「ベトナムの和食」が新たなフェイズに入った。 和食に馴染みつつあるベトナム人の内なるニーズ。それを汲み取った経営者は先を読んで展開する。 起こったのが「低価格化」と「高品質化」だ。日本人客は既に、傍流的な存在となっている。

 

 

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ホーチミン市内に8店舗あるMOFは、抹茶を中心に日本のスイーツを提供するカフェだ。豊富な種類と新しいメニューで多くのベトナム人客を虜にし、ベトナムに抹茶ブームを根付かせた。素材、調理法、鮮度管理などへの気配りも日本式だ。

 

 

注力するメニュー開発

2006年にホーチミン市初と言われる回転寿司店、「KURUKURUSUSHI」を友人と開店したMr. Hong。これが彼にとって和食店の第一歩となった。その後、色々な国に旅行する中で感じたのは、「なぜベトナム人はコーヒーしか飲まないのか」。一方、日本を旅行中に様々なスイーツを目にし、特に注目したのが見た目にもきれいな「抹茶」だった。

「思ったんです。コーヒー、抹茶、スイーツを楽しめる、ジャパニーズ・スターバックスのような店はどうかと」
この構想を元に2009年にMOFをオープン。MOFはMinistry Of Foodの略で、元々はシンガポールの日本カフェ。そのフランチャイジーとなったのだ。「本家」は日本料理とスイーツの両方を提供していたが、ベトナムではスイーツに特化し、2年目からは自分たちでメニューを開発した。

11 Houjicha Parfait

10Matcha Mousse

「ターゲットはベトナム人。彼らに日本の食文化を発信したい。ただ、ベトナム人はチャレンジ精神が旺盛なので、アレンジを加えています。パフェの中に寒天を入れたり、ほうじ茶にアイスクリームをトッピングしたりです」

その後、抹茶を中心にスイーツ、パフェ、ケーキ、ぜんざい……とメニューを増やしていく。これも豊富な種類が好きなベトナム人気質に合わせたもので、メニューを変えることが多いのも、新しもの好きなベトナム人客のためだ。

彼によればベトナムではトレンドが半年毎に変わり、ブランドはすぐに古くなってしまう。特にデザートにはFun、Creative、Colorfulなどのイメージがあり、メニューを新しくしないと「次の楽しみがない」と思われるのだそうだ。そこで欠かせないのが市場調査で、6~8人のお客を集めて最近のトレンドやMOFへの意見などを語ってもらっている。一般消費財ならアンケートも有効だろうが、飲食系なら色々な意見を率直に聞ける座談会が適しているという。

その後、事業は徐々にMOFにシフトしていき、KURUKURUSUSHIは閉店。現在ではフランチャイズ関係も解消して、シンガポールとはメニューの95%が違うという。

「我々が何よりこだわるのが品質で、日本と同等のものに近づけようと工夫しています。抹茶は静岡、ほうじ茶は京都から取り寄せており、何種類かを試した後に選んでいます。寒天や黒蜜、あずきなども日本からの輸入です。仕入れ値は高くなりますが、きちんと日本の味を伝えたい。味、色、食感が異なることは、わかる人にはわかってもらえますから」

品質重視へのシフト

MOFはホーチミン市に展開しているが、ハノイやダナンへの進出は難しいという。その理由は、ケーキ、ソース、アイスクリームなどはすべて自社のセントラルキッチンで生産、各店舗に配送し、均一の品質と鮮度を管理しているからだ。他の地域に展開する際には、同様の設備とシステムを新たに構築する必要があるため、簡単に進出を決められないというわけだ。

また、商品開発には専門の担当者がおり、個々の社員も支えになっている。社員には海外旅行好きが多く、イタリアならジェラート、フランスならケーキ、日本ならスイーツと、旅先で情報を集めてアップデートし、新しいアイデアを出している。こうしたことがアドバンテージとMr. Hongは語るが、高品質と安全性を保持するため、MOFの商品は一般的なカフェより少々高めだ。

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「ベトナムの特徴は、新しいトレンドが流行ったら安くコピーする店がすぐに出ること。なぜかというと、著作権があいまいで、消費者は品質や健康に関心が薄いから。だから、最後は価格競争になってしまう。市場が発展し、消費者の商品への認識が高まれば、価格差の問題は小さくなると思います」

今後は健康への意識が強まり、留学経験者など知識の高い人が徐々にデザート文化を広げていくと見ている。それに伴って質がより要求されるので、MOFもそれに合わせていく。その試みのひとつが、7月にホーチミン市に開店する高島屋の中にオープンする、「美山カフェ」という。

「日本やフランスのように生活水準が高くないと、食事の間にデザートを食べる習慣は浸透しません。ただ、ベトナムは発展段階にあり、今後はきれいで美味しいものを、少量食べるようになっていくでしょう」

洗練されたメニューや店作りから、MOFは日系企業と間違えられることが多いそうだ。逆にベトナムの会社だとわかると、ベトナム人に日本の味が出せるのかと不審がる人もいるという。

「日本人が熱心に勉強すれば、美味しいフォーを作れるはず。実際、ミシュランに載っているフレンチのトップシェフは日本人でしょう。もし『日本のデザート・ミシュラン』があれば、そのトップを飾れるような店にしたいですね」