日本貿易振興機構(JETRO)ホーチミン事務所
課題もあるが、外食産業に進出の追い風は吹く

 

日系外食チェーン店のベトナム進出はどう変わるのか。外資系企業の独資参入、チェーン展開の不安材料であるENT、物流などの環境整備について、日本貿易振興機構ホーチミン事務所に尋ねた。

 

日本料理店の最近の傾向

所長 安栖宏隆氏

ベトナムの日本料理店はホーチミン市で300~350店、ハノイで100~150店ほどといわれるが、店舗数は確実に増えているという。その背景には、飲食業を含めた法律、税務、人材紹介、不動産、IT、教育など、日系サービス業全体の進出増加があるようだ。

「サービス業の進出はホーチミン市でまず火が付き、日系企業が増えましたが、ハノイはホーチミン市の2~3年後にブームとなる傾向があります。そのため、現在の日本料理店の増加率は北部が上で、累計数では南部が多いという状況です。

どちらの地域でも、最近進出する日本料理店は、ローカル客をターゲットにした店が目立ちます。立地もこれまでは日本人が集まるエリアに集中していましたが、最近ではローカル客をターゲットとするのに伴って、エリアが広がってきています」

このように日系飲食店は増加中だが、日系外食チェーン店の進出は始まったばかり。今まで独資での進出は無理でも、フランチャイズでは参入できたはずだ。なぜこの数年で増えてきたのか。

「現地での食材調達、ある程度安定した物流、高めの価格でも支払える中間層の増加など、事業のための条件が整ってきたからだと思います。ただ、ベトナム人は日本食に慣れていないため、1つのメニューを売りにする『専門店』の普及には時間がかかりそうです。実際、専門店さんでも日本食全般のメニューを一通り揃えているところが多いですね」

 

独資解禁とENT

では、WTO加盟の際の約束による、今年1月からの「外資系企業への独資解禁」はどう影響するのか。安栖氏は、「外資系企業進出の追い風になるはず」としながらも、以下のように語る。

「元々日本とベトナムでは日越投資協定を結んでおり、日本企業は飲食業についてもライセンス取得に制限がないということでしたが、実態は難しい状況が続いていました。今回の独資解禁では、約束通りに運用されるのかに注目しています。実際には、外資系サービス産業の投資は、特に大都市ではマスタープランとの整合性チェックなどがあり、手続きの透明性が求められます。高い透明性のある手続きと明確な判断基準を、政府に強く求めているところです」

ENTについては、内容を取り違えている人も少なくないという。ENTは2店舗目の出店の際に審査が必要となるものだが、飲食業にENTは適用されない。ホテル併設のレストラン以外は外資系名義にできない(2015年1月からは制限なし)という規制と混同し、ホテル内のレストランは審査がなく、路面店では審査されると思っている人だ。

また、小売業にはENTがあるが、以前に外資系の大手スーパーがENTに通らなかったことがあり、その噂が拡大しているのではないかと、安栖氏は語る。

「飲食にENTはありませんし、小売りで審査がパスしなかったのはこの1件だけだと思います。日系企業では聞いたことがありません。噂話が広がって不安材料になり、進出を躊躇している企業があるなら残念だと思います」

 

日系流通業の進出に期待

外食チェーンの事業は、大量仕入れでメニューや食材を作るセントラルキッチンの利用や、効率的で無駄のない物流システムを構築することでメリットが出る。これらに欠かせないのが、特に日本料理で多用される生鮮食品を低温で輸送するコールドチェーンだ。

しかし、ベトナムでは一般家庭に冷蔵庫が普及したのも最近で、低温・冷凍保存など温度管理への意識がまだ低い。そのため、冷蔵・冷凍のためのトラックや倉庫は少なかったが、最近ではこうした業務用の設備が増え始めている。実際、ローカルの大手企業でも、自社で冷蔵・冷凍のトラックや倉庫を持ち、コールドチェーンを進めているところも出てきた。

「2014年で顕著だったのは、日系企業の流通分野への進出です。冷蔵・冷凍庫付きトラックでの物流や、食品を保存できる冷蔵・冷凍倉庫が次第に整備されており、将来的なコールドチェーンに期待できます」

ベトナムの都市部では現在、食べられない日本食がなくなりつつある。しかも、味もサービスも上々な店が増えている。それは外食チェーンというより、個人で飲食店を開業してきた方々の努力が大きい。

「個人の方が今までなかったメニューにチャレンジして、進出してくれたおかげでしょう。多くの日本食が揃ったことで、今は顧客の嗜好や価格帯など様々な市場分析がしやすくなりました。チェーン展開のできる環境も揃いつつあります。今後もローカル客を対象にする企業が多いと思いますが、一方で『本格志向』のベトナム人も増えている。これからは、こうした人に向けた店も育っていくと思います」

 

ベトナムの外食・ホテル産業の売上額推移

 

出所:ベトナム統計総局(2013年は速報値)
※1USD=21500VNDのレートで一律に計算
VND=10億VND
USD=億USD

 

ベトナム人の好きな外国料理

 

出所:JETRO「日本食品に対する海外消費者アンケート調査(ホーチミン編)」
調査対象:ホーチミン市に居住する10~50代男女500人(国籍:ベトナム人99.8%)
調査期間:2013年12月5日~2013年12月13日
※好きな外国料理を1~3位まで必ず3つ回答(同じ外国料理は複数回選択不可)
数値は1~3位の合算

 

ベトナム人の好きな日本料理

 

 

出所等は上のグラフと同じ
※好きな日本料理を1~3位まで必ず3つ回答(同じ料理は複数回選択不可)
数値は1~3位の合算