中間・富裕層が増加する中で、子どもに投資する親が増えている。玩具や服などのモノから、塾や習い事などの教育系、エンタメ施設まで市場は多彩で、ニーズ拡大は必至とみられる。膨張するキッズ市場を追った。

 

木造製品を開発・生産するDuc Thanh社は1991年の創業。「木のおもちゃ」としてベトナムの子どもたちに親しまれている「WinWinToys」ブランドは、日本を初め世界各国に輸出。成長は続くが戦略の手はゆるめない。

安全で高品質なおもちゃを自国で

Duc Thanh社は主に4つの製品、台所用品、家庭用品、屋内家具、子どもの木製おもちゃを開発・生産している。そのすべては天然ゴムの材料となるパラゴムノキから作られたもので、これらの合計の生産量は1ヶ月50~60コンテナにも上る。これは約1000㎡の挽き材(作業しやすいように機械で挽き割った材木)に相当するという。

パラゴムノキにこだわっているのには理由がある。天然ゴムの原料となるラテックスを取り終わったこの木は、切断されてレンガ窯や石灰窯での薪に使われていた。燃やされる薪は悪臭を放ち、健康被害も心配された。ならば、大量の木を捨てずに再利用して社会に役立てられないか、雇用を生み出せないかと考えたのが、創業者のMr. Le Baだったという。

その後、娘のMs. Le Hai Lieuが後を継ぐが(現会長)、ベトナムでは良質で安全なおもちゃが少ないことに気付く。世界の先進諸国を旅して、創造性があり、デザインが繊細で、子どもが安心して遊べる木造のおもちゃを知る彼女は、なぜベトナムの子どもは生産地が不明で、品質が悪いおもちゃを使っているのか、それはなぜ高価な輸入品しかないのかと考えた。そして、自身も小さな子の母親だった彼女は玩具市場への参入を決めたという。

WinWinToysのおもちゃ

いわば中核事業を横展開させた形だが、精巧に製作されて安全性を確保した木製玩具ブランド「WinWinToys」はヒットした。特に人気なのは、「子どもの歩行訓練カート」、「城の積木」、「12ブロックの蓮の形合わせ」、「ベトナム語勉強セット」、「数学勉強セット」などで、値段は10万~32万VND。主な対象年齢は0~7歳だが、「けん玉」や「ジェンガ」などそれ以上の年齢の子どもが楽しめる製品も多い。

「創業当初の職人は60人でしたが、今では2つの工場で1200人が働いています。販路も徐々に拡大して、全国64の省や都市にある1100以上の販売店や百貨店で販売しています」

輸出もスタートし、今では玩具の売上は輸出が48%に達している。特に日本、タイ、ドイツ、アメリカで販売中だ。顧客の信頼を得たおかげで、10年以上協力関係にあるパートナーもいるそうだ。この玩具市場で輸出された商品の発展が大きな契機となり、2009年にはホーチミン市証券取引所に上場。現在は上場時より収益が185%上昇しているという。

「近年は年率約10~15%増で安定的に成長しています。デザインの多様化、品質の高さ、搬送時間の厳守、カスタマーケアなどに注力し、25年に渡ってお客様に信頼されてきた証だと思います」

玩具市場に広がり教育的なニーズ

ただ、こうしたおもちゃはまだベトナムには少ない。その原因のひとつをMr. Thangは「ベトナム人は価格を重視するから」と語る。そのため、「品質も値段も高い商品」と「品質はさほど良くないが値段がとても安い商品」を比べると、後者を選ぶ人が多いのだそうだ。

「大切なのは、明確な出所があるブランドかどうか、そのおもちゃを通して子供が何を学べるか、創造力を発揮できるか、その費用を払う価値があるかを考えることです。安全で高品質で安い商品などありません。これは企業側の問題でもありますね」

最近ではベトナム人の所得が上がっているが、両親の収入が増えると消費ニーズが高まり、玩具市場も拡大しているという。

工場で働く職人・スタッフたち

そんな親たちは子どもに「教育性のある製品」を選ぶ傾向があり、好奇心、創造力、論理的な考え方などを伸ばすことを期待しているという。

「天然素材のおもちゃは環境に優しく安全で、職人の活気と繊細さで美術と想像力を表現します。また、長期間使用しても効能が変わらず丈夫で、親子のコミュニケーションも生まれます」

一方、インターネットやスマートフォンの一般化により、消費者は簡単に製品情報を得られるようになり、商品選択の好材料となる。ただそれでも、ブランドがない、原材料が不明、生産者の名前がはっきりしない、使い方のきちんとした説明がない商品があり、これらは買わないほうが良いという。

「市場では良いポジションにあると思いますが、常に新しいことを目指しています。受動的な状態を避けるため市場を多様化し、新しいお客を見つけること。企業活動においては理事会がタイムリーな指導を行うこと。職人のモチベーションを上げること。製品の展示販売のために小売店や百貨店と協力すること。オンラインショップでも販売と同時に宣伝を始めました。まだこれからです」