ASEANのモノづくりで 世界のワコールを広げたい
ワコール vol.4
1997年にビエンホアで工場を操業したワコール。現在では約2100人が働く、グループ最大の生産拠点に成長した。製品のほとんどは日本向けだが、今後は欧米へも輸出したいと、酒向孝佳社長は夢を語る。
ほぼ完全に手縫い生産珍しい「一物多国」
―― ベトナム工場ではどんな製品を作っていますか?
酒向 パジャマ以外のすべての商品です。操業当初は量販店向けの「ウイング」だけでしたが、主力ブランドの「ワコール」もスタートさせ、現在ではスポーツウェアの「CW―X」も生産しています。また、国内には、ハノイとホーチミン市に合計23の販売店があります。
―― 工場内を拝見しましたが、ミシンによる手作業なのですね。
酒向 ほぼ100%手縫いで、これは日本を初め各国の工場でも同じです。例えばブラジャーなら40点以上のパーツがあり、約25種類の素材や部材から構成されるので、機械化は難しいのです。
ベトナム工場では以前に水着も生産していたので、パジャマ以外の全ての製品を縫えるノウハウがあります。
―― 工場は各国にあるのですね?
酒向 アジアでは、100%出資の直営工場がベトナムと中国の広東、大連、北京にあり、合弁会社は台湾、上海、タイ、インドネシアなどにあります。日本のデザイナーやパタンナーが設計図を起こし、基本的に日本の材料を使って、各国で同じ製品を生産しています。
設計図、材料、縫製が同じとなる「一物多国」の生産方式は、アパレル業界では少ないと思います。「一物一国」が普通ですね。
―― 海外生産のメリットは、材料の現地調達にもあるのでは?
酒向 弊社がベトナムに進出した理由は、中国工場への一極集中リスクを避けるためと、人件費の安さ、加えて現地調達も狙ってのことでした。ただ、現実的に現地調達は難しい。材料にはレース、生地、テープ、リボンなどがあり、例えばレースには中国産や台湾産もあるものの、最も困難なのが生地です。生地の海外調達率は10%以下です。ただ、タイなどのASEAN諸国から徐々に調達を始めています。
ASEANで材料を調達し世界のワコールを支える
―― 御社の日本人駐在員は酒向社長だけとか。
酒向 はい。日本人は私だけで、ベトナム人の部長4人とマネジャー10人に会社を回してもらっています。弊社の従業員は約2100人いますから、「その人数を1人で見るのは大変でしょう」とも言われますが、私は日本人が5人、6人いるほうが面倒くさいのではと思ってしまう(笑)。
仕事は現地の人に任せた方がいいし、将来的には社長もベトナム人にできればと思っています。ここはワコールではなく、「ベトナムワコール」なのですから。
―― 会社がまとまるまでにはご苦労もあったと思います。
酒向 トップの考えを従業員に落とすのが、特に大変だったと聞いています。しかし、赴任早々に工場内を回ったとき、ミシンを片足で踏んでいる従業員が何人かいたんですね。弊社ではミシンは両足で踏むものと教えています。
翌朝、部長やマネジャーが集まる会議でそれを指摘すると、翌日には工場の全員が両足でミシンを踏んでいました。ここまでの徹底は日本でも難しいこと。トップの意向が従業員まですぐに伝わることを実感しました。
ただ、ベトナム人には「納得しないと動かない」という気質はありますが(笑)。
―― 今後はどのような経営を?
酒向 まずは管理職のスキルアップで、特に提案力を引き出したい。例えば、報告をもらう際には常に「それでどうする?」と聞き、答えが出ないときは、「明日までに皆で相談してください」と伝えています。すると、翌日に提案が上がってくるようになりました。
こうしたOJTは不可欠だと思いますし、管理職向けの研修カリキュラムも作成する予定です。管理職に提案力が備われば、自ずと従業員に広がるはずです。
―― 生産している製品は日本向けが多いのですか?
酒向 95%が日本向け輸出品で、台湾、中国、イギリス向けなどもあります。ただ、日本のインナー市場は縮小傾向にあり、アウター業界からの参入や安価な輸入品も増えて、今後の需要増は見込めないと見ています。
一方、ワコールはイギリスの女性用下着メーカーのエビデンを2年前に買収して、同社を中核にワコールヨーロッパを作りました。ここの発注を取り込みながら、日本以外のワコールグループの発注を取っていきたい。
そのためには、少しずつ始まっているASEANでの材料調達がカギになります。実現すればベトナム工場はかなり有望視されるはず。5~6年後にはASEAN中心でのモノづくりで、世界の「オールワコール」を拡大させたいですね。
VIETNAM WACOAL CORP.
General Director 酒向 孝佳
1965年生まれ。大学卒業後にアパレルメーカーに入社。25歳のときに株式会社ワコール(当時)に転職。営業職、バイヤー、マーチャンダイザーなどを経て、技術・生産本部の生産管理部長に。2014年4月より現職。
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