撮影:大木宏之、杉田憲昭

YAZAKI EDS VIETNAM LTD.
「地域貢献」の充実で離職率を4~5%に維持

海外44ヶ国に166法人、総拠点462を持つ矢崎総業。ベトナム南部に展開する矢崎EDSベトナムは、従業員の「モチベーション向上活動」として、地域貢献と福利厚生の充実に注力する。

 

他社にも開放する工場内の託児所

 

PRESIDENT 澤入 誠

矢崎EDSベトナムは、本社のジーアン工場のほか、ミーフック工場、2012年から稼働のチャビン工場を持つ。生産するのは矢崎総業の主力商品である、自動車部品のワイヤーハーネスだ。100%が輸出用で、その内約90%が日本向けという。

3工場を合わせて約1万1000人が働くが、細かい作業が伴うため、手先の器用な女性従業員が約90%を占める。平均年齢は約25歳。そんな彼女たちのために作られたのが、2009年4月にミーフック工場内に設置された託児所だ。

「本社工場は周辺に託児所があるのですが、ミーフック工場は町まで距離があるため、託児所の利用には不便でした。そこで工場に併設しようという話になったのです」

託児所の運営は学校法人の保育所に委託しており、働く保育士は20人ほど。生後4ヶ月以上の子どもが対象で、希望者は誰でも受け入れる。運営時間が朝6時から夜10時半までと長いのは、6時~14時と14時~22時30分という、工場の2部制シフトに合わせたためである。

「工場の稼働中は託児所を運営しているわけです。従業員の負担は食費などの実費のみになります。所内にはキッチンがあり、子供たちのための調理ができるようになっています」
同社の取り組みがユニークなのは、同じ工業団地内の他企業にも託児所を開放していることだ。2014年12月現在で、自社従業員から191人、社外から74人、合計265人の子どもを預かっている。このためか、同社では託児所を福利厚生ではなく、「地域貢献活動」と位置付けている。

「仕事ができるのは現地の人のおかげ。弊社は労働集約型で、多くの人に地方の工場で働いてもらいますから、特に地域に恩返しをしたいと思っています」

地域貢献活動にはほかにも、視覚・聴覚支援学校と連携した障害者雇用、小、中、高校への図書の寄贈、学生への奨学金などがある。

 

種類が豊富な福利厚生の数々

 

ミーフック工場内の託児所

同社では福利厚生もかなり充実している。例えばQCサークルで、ベトナム大会で最優秀サークルになると、毎年日本で開催される大会に出場できる。すなわち、日本に行けるチャンスがあるのだ。 

また、ベトナム人ワーカーに関心の高い「社食」では、ヨーグルトやジュースが付く「プラスOneメニュー」が週に1回、通常の2倍以上の単価で作る「特別定食」が月1回ある。毎週の誕生日祝いでは小品が贈られ、中秋節には従業員とその子供に月餅がプレゼントされるという。

「誕生日にはシャンプーとリンスのセットなどを渡します。大したものではないのですが、皆がとても喜んでくれますね」

料理、生け花、カラオケから、アオザイのファッションショーまでの「コンテスト」も開催されている。それぞれが年に1~2回のイベントで、上位入賞者にはプレゼントが贈られる。審査員はその道のプロに依頼するというから本格的だ。コンテストなどの運営は労働組合が行っており、予算は会社が負担しているという。

約80%の従業員が省外出身のため、テト期には帰省バスをチャーターし、地元に残る人には大忘年会を開く。また、創立記念日には家族納涼祭として、ベトナムのトップ歌手を呼んでコンサートを開催している。

「日越の従業員の子どもを互いの国に1週間ほど滞在させる、『サマーキャンプ・イン・ベトナム』と『サマーキャンプ・イン・ジャパン』も年に一度行います」
こうした福利厚生や地域貢献の活動が認められ、2014年7月には労働省から最優秀組合活動表彰が授与された。全国で3社が選ばれたうちの1社だったという。

 

定着率の向上と共に応募者の獲得も

 

テト期の帰省バス

 

「毎月のようにイベントがあり、皆が喜んでくれるので、今後も続けたいという気持ちです。一方、企業としては、雇用対策という意味もあります」

同社のワーカーの離職率は1ヶ月に4~5%と、一般的な日系工場より低く、澤入氏はこの率は維持したいと考えている。

また、各種コンテストや有名歌手のコンサートには、新規の応募者獲得という側面もある。離職率が4~5%でも、3工場を合わせると月に400~500人の退職となる。簡単に採用できる数ではないので、「あの会社は楽しそうだな」と関心を持ってもらい、応募のきっかけになればという思いがある。

「今後は他の工場にも託児所を作るつもりです。また、イベントにはチームプレイを増やしていきたいですね。カラオケやショーですと、自分の出番が終わると興味がなくなってしまいますから。綱引きや玉入れだとあまりに日本的かな(笑)」