世界で得た実績と知見で
ベトナム新時代に貢献する

大手総合商社の「丸紅ベトナム」は、2021年4月に環境省「二国間クレジット制度」(※1)を利用したベトナムにおけるフロン類の回収・破壊プロジェクトを開始した。成長を続けるベトナムでの内需ビジネスや今後の展望を聞いた。

100%独資による
工場の立ち上げで勝負

――現在行っているベトナムでの事業を教えてください

井上 大きく2つに分けると、電力発電所の建設・事業投資、各種プラントの建設などのインフラ関連ビジネスと、食品、化学品、紙製品、金属資源などの幅広いコモディティー(個別の商品)分野のトレード・事業投資があります。

1970年代から手がけている発電所の開発は、ベトナム国内で全12件の建設実績があり、現在はタインホア省ギソン地区に発電所を建設中です。本案件では建設のみならず、事業投資として運営も行う予定です。

コモディティー分野のトレードで水産加工品の輸出は毎年増加傾向にあります。具体的には、ベトナム近海で取れたエビなどをベトナムで加工し、日本や欧米に輸出販売しています。

2020年からバリア・ヴンタウ省にてインスタントコーヒー工場の建設に着工しました。弊社は約50年にわたりブラジルで100%出資のインスタントコーヒー製造販売会社「イグアスブラジル」の経営・操業経験があり、インスタントコーヒーの製造の知見を蓄積してきました。その技術や販売ネットワークに加え、弊社のコーヒー原料調達力を活用し、ベトナムにおいてもインスタントコーヒー製造販売事業を開始する予定です。

2020年末には、100%独資にて段ボール原紙製造会社「クラフトオブアジアペーパーボードアンドパッケージング」を稼働開始しました。段ボール原紙を製造販売する興亜工業(丸紅出資80%)、福山製紙(丸紅出資55%)の経営経験を活かした事業です。

段ボール原紙の需要はeコマースの伸長に伴い、ベトナム国内のみならず世界で更に需要が増えると考えています。もちろん、省資源・省エネの技術も取り込みながら、事業の拡大を目指します。

経済発展と環境保全を
両立させる施策を

――内需向けのビジネスにおいて、課題点だと感じることは?

井上 ベトナムでビジネスを行う際に、よく課題として言われるのは法令の不明瞭さ、税制の複雑さ、そして物流の非効率さ等です。このような課題をどのように克服していくかによって、今後のベトナムでの内需向けビジネス拡大が左右されるものと感じています。

(写真上)アマタシティ・ハロン工業団地の完成予想図。(写真下)100%出資の段ボール原紙工場。環境負荷が少ない天然ガスを使用し、CO2排出量を石炭の半分に抑えている

加えて、今後事業を推進していく中で、当然のことながら環境(産業廃棄物や温室効果ガス等)問題にも焦点が当たっていきます。弊社では、環境に配慮した液化天然ガス(LNG)を利用した火力発電所事業や再生可能エネルギー事業への取り組みを推進すると共に、2021年4月にはベトナムにおいてフロン類の回収および回収後の破壊事業を開始しました。

同事業は、日本の環境省の「二国間クレジット制度を利用した代替フロン等の回収・破壊プロジェクト補助事業」のもとで行っています。

また、バイオマス発電の燃料として以前から取り組んでいる木質ペレットの販売事業も、さらに日本への輸出を増やしていく予定です。

今後もこういった形で環境に配慮したビジネスを構築し、温室効果ガス削減に貢献できる案件に取り組む予定です。ベトナムの経済が成長しているとは言え、世界的な潮流に即した環境をしっかりと整えていかないと、成長は鈍化してしまうと考えています。

バリア・ヴンタウ省で建設中のインスタントコーヒー工場は、2022年からの稼働を見込む。画像は完成予想図。ベトナムはインスタントコーヒーの主原料であるロブスタ種の世界最大の生産量を誇る(※2)

――――工業団地の開発や販売にはどのような戦略がありますか?

井上 当社は工業団地や経済特区の開発・販売を1980年代以降、タイ、インドネシア、フィリピン、中国、ミャンマー、インドで取り組んできました。

2021年3月には、タイの大手工業団地ディベロッパーであるアマタのグループ会社、アマタシティ・ハロンがクアンニン省で開発を進める、アマタシティ・ハロン工業団地の販売代理契約を締結しました。

この工業団地は経済特区の指定を受けており、ベトナム国内最高水準の税恩典が享受できます。コロナ禍でも投資の伸びが期待されることに着目し、ベトナム進出を検討する日本やアジアの企業の誘致を行う予定です。

将来的にはただ販売するのでなく、フィリピンなどで取り組んでいるスマートシティ案件で得た知見を活かしながら、スマート化、インフラの整備など、付加価値を付けて次世代型工業団地を提案していきます。

――今後の展望を教えてください。

廃棄家電や自動車などから回収するフロン類の破壊を目的とした専焼炉を導入し、試運転を行った

井上 中国からの生産移管先として注目を集めるベトナムは、人件費の安さが企業にとっての魅力ですが、今後は人件費の上昇が予測されます。そのような流れから、ベトナムでもより高度な人材を確保するための取り組みが必要と考えています。

例を挙げると、先に述べた段ボール原紙工場では、工場の建設が始まる前段階からベトナム人の優秀な新卒者を雇用し、日本語テストの合格者のみ日本の興亜工業で技術トレーニングを受けてもらい、その後にベトナムの工場に配属することで、技術向上を含めた人材育成を行っています。

ベトナムはここ数年著しい経済発展を遂げてきています。それに合わせて、進出している日本企業のあり方も変化していく必要があると思います。常に「次のステージ」を見据えながら、地場企業との協業、環境課題への取り組み、高度人材の育成などを行い、ベトナムの経済成長に貢献したいと考えています。

※1 日本の持つ優れた低炭素技術や製品、システム、サービス、インフラを途上国に提供することで、途上国のGHG削減など持続可能な開発に貢献し、その成果を2国間で分けあう制度。出典:地球環境センターHP

※2 出典:米国農務省(USDA)のレポート。https://apps.fas.usda.gov/psdonline/circulars/coffee.pdf

COMPANY INFO
東京都に本社を構える総合商社の「丸紅」は、1991年に駐在員事務所を開設。2011年に現地法人「丸紅ベトナム会社」を設立。発電所の建設、インフラ整備、水産物や食品加工などの事業を展開する。
General Director 社長 井上 聡一
SOICHI INOUE
1968年生まれ。1990年に丸紅株式会社に入社。タイ、イギリスでの駐在経験の後、2018年より現職。2021年4月よりベトナム日本商工会議所(JCCI)の会頭を務める。