「ベトナムの和食」が新たなフェイズに入った。 和食に馴染みつつあるベトナム人の内なるニーズ。それを汲み取った経営者は先を読んで展開する。 起こったのが「低価格化」と「高品質化」だ。日本人客は既に、傍流的な存在となっている。

 

 

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和食は鮮度が命。コールドチェーンが未発達なベトナムでは、物流の拠点となる冷凍・冷蔵倉庫の増加が、和食の普及に拍車をかける。今、日本の技術を集結したハイレベルの倉庫が建設中で、7月末の開業が予定されている。

 

先端技術の新倉庫

最新型の冷凍・冷蔵倉庫が、ビンズオン省のタンドンヒエップB工場団地に建設されている。土地面積は約2万㎡、倉庫の延床面積は約7000㎡、保管量は約1万4500t。ホーチミン市内から約18㎞、タンソンニャット空港から約19㎞、カットライ港から約25㎞に位置し、ホーチミン市内・郊外を中心に国内全土への配送を予定している。

手掛けるのは2015年4月に設立されたCLKコールド・ストレージ。株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)、日本ロジテム株式会社、川崎汽船株式會社の、3社共同出資による合弁会社だ。

14 建設中の冷凍・冷蔵倉庫

15ラックの置かれた倉庫の内部

目的は日本式の高付加価値、高品質なコールドチェーンを整備し、食料品などの高品質な日本製品をベトナムに広めること。これにベトナムで22年の物流経験を有するロジテムグループと、バンコクで27年の冷凍・冷蔵倉庫のノウハウを持つ川崎汽船の意図が合致して、新会社が生まれた。

「ベトナムではローカル物流企業のレベルが上がりつつあり、競争が激化しています。ロジテムグループはベトナムでの物流事業に付加価値を付け、次のステップへ高めたいと考えていました」(酒井氏)

「川崎汽船は2014年、タイのバンコクで2つ目となる最新式の冷凍・冷蔵倉庫を完成させています。その実績と経験をベトナムに広めたいと思っていました」(鈴木氏)

この倉庫の最大の特徴は温度管理で、-50度という超低温から+25度の定温まで、温度帯の狭間のない「フルラインナップ温度管理サービス」が提供できること。-50度はマグロなど従来難しかった食品の長期保存を可能にし、例えば、一度に大量に仕入れて小出しで売っていくなどもできるようになる。また、顧客の温度帯や物量の要望に沿ってきめ細かいサービスが提供できる、複数倉庫レイアウトになっていることも大きなメリットだ。

これらを実現させたのは、先端的な施工技術や使用機器。例えば、トラックから倉庫に荷物を移す「シッピングエリア」(荷捌き場)には、荷物の出し入れの際の温度変化を防ぐため、専用のシャッターや設備を日本から輸入し、倉庫全体に陽圧装置を取り付けた。倉庫内の気圧を高める陽圧装置により、シャッター開閉時には常に風が外に出ていくため、湿った空気や虫などが入らなくなるという。

「湿った空気が倉庫内に入ると冷却されて、結露します。これが難敵で、内部の機器に付着して能力を落としたり、保管貨物に付いてダメージを与えたりします。この倉庫は高い密閉技術により、庫内と外気とを遮断する設計です」(鈴木氏)

天井、壁には幅10~30センチの数種類の断熱パネルを、温度帯の異なる13部屋に組み合わせて使っている。加えて、全ての床面に防湿施工と断熱施工を行い、外気の湿度、熱の侵入を徹底的に遮断している。
「お預かりした貨物の価値を落とすことなく、むしろCLKへの保管でその価値を高められるような倉庫を目指し、目に見えない部分にまで日本式のきめ細かい設計、施工を施しています」(酒井氏)

幅広い事業展開へ

施工は冷凍・冷蔵倉庫建築のノウハウを持ち、ベトナムでも発電所建設や港湾工事に多数の実績を持つ東亜建設工業が担当。主要各種機器はほぼ日本製であり、設備工事を含めてまさにオールジャパンのプロジェクトだ。メインとなる冷却装置は最新型で、「ベトナム初上陸だと思います」(鈴木氏)。

「陽圧装置や防熱材はバンコクの冷凍・冷蔵倉庫で実現したものです。専門家は、『ここまで熱効率や防熱を考えた倉庫は、日本にも少ないのではないか』と語っています」(鈴木氏)

16 断熱のためにウレタンで覆った冷却装置

一方の輸送、輸出入に関しては、ベトナムでの経験を持つロジテムグループ各社、K-LINE、ケイラインロジスティクスが全面的にバックアップ。当初は近隣配送を見据えた冷凍・冷蔵トラックを数台用意する予定だが、今後の顧客ニーズによっては長距離も視野に入れた多種多様の車両を投入予定という。

「保管や配送のみならず、仕分け、流通加工業務等も積極的に行う予定です、ベトナム、日本、第3国でのロジテムグループ、川崎汽船グループの経験を、CLKの業務に活かしてまいります」(酒井氏)

7月21日が竣工式で、同月下旬から開業予定。日本からの輸入品保管、輸送の他、将来的にはベトナム産品も対象と考えている。また、食材以外にも加工食品、飲料、医薬品、電子部品など温度管理が必要な商品が対象であり、顧客も日系企業以外にローカルや他の外資系企業などを想定している。幅広い事業が始められそうだ。