物流系企業がベトナムで新しいサービスを始めている。大型・多機能倉庫の建設、冷凍・冷蔵輸送、周辺国へも触手を伸ばす。TTPやAECを見据えて、この勢いは加速するばかりだ。日系物流各社の真意は、どこにあるのか。

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来年で進出20周年
冷凍冷蔵から着実に進展

物流では初の日系企業として、1996年にベトナムに設立された鴻池ビナトランス。同時期にベトナム航空との合弁会社も設立した。そんな老舗企業は今、進出時からの強みである冷凍冷蔵事業に再投資し、新たな拡大を目指している。

冷凍冷蔵に一日の長


KONOIKE VINATRANS LOGISTICS CO., LTD
General Director 林 憲太郎氏

ベトナム進出時のライセンス発給の条件は、「新しい物流技術」の導入。そこで当時なかった冷凍冷蔵倉庫を竣工したのが、物流事業の始まりとなった。倉庫は主に魚介類や加工食品の輸出に活用され、以降は総合的なフォワーディング、機械の据付けや電気工事などの、幅広い事業を進めてきた。その後、2010年頃からはベトナム人の所得増に伴って、スーパーやコンビニなど国内消費のモダントレードでの配送が活発になったという。

「近年では高級志向や安全志向の高まりで、ダラットなどで日本人が作った野菜や果物を、鮮度を保持して都市部に配送するニーズが急増しています。配送先は小売店だけでなく、ホーチミン市やハノイのレストランチェーンも含まれます。弊社の培ってきた冷凍冷蔵技術が活かせていますが、全体で見ると取扱量はまだ少ないですね」

冷凍冷蔵の倉庫やトラックで扱うのは今でもナマズ、イカ、エビなどの輸出用が多く、市場があるためか国内向けのニーズは少ないという。ただ、海産物が獲れにくい北部にムール貝などの高級食材を運ぶなどの注文が、少しずつ増えているそうだ。

「こうした傾向は確実に強まると思うので、ぜひ取りに行きたいですね。昨年はローカルの冷凍冷蔵企業を買収してグループ100%出資の企業、Anpha-AGを設立しました」

これにより、ロンアン省ロンハウ工業団地にある、約1万㎡の冷凍冷蔵倉庫を所有。食品用に特化して、主に輸出用魚介類の保管で使うという。隣接した空き地があるので、同規模の倉庫を建設するそうだ。同社は現在、ベトナム航空との合弁会社であるVinako Forwardingと共に、3社が連携して動いている。

Anpha-AGの倉庫

今後は顧客からのニーズもあり、トラック、トレーラー、冷凍冷蔵トラック、倉庫に投資をしていく予定。一般貨物の配送は特にローカル企業と価格面での競争が厳しくなるため、冷凍冷蔵の自社配送で差別化を図るという。

「昨年から過積載の取り締まりが厳しくなって、ローカル企業と同じ土俵に立てています。ローカル企業は過積載が多くて違法なコストダウンができましたが、それがなくなれば品質で勝負できます」

少しだけ先を読む

現在でも稼働する創業時の冷凍冷蔵倉庫

国際間輸送ではベトナムとカンボジアのダブルライセンスを持っているが、ニーズはまだ少ないそうだ。ホーチミン市・プノンペン・バンコクの南部回廊では海上輸送のほうが安価という理由以外に、他の事情もあるという。例えば税関で、到着する時間帯が遅いと翌日の再訪となるため、それだけ配送が遅れる。今後AECで関税が撤廃されても、スピードアップには限界があるだろうと林氏は語る。

「税関の役割は大きく2つあり、ひとつはその品物を国内に入れてよいかの判断。もうひとつは自国の産業を守るなどの理由で、必要であれば関税をかけること。仮に後者がなくなっても前者の手続きは変わらないので、どこまで迅速化が進むか疑問です」

Vinako Forwardingのスタッフ

同社の物流以外の事業には、倉庫内での機械設備の据付け工事などの他、工場内での生産管理サポートがある。他社ではあまり見られないサービスで、具体的には日本からリーダークラスの技術者を派遣して、ラインの構築やフォークリフト運転の研修、部品の在庫管理などを行っている。生産現場で共通する業務が多いのだが、進出日系企業には日本人が少ない、担当者がいないなどの場合も多く、重宝されているサービスという。日本でも同じ事業をしているので、ノウハウを持った技術者を派遣できるそうだ。

「お客様は既に別の物流系企業を使っていますので、こうしたサービスを積み重ね、将来的に本業につなげるという目的もあります」

ベトナムの経済は発展段階にあるため、「次に何が来るか」はある程度読めるという。海外からの投資が増え、国民の所得が上がると、購買力が向上し、一般消費財が売れる。これが現段階で、例えばホーチミン市で大型ショッピングモールが流行ると、ハノイへ展開し、ダナンや地方の主要都市に広がるだろうから、各都市で倉庫が必要となるなどの読みだ。そのため、今から準備を始めているという。

その後はぜいたく品が流通し、次第に一般化していく。例えば、テレビやクーラーを買う人が増え、1家に一台が1人一台になっていく。この段階になると輸出入と国内物流がかなり流動化する。その頃にはEコマ―スも本格化しているはずだ。

「物流では時代を少しだけ先んずるのが大切です。ただ、このようなイメージはできるのですが、どのタイミングで手を打つかが難しい。いずれにせよ、今が変革の時期だと思っています」