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ベトナム製造業の弱点は裾野産業の未発達だ。その中で奮闘を続ける日系サプライヤー各社。国内市場に注力する日系企業は、ローカルや外資系に勝つために何をしているのか。キーワードは「日本方式の踏襲」だった。

 
 

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ローカル企業を主顧客と定め、2014年に南部ビンズン省に工場を竣工した、大裕鋼業子会社のダイユースチールベトナム。独立系のコイルセンターが独資で進出するのはベトナム初だ。竣工から1年11ヶ月、今年5月に念願の黒字化を達成した。

地場の同業企業を買収して進出

大裕鋼業は0.05~3.2㎜の薄鋼板を得意とするコイルセンター。配電盤、机やロッカーなどの鋼製家具、建設機械、エアコンなどの多様なメーカーに鋼板を納入している。ただ、日本企業の生産工場の海外移転などから、日本国内での鋼材需要は減少を続けており、同社はベトナムに活路を求めた。

2013年に中小企業基盤整備機構のFS支援事業に応募して助成を得ると、同年6月にホーチミン市を訪問する。6日間で訪ねた企業はローカルが11社、日系が4社。当初から「顧客はローカル」と決めていた。

「賃金の安さからベトナムに進出する外資系企業は、賃金が上がれば別に国に移る可能性があります。視察の段階で潜在顧客の多さを実感していたこともあり、ベトナム企業を販売先としました」

進出が決まると現地から様々な声がかかるようになった。そのひとつが「自社工場を買ってくれないか」という地場コイルセンター、VAN THANH社からの相談だった。話を聞くと、工場内には巨大なトイレットペーパー状のコイルを平坦にして切断するレベラーラインが2基、コイルの幅を分割するスリッターラインが1基あり、事務所も付帯していてすぐに引き継げる状態。出来上がった製品を見ると、思ったよりも仕上がりが良い。

「本社のラインに比べたら性能は劣りますが、『吟味した材料で最上級の品質』が要求されているわけではありません。弊社では鉄鋼も現地調達しており、当初からベトナム企業向けの高品質を提供するつもりでした」

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工場

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工場内の様子

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レベラーライン

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スリッターライン

2014年にダイユースチールベトナムを設立し、11月が工場の竣工式だったが、既に顧客は獲得済み。12月末までにローカル4社、日系2社の受注で、約50t/月の出荷を実現した。国内大手の配電盤メーカーもそのひとつで、「値段は勉強します」と営業を掛けたという。理由は「とにかく早く動き出したかったから」。その後も順調に顧客は伸びて、2015年の顧客は合計29社(うち日系8社)、年間の出荷は約1750tと急増する。

「営業に行くと9割以上の確率で受注でき、お客様は毎月2~3社増えています。ただ、なかなか会っていただけないのが悩み。まず見積りをという方が多いのですが、実際の商品や月間使用量などを知らないと、正確な見積りが難しいのです」

日本では薄鋼板が主力だが、ベトナムのラインは12㎜までの厚い鋼板も切断できるため、鉄塔メーカーや鋼管メーカーなどからの新規の仕事も増えた。また、レベラーで切断された鋼板をさらに小さく切断するシャーリングマシンを2基保有し、仕事の幅を広げている。

届けるのは日本品質の安心感

ベトナムでの強みを森中氏は、「短納期と安心」と語る。これは日本で実践している納期対応や品質管理のことであり、多くの顧客から信頼を得ているそうだ。同じことをベトナムでも実践すれば、ベトナムの顧客も喜んでくれ、リピートもしてくれると確信している。

「肝心なことは、客先が期待している以上のサービスを提供し続けること。日系企業から仕入れることの喜びや満足感を感じてもらえるように、自分たちが努力を惜しまないことだと思います」

また、細かな気配りも取り入れることで、さらに顧客満足度を高めていくとのこと。「少し大げさかもしれませんが」と前置きしながらも、同社の品質管理や納期管理が顧客に浸透し、そのことで顧客企業の品質管理・納期管理が向上すれば、ベトナム製品の品質全般が間違いなく上がってくると考えている。

「ただ、我々は、日本と同じことをベトナムで実践しているだけなのです」

日系企業だからと取引を始める顧客もいるという。「日本の品質」に期待すると同時に、自社製品の販売顧客に日本製という安心感を与えられるのだとか。品質の管理方法や人材教育などを学びたいと、同社を訪ねる企業もあるそうだ。

現在の従業員は森中氏以外にベトナム人が9人。2人は前社からの従業員で、このうち1人の技術者が作業の中心となっている。本社の日本人技術者が6ヶ月ほどベトナムに滞在し、交流したことで、彼の品質を見る目が向上したという。社員はほとんどが未経験なので、彼が指導することも多い。

2016年7月現在で顧客は46社あり、ローカルが25社、日系が12社、その他が日系以外の外資系企業だ。今年5月には、現地法人の設立から1年11ヶ月で、経常利益が初めて黒字となった。
「次は通年での黒字化を目指したいですね。それができたら、よりよい機械を導入して品質を少しでも高めたいですし、従業員のために工場内にクーラーを付けてあげたいです(笑)」