順調に成長を続けるベトナム経済において、その動向が特に注目される分野がある。完成車の輸入関税が撤廃された「自動車」、急騰を続ける「株式」、バブル再燃とも言われた「不動産」、経済発展に連れて拡大する「物流」だ。第一人者に「2018年」を聞いた。

 

数年前から好況が続く不動産市場。バブル再来を懸念する声もあったが、2017年には多少の落ち着きも見せた。世界的に不動産サービスを展開するCBREは、購入者のニーズに対応した新たなステージに入りそうだと語る。

ミドル市場が拡大 南北で動きに差

「昨年は年初からバブルか、あるいは市場が下落するかなどと懸念されていましたが、CBREはバブルではないと見ていました。コンドミニアムの供給においては南北で差が出ました」

市場全体を見ると、2011年は低迷して2012年は底まで落ち、2014年から回復し、2015年からはブームに。2016年は勢いを増して、2017年は少し落ちつく傾向が見られた。1㎡当たり800USD以下を「リーズナブル」、800~1500USDを「ミドルエンド」、1500~3500USDを「ハイエンド」、3500USD以上を「ラグジュアリー」とすれば、ホーチミン市では2015年からハイエンドの新しい大型物件が多く供給された。これはバブルではなく、戦略的な立地かつキャピタランドやケッペルランド、ビングループ、ノバランドなど評判の良い投資会社のもので、吸収率も高かったという。


しかし、2015年に販売されれば引き渡しは2017年以降となる。この時期にこうした優良物件が一斉に賃貸に出されたために賃料が安くなり、2017年に市場はスローダウン。コンドミニアムの新規供給は多少減り、「VinCity」などいくつかの物件では販売が延期されたという。
「ハイエンドのニーズは常にあるわけではありません。逆に昨年はミドルエンド市場が拡大しており、ビングループなどの大手も手掛けています。これは良い兆候だと思います」

ホーチミン市の住宅地区は北と西に集まっていたが、多くが開発されてほぼ埋まり、現在は南と東に開発が集中。例えば、南なら7区のフーミーフン地区、東なら2区のトゥーティエム地区で、どちらも20年ほど前から開発されてきたが、近年は形が出来上がってきたそうだ。特にこの2~3年で開発が進んだトゥーティエムでは、「SALA」や「Empire City」などのハイエンド物件が話題だ。

「2区ではメトロ1号線(地下鉄)の駅ができるタオディエン地区も有望で、周辺で開発が進んでいます。『Masteri Thao Dien』や『D’Edge Thao Dien』はほぼ完売。トゥーティエムやタオディエンは、将来の収益率の高さに期待して買う外国人投資家も多いですね」
また、不動産好況の中で国内のデベロッパーが経験を積み、カンディエン、フッカン、ナムロン、ダットサインなどが積極的にミドルエンドに進出。ローカル企業からの供給増でベトナム人の手に届きやすくなるのは朗報だという。

一方、ハノイではコンドミニアムは前年より約16%増加し、2017年は過去5年間で最大量となった。市内の多くの地区で供給されたが、中心部以外にも拡大し、ドンアン地区で初めて「EUROWINDOW RIVER PARK」が販売。新規物件の大半はミドルエンドで、2017年の新規供給の80%を占め、今後もミドルエンドとリーズナブルが主流になるようだ。

「購入者は設計、内装、インテリアなど質の高い物件にこだわり始めており、供給の増加と競争の激化にもかかわらずよく売れています。高品質物件へのニーズは引き続きあるでしょう」

観光地のコンドテルに注目 コンドミニアムは動きあり

不動産市場の拡大は観光地の休暇用住宅やコンドテルにも及ぶ。ニャチャン、フーコック、ダナンなどのリゾート地では特に高級ホテル建設が続くと共に、コンドミニアムの購入者がホテル運営会社に委託して部屋から賃料収入を得る「コンドテル」への投資が進む。


グラフ出典:CBRE

「一番目立つのは経済都市でもあり国際線の就航が増えるダナンです。ただ、新興のフーコック島は特別行政・経済区(経済特区)になることが今年決まれば、投資が進みホテルなどの稼働率も上がるはずです」

コンドテルの購入理由は収益で、毎年8~10%の利益保証が魅力という。ただ、休暇用の不動産を外国人が購入できるかは法的に不明なので、ベトナム人の購入者が多い。

コンドテルは2015年に大量の供給があって昨年は落ち着いたが、その理由には大型プロジェクトが少ないこともあった。将来的には多くの物件が販売され、特に経済特区になればブームも起こり得るという。

「しかし、法的な明確性の欠如と、投資会社からの利回り保証の増加はリスクをはらむので、懸念すべきでしょう。一方、都市部のコンドミニアムは、2018年にハイエンドの大型物件が販売される一方、競争圧力により下位の物件の質が改善されると思います」

マクロ経済の発展と豊富な若い労働力は今後のベトナム経済を促進させるとCBREでは見ており、急速に都市化が進むハノイとホーチミン市には、不動産開発の可能性が高い土地が残っている。不動産市場は今後も堅実に成長する一方で、投資会社はセールスチームを専門化したり、マーケティング活動を本格化するなどに迫られるという。