングなどで、一般の方にも弊社の知名度を上げたいですね」

同社がアジア地域で進めているのが、ITやインターネット系企業への投資だ。ASEANではGrab Taxiの筆頭株主であり、現在は他の投資先を調べているという。

「ITを活用したビジネスには時間が掛かりますが、基本的にはB to Bか、ローカルキャリアと組んだB to B to Cになると思います」

ベトナムにはまだ最新テクノロジーが広まってなく、「発展前の黎明期」と森本氏は語る。しかも、ベトナム人は新し物好きで、特に若い人はテクノロジーに関心が高く、人材面でもビジネス環境としても十分期待できると考えている。

「政府もITエンジニアの教育に熱心で、実際に若い人が育っており、ベンチャー企業も増加しています。伸びしろを感じますね。ただ、人件費の安さだけを目的にしたオフショアでは、人件費が上がった場合に他国に発注が流れてしまう。ベトナムならではの付加価値がないと難しくなると思います」

ハザードマップの例
ハザードマップの例