コンシューマー製品の活躍で目立つ日系企業が多い中、優秀なB to B製品を提供する企業も数多い。一般的な知名度は低くても、産業を支える名脇役だ。そんな「知られざるB to B企業」の、実力と底力をぜひ知ってほしい。

 

1994年にドンナイ省に日本ペイントベトナムを、2005年にはハノイに日本ペイントベトナム(ハノイ)を設立した日本ペイントホールディングス。2014年にはビンフック省にも工場を設立し、3工場体制で様々な塗料を生産する。

北は四輪・二輪用 南は汎用塗料がメイン

日本ペイントベトナム(ハノイ)の北部2工場で生産・販売しているのは工業用塗料だ。四輪用と二輪用がメインで、四輪はトヨタ、ホンダ、マツダ、日産自動車、三菱自動車、スズキ、いすゞなど、二輪はホンダ、ヤマハ、スズキなど数多くのメーカーに納入しており、どちらも高いシェアを得ている。

「近年では自動車用補修塗料の生産・販売が増加中で、メーカーではなく四輪・二輪のショールームやディーラーに納品しています。用途は傷ついたボディの塗装などで、この分野を含めて四輪・二輪用塗料で売上の約9割を占めます」

ビンフック省の工場

その他は家電など一般工業製品や家具用と、主に建材に使われる鋼板用だ。鋼板用はカラーコイルメーカー向けの塗料で、日系や外資もあるが顧客はほぼローカルメーカー。実は日本ペイントは日本や中国でカラーコイル用塗料のシェアがトップ級で、これらの国ではカラーコイルを用いて家電製品などを作るのが一般的。加工技術が必要なのとニーズが少ないのでベトナムではこれからだが、その分の潜在需要が見込めるという。

クアンミン工業団地内の工場

南部の日本ペイントベトナムで主に生産・販売しているのは汎用の水性塗料。20L、5L、1L容量の建築用塗料などを、塗料店などベトナム全土の小売店に納めている。個人向けが主だが法人向けにも案件ベースで販売しており、北部と南部の売上はほぼ半々で、どちらも大きく成長しているという。

例えば、カラーコイルは使われた製品が輸出されるケースもあり、今後のボリューム増も見込まれる。活況の戸建、コンドミニアム、商業ビル、ショッピングセンターなどの不動産物件では建築用塗料が益々求められる。四輪と二輪では先のようにメーカーの生産ラインで使用される純正塗料や補修用塗料が伸びている。

「新しいニーズも生まれています。例えば、駐車場の床はむき出しのコンクリートが普通でしたが、新築のショッピングセンター内では固いエポキシ樹脂の塗料が使われるなどです。また、車の需要増に合わせて複層階駐車場の需要も急激に高まり、これらのエポキシ塗装の需要も上昇しています」

技術サポートがカギ テクニカルセンター完成

日本ペイントは世界各地に工場を持っており、現地での生産と販売が基本。理由はサポートを含めて顧客ニーズに迅速に対応するためで、特に四輪・二輪メーカーは色や耐候性能にシビアなので、色の検査や品質管理などで技術チームが必要になるという。

「塗料には太陽光にも色褪せないなどの耐候性、耐衝撃性、耐薬品性などが問われるので技術力が必須です。日本ペイントは1881年創業の総合塗料メーカーで、長年培ってきた技術力があり、中国をはじめアジアに圧倒的な知名度を持つと自負しています。現在、アジアではナンバーワンの売上規模となっています。」

柳氏によれば、多くの国には地場の塗料メーカーがあり、ベトナムでも同様。ベトナムでの価格競争は特に建築用と汎用で顕著で、現地生産の同社製品はローカル企業と比べて1割高い程度、同等か安いものもあるという。

建築用塗料

ただ、顧客は価格だけでなく品質、ブランド、サポートなどを含めて塗料を選ぶ。サポートでは技術的なレクチャーを求める企業が多く、同社は24時間体制で、日本人とベトナム人が全国の顧客を対応している。

「お客様は自社で塗装の工程を管理したいのですが、専門の塗装従事者が社内に少ないようです。そのため、ご相談は3割が塗料の品質で、7割が塗装の技術や施工の工程管理について。後者で一番多いのは現場で正しく調色、攪拌、希釈する作業や最適なツールを最適な環境下で施工することなどで、これらを教えるようになります」

必要があれば近隣のタイや日本からも応援が来るそうで、経験の深さに加えて海外拠点とのネットワークも強みとなっている。ここまでのサポート体制は同業他社には少ないのではないかと柳氏は語る。

来年には、ハノイにある日本ペイントベトナムのクアンミン工業団地内に、テクニカルセンターが完成する予定。日本はもちろん中国やシンガポール、タイにはこうしたセンターが既にあり、ベトナム拠点はこれらの国と肩を並べる存在にランクアップする。微細な検査などができるようになり、ベトナム独自の商品開発も可能になるという。

「塗料を含めて、BtoBビジネスの将来性はまだまだあると思います。私は2005~2009年にタイにいましたが、10年前でもBtoB企業がかなり浸透している印象でした。比べるとベトナムには参入余地が多く、日系やローカル以外にも台湾系や韓国系など納入先は広がっています」