強度な農薬を乱使用して育てた肉、野菜、魚。原料や原産地が不明な食材や加工食品。
多くのベトナム人がこうした「食」に危機感を感じ、高価でも確かな品質を選ぼうと動き出した。
「食の安全」は既にニッチ市場ではない。

 

フリーズドライ食品にも健康志向のブームが到来。輸出向けの業務用から始めたASUZAC FOODSは国内市場にオリジナル商品を投入し、高価格帯ながらインスタントの「お粥」や「スープ」が売れ筋となっている。

オリジナル商品が時代の変化でヒット

フリーズドライ製品で知られるアスザックフーズは、1994年に現地酒造メーカーと合弁で食品工場を設立。1997年に食品部門として独立したのがASUZAC FOODSだ。ベトナムでは真空凍結乾燥のフリーズドライ食品と、熱風乾燥のエアドライ食品の開発・製造を行っており、主要な製品はフリーズドライが野菜と果物を中心に肉やシーフード、エアドライはキャベツ、ネギ、ニンジンなどだ。

「最初は日本への輸出が多かったのですが、徐々にベトナムの企業に業務用製品の提供を始めて、2008年からは一般消費者向けのオリジナル商品を発売しています」

インスタント粥「さかながゆ」

インスタントスープ「とうふわかめすーぷ」

こう語るのはホーチミン市工場の工場長を務めるMs. Thu。同社は2000年にホーチミン市にある現在の工場に移設後、2005年にはダラットに第2工場を設立した。前者では野菜からシーフードまで素材の全般を扱い、輸出用と国内用の商品を製造。後者で扱うのはほとんどが野菜で、日本への輸出用が100%だ。

日本への輸出はほぼ業務用で、インスタントラーメン、インスタント味噌汁、業務用おにぎりの具材、スープの素、パンに練り込む具材など、多様な食品でフリーズドライ製品を提供している。一方でベトナム企業向けにはインスタントラーメン用が主で、各メーカーに納入している。

業務用に加えて、2008年には初のオリジナルブランド商品である「Cubee」シリーズをベトナム市場に投入した。「牛乳で戻すFD(フリーズドライ)フルーツデザート飲料」は名前の通り牛乳に入れて戻す乾燥フルーツで、イチゴなど数種類を販売したが売行きが伸びず、現在は販売を中止している。マーケティングマネジャーのMs. Ngaが語る。

「当時はまだ、ベトナム人は健康や食品の品質に興味がなかったのだと思います。しかし、考え方は変わりました。2012年に発売したインスタント粥『Chao Dinh Duong』は1ヶ月に約1000カップしか出ませんでしたが、今では人気の『ポーク粥』だけでも6000カップ出ています」

この商品は市場価格が1万7000VNDと高く、競合のローカル商品なら3000VNDからあり、高くても8000VNDとのことだ。その後2013年にはインスタントスープの『Chan An Lien』を発売。特に『わかめスープ』は素材のわかめが輸入品なので4万~5万VND弱と高価格だが、当初1ヶ月で2000カップだった出荷が、現在では12万カップとヒット商品に成長した。これらの商品は日系を含めたスーパーやコンビニで売られている。

「2010年くらいまでベトナム人消費者は安さを求めていましたが、2010年以降は品質が加わりました。これは企業も同様で、インスタントラーメンメーカーも意識が変わりました。以前の具材はエアドライが中心でしたが、フリーズドライにシフトしています」(Ms. Thu)

エアドライの具材はお湯に入れても少し戻る程度だが、フリーズドライは90%程度戻るので美味しく、食感もよく、匂いも違ってくるという。ただ、値段はエアドライの3~4倍するそうだ。

ダラットの農場

品質はダブルチェック野菜は自社・契約農家

2つの工場にはX線検査機、金属探知機、ガスクロマトグラフ質量分析計などの検査機器があり、収穫前の原料検査(主に農薬)と製品検査(菌、農薬、水分など)を行っている。これらに合格したものを先行サンプル検査のために日本本社に送り、ベトナムと同じ検査をして、同じ結果が出たものだけをベトナムで販売する仕組みとなっている。日本はベトナムと基準が異なるので、輸出した場合は日本側での受入検査と出荷検査が加わる。

同社の安全へのこだわりは原料にもあり、2009年からはダラットの農場で野菜栽培を開始した。6.3 haの自社農場ではホウレンソウとチンゲンサイを主に栽培し、同じダラットで280haの農場を持つ外資系企業を契約農家としている。同社で原料となる野菜は、全てこれらの農家から仕入れているということだ。そもそもベトナムに進出した理由は、人件費などコストの安さに加えて、原料となる野菜や果物が豊富にある国だからだという。

食品の検査

調味料においても消費者の健康を考え、塩や油の使用量を減らすなどを始めている。

「今まではMHという化学調味料を使うことが普通でしたが、日本でエキスが中心です。私たちもそうしたいのですが、まずはMHに慣れたベトナム人の味覚を徐々に変えていく必要があります。お客様の企業に提案しているところです」(Ms. Nga)