中間・富裕層が増加する中で、子どもに投資する親が増えている。玩具や服などのモノから、塾や習い事などの教育系、エンタメ施設まで市場は多彩で、ニーズ拡大は必至とみられる。膨張するキッズ市場を追った。

 

「公文式」で知られる日本公文教育研究会がベトナムに進出したのは2006年、翌年には初教室をホーチミン市に開校した。10年を経て生徒数は約8000人、教えるインストラクターは60人に増加し、英語塾など新事業も計画中だ。

教育の効果は点数よりも人生に

学力と自習力を独自の「ちょうどの学習」で教える公文は世界49の国と地域に教室を開催。ベトナムではホーチミン市に16、ハノイに1つがあり、今年はビンズン省に初の教室を設立すべく動いている。生徒は98%がベトナム人で、生徒数は合計約8000人。3~18歳が通うが、幼稚園の年長組から小学2年生までの3学年が多いという。

教材は日本と同じもので、設問などをベトナム語に変えただけ。そもそも「日本式」という概念がないため、国が違っても現地の教育カリキュラムや学力レベルに対応させていない。また、学年や年齢ではなく個人に合わせるので、例えば小学校4年生で小学1年や中学1年の内容を勉強をする子どももいる。


授業を受ける子どもたち

「タイ、インドネシア、マレーシアなど他のアジア諸国と比べて、ベトナムは入会年齢が2年程早いのです。教育に思い入れの強い保護者が多く、『入試や学校の点数を上げたい』というより、『子どもの人生にとって勉強はとても大切だ』という意識が強いと感じています」

教える先生(インストラクター)は約60人で、彼らを育てるのが何より大切という。進出当初は日本とシンガポールからの担当者が教育したが、この10年で人材が育ち、子どもたちを教える先生を教える人(インストラクション・デベロップメント)は9人となった。

進出理由は他国も同じだが、主に「教室を開いてほしい」、「自分の国で教室を開きたい」という地元からのニーズ。特に後者は教育への熱意や地域貢献を考える人が多く、ベトナムも同様だったという。

「10年の間に辞めていく人もいましたが、残っているのは公文の理念に共感してくれている社員。実際に話すと、『公文のことをこれほど理解しているのか』と驚くことばかりです」

CMなど特別なPRはしておらず、特にベトナムは家族や知合いからの情報を大切にする風土があるためか、口コミや評判で来るお客が多いそうだ。

公文に子を通わせる親の職業は様々で、世帯月収700万~1000万VNDの層が多く、95%はバイクで子どもを送り迎えするという一般家庭だ。

授業は1回45分で週に2回あり、月謝はホーチミン市で90万VND、ハノイで100万VND。価格はローカル塾に比べて決して安くはないが、高くし過ぎないように気を付けている。売上は緩やかな右肩上がりで、着実に伸びているが、生徒数が10万人規模のタイやインドネシアと比べると10分の1以下。これはベトナムだけフランチャイズ展開をせず、すべてが直営店だからだそうだ。

「コンビニなど経営のプロでもなかなかフランチャイズに踏み切れていないのに、プロでない我々が挑戦するのはリスクが高い。それに、教室だけ増やしても教える先生がいなくて子供が伸びないのでは、本末転倒です」

親への説明、教室増、英語学習も

ベトナムでは日本よりきちんと宿題をする子どもが多く、真面目で勉強熱心。ただ、1つの習い事を5~6年続けるような習慣がないようで、ある程度の成果が出たら満足して辞めさせてしまう親が目立つという。

そこで現在は、スタッフが生徒に学力と自習力を身に付けさせるスキルと同時に、保護者への説明スキルを上げている。具体的には教室内に保護者用の見学席を用意したり、保護者との面談の機会を設けるなどして、成果の「見える化」を進めている。

2つ目の取組みは教室を増やすこと。ただ数を増やすのではなく、より多くの子どもたちに通ってもらえるような地域に進出する。ビンズン省に計画しているのもそのためで、1教室のハノイにも1つずつ増やしていきたいと語る。3つ目は英語教室のオープンだ。

「ベトナムでは数学だけを教えていますが、英語学習のニーズは他のアジア諸国より強いと感じています。教え方も教材も同じですから、今は内部の準備を進めていて、来年に実現できたらと思っています」

昨年からはインストラクターを対象とした社内研修に注力。新人インストラクター向け、17人いる教室マネジャー向けなどに分けて、研修とグループディスカッションを毎月行っている。教育メソッドを含めて公文には細かなマニュアルがないので、「こんな子供がいたらどうする」といったケーススタディを皆で考えるなどだ。

10年が経って業務は安定してきたが、一方でスタッフが約400人と増加したので、価値観を今一度共有する必要があるという。

「私たちが『Beyond the school grade』と呼ぶ、学年よりも先の内容を学習する子どもの割合は、ベトナムは日本と同水準の50%。潜在力の高い有望な国だと感じています。ただ、教育に焦りは禁物です。教室を大切に作ることを忘れず、今後も急がば回れで進めていきます」