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ベトナム製造業の弱点は裾野産業の未発達だ。その中で奮闘を続ける日系サプライヤー各社。国内市場に注力する日系企業は、ローカルや外資系に勝つために何をしているのか。キーワードは「日本方式の踏襲」だった。

 
 

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金型の熱処理で国内需要が見込めると、2013年に南部ビンズン省に工場を竣工した山一スペシャルスチールベトナム。高品質を求める顧客を掘り起こし、日系企業以外にも受注を増やす。今後は新工場の増設と北部への進出を目指す。

 

受注する対象は高精度な金型

親会社の山一ハガネは特殊鋼を得意とし、各種生産材料、金型材料などの熱処理や表面処理、機械加工などを行う専門サプライヤー。ベトナム進出のきっかけは同社の顧客企業が2012年に進出したことだが、視察に来て思わぬ手ごたえをつかんだ。

「ホーチミン市には金型の焼入れ(熱処理)ができる日系企業がなく、韓国や台湾系はあっても品質はいまいち。日系製造業からのヒアリングでベトナムでの内需を感じ、工場設立を決めました」

山一ハガネは日本に6社ある日立金属の特約店の1社で、特約店のベトナム進出は山一スペシャルスチールベトナムが初めて。親会社同様に特殊金属の調達から熱処理、表面処理、機械加工までを請け負うが、特に金型の熱処理に注力している。

金型の熱処理の工程は、まず、顧客がオーダーする金属を切断、面削して納品する。顧客がそれを金型に加工するので、熱処理して金型全体の硬度を上げる。用途に応じてその後、表面を固くする表面処理でフィニッシュする。

「材料だけ、熱処理だけに特化した企業もありますが、材料が良くても熱処理が悪ければいいものはできませんし、その逆も同じです。我々は金属の特性を熟知しており、熱処理などでも培ってきた長年のノウハウがあります」

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工場

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製品の確認をする従業員

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金属の切断機

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機械加工用のマシン

熱処理は「炉」で品質が変わるため、真空焼入れ炉や真空焼戻し炉などの機械は日本から輸入している。焼入れは均等にできずにバラつきが出るが、日本製はそれが極力抑えられるなど、他国の製品と比べて優位性が高いという。ちなみに同社の真空焼入れ炉は、一度に約500kgの金属の熱処理が可能だ。

こうしたハイレベルな生産体制なので、当初から高精度な製品の受注を考え、「低価格競争」に参加する気がなかったという。自ずと対象となる顧客は日系企業を想定していたが、現在は日系が7割、ローカルが2割、台湾系が1割ほど。大見氏は「熱処理の技術が評価されたようで、うれしい誤算です」と語る。

「価格差で言えば、弊社はローカルや台湾・韓国系の2倍以上、3倍近くとなる場合もあると思います。その分、3倍のメリットを提供しているつもりですし、クオリティが必要ないなら弊社でなくてもよいと思います」

顧客企業の主な業種は自動車とバイクの部品メーカー、建築資材メーカーで、前者はエンジンやトランスミッションなどの部品用金型、後者はアルミサッシ用の金型などが多いという。

ホーチミン市で実績を作りハノイへ

 同社の従業員は大見氏以下24名で、1名が日本人技術者、残りはベトナム人だ。ベトナムでは工作機械を扱える機械加工系の人材はいても、熱処理の経験者がいないのが悩みとか。
 そこはOJTでトレーニングをしているが、逆に言えば金型を支える企業がまだ少ないことを証明している。
「現地のニーズは見込めても、ビジネスになるかは別問題。ただ、困っているお客さんがいるので、微力でもサポートできないかと思いました」
 こうした現状から、日系金型メーカーの進出がこれから始まりそうだという。また、親会社である山一ハガネは愛知県名古屋市にあるため、自動車関係の金型の仕事が多いそうだ。将来、ベトナムにモータリゼーションが起これば、自動車系サプライヤーや金型メーカーの進出が本格化するはず。その時に安心して、材料、特殊な熱処理や表面処理を任せてもらえる存在でいたいという。
 今後は、機械加工部門を強化する予定。材料、熱処理、表面処理の次の工程に機械加工を加えることで、高品質な部品や部材の生産が可能となる。顧客企業にとっても発注が楽で確実だ。
 この一貫体制を山一ハガネでは「ファクトリーモール」と呼んでおり、ベトナムでも展開するという。ゆくゆくは工場横の4000㎡の敷地に機械加工用の工場を建設し、熱処理のラインも増設したいと考えている。
「競合が多いので条件は厳しいでしょうが、ハノイにも進出したいのです。南部でファクトリーモールを完成させ、実績を作って北部に出たいと思っています」
 山一ハガネではベトナムからの研修生を積極的に受け入れており、現在ではおよそ熱処理で3人、機械加工で7人、営業でもベトナム人が研修を受けている。彼らが成長する数年後、ベトナム人たちにハノイの工場を任せたいと、大見氏は今から考えている。