ビジネス成功へのカギ! ベテラン通訳者が語る 光と影
「ベテラン・フリー通訳者の本音座談会」
日系企業がうまく通訳者を使う方法、教えます
ベトナム語を知らない日本人は、通訳者の良し悪しなどわからない。ビジネスの成功が彼らの働きにかかっているのにだ。そこでベテランの通訳者3人に、その本音を思う存分語ってもらった。耳の痛い話も出るが、ためになるのは間違いなし!
Mr. Aaron Dinh Ngoc Anh
Mr. Nguyen Anh Phong
Mr. Tran Quang Huy
通訳成功への下準備
ディン 通訳者には事前に仕事の背景を伝えてほしいと思います。なぜなら、通訳者が依頼者の立場になれるから。日系の大手企業、特に製造業では打合せをしたり、資料を先にもらえることが多いけど、これは上級レベル。当事者が多い場合などは教えてくれないケースがあって、それで通訳をして、当事者でないその上司に怒られたりする(笑)。
フォン 通訳者は万能な人と思われているようだけど、当然限界があります。新商品の発表であれば、従来の商品とどこが違うのかを説明してほしい。実際の通訳では技術的な説明が延々と続くことにもなるので、こうした情報があるとうまく伝えられます。
フィー 言いたいことがはっきりしない人がいる。何を伝えたいのかを事前に決めるとうまくいくね。
ディン 話し方も関係するんじゃないかな。55歳以上の日本人男性は自己愛が強いのか、自分に言い聞かせるように話したり、独り言を言ったり、口癖があったりと、自分中心のイメージがある。
フィー あとは方言。ベトナム中部の方言もきついけど、東北弁はほとんど外国語。だから東北弁の人には、「標準語で話してください」と伝えています。
フォン 私は大阪弁だな。きれいな大阪弁だと漫才をしているみたいで、引き込まれてしまう。楽しくなって、言いたいことを忘れてしまったことが何度かある。
ディン 通訳者どう活かすかよりも、誰を雇うかを考えてみてもいい。通訳者にも上位、中位、下位とレベルがあるから。それを見極めるには、例えば、5人を2回ずつ使ってみるとか。色々な人を経験すると通訳の重要性とレベルがわかってくると思う。
フィー 疑問を持っても聞き返さない通訳者がいるでしょ。腕が悪いと思われるのが嫌なのかもしれないけど、聞き返す通訳者の方が信用できると思う。自信があるから聞き返せるのだし、ちゃんと「会話の隙間」を見つけて止めているもの。ただ、止めてばかりの通訳者も信用できない。
どちらにせよ、こうしたことがあるとお客は違和感を持つはずだし、そう思わない人は通訳者を信じすぎ。
医者から診断を受けて、「本当か?」と思うことがあるでしょ。医学の知識がなくても、知らないからこそ疑うし、警戒する。そんな気持ちを無視してはいけない。
よい通訳の条件とは?
フィー その場の雰囲気を読んで、言葉を長くしたり短くしたり、必要があれば内容を変えたりする。言葉そのものよりも、意味や気持ちを伝える方が大切だと思う。だから、単にベトナム語や日本語が上手なことがよい通訳の条件ではない。
ただ、政治家などの発言には意図があるもの。仮に相手を怒らせてしまっても、それが意図なので、彼らが話したことを正確にそのまま伝えないと通訳者は失格。
ディン 日本人の気持とベトナム人の気持を理解して、そのギャップを埋めるのが通訳者。意思疎通の能力はもちろん、現場では不測の事態も起こるので、洞察力や推測力が必要。それと辛抱強さかな。暑い工場の中で長時間立ち続けるなどの肉体的な面もそうだし、色々なことを許す寛容さも大切です。
フォン 2つの言語能力が必要だけど、特に母国語が大切で、勉強は欠かせない。また、ここは直訳、この場なら暖かい雰囲気にするなど、その場の判断力。私は相手の呼吸をよく聞きますね。1分間で何回呼吸するか数えていると、呼吸が止まった時が思案中だとわかるようになる。
ただ、こうしたテクニックや経験を活かせないのが同時通訳。相手の表情がわからず、別室にいて、ヘッドフォンから声だけが聞こえてくる。特に日本語は文末で意思がわかるので難しいけど、コロケーションという手法で、文脈から90%程度は先を読める。だから同時通訳者は普段はゆっくりと話していて、キーワードが出たら急に早口になる。
フィー 通訳者を「怖い」と思うこと。こいつに裏を書かれたらどうすると疑問と持つ。外国では最初に警戒されるのは通訳者だし、「本当にお前わかるんだろうな」とまず睨まれる。だから、通訳者は嫌っていいと思うし、だからこそ信頼関係が大切とわかる。日本人社長には全く心配していない人がいて、こっちが心配になっちゃう(笑)。
だから、安心感を与えるのが良い通訳者の条件とも言えるよね。私はメモを取る必要がなくても、メモを取ります。それでお客が安心することが大事だから。
気になる通訳の値段
フィー 料金は皆が同じだから私が言うと、1日単位で8:00~19:00の間の8時間労働。半日は1日の6割の価格になり、5分の通訳でも半日分になる。
値段の高い方から「同時通訳」が960USD、「MC・司会」が560USD。これは多くの聴衆を相手に話すようなもの。「難易度の高い通訳」が480USD。政治家など要人の通訳や、法律などの専門性が高いもので、集中力が必要でリスクも高いことが理由。「一般的な商談やミーティング」は320USDで、仕事はこれが多いと思う。
最後が「現地調査」で240USD。電力会社の仕事で山に登って地元の住民にヒアリングするなどで、体力勝負で話すことが少ないから安い。
ディン 移動時間が長い場合は通訳の時間に含める場合もある。移動に2日かかると往復で4日必要なので、その日数も料金になる。私は日越英通訳もやるので、その場合は1.5倍。日本人と欧米人が参加する、銀行やコンサルティングファームの商談などです。
大企業の仕事では少ないけど、仕事が終わってから値切る人がいるのには困る。
フォン 誰それの紹介だと連絡してきて、「あなたは大変素晴らしい通訳者だ、簡単な内容なのですぐにできる…」などと言われて、料金を先に伝えた。ふたを開けてみるととんでもない! 資料が山のようにあって、内容が難しい。それでも今さら高い金額は請求できない。で、通訳が終わると「別の〇〇さんは50%まけてくれたので…」と値切ってくる。俺は〇〇さんじゃないって。
フィー ただ、日本人は一般的に約束を守るし、お金を全く払ってくれなかったことはない。
ディン・フォン 確かに。
フィー ベトナム人だと払ってくれないとか、行方不明になるとかもあるでしょ(笑)。
日本人の特徴とは?
フィー 日本人は時間を気にしない。「俺は時間に関係なく働いているから、お前もそうだろ?」みたいな人がたくさんいる(笑)。ただ、こんな時の割増料金はお客さん次第のところがある。
フォン 結局は人次第。嫌な思いをさせられても構わないけど、冷たい通訳者ならプラスゼロになる。相手がいい人だとプラスアルファが付いて、お客さんは知らないところで得をする。年長者を敬うベトナム人なので、個人的には頑張って働いている中小企業のオッチャンに親切にしたくなる(笑)。
フィー 日本人はベトナム人と違って、付き合いの長い通訳者を使う傾向があるでしょ。わざわざ遠方の工場まで来てくれた人だから、といった理由でも続けたりする。でも、やめたほうがいいと思う。日本人は何でも基準を作りたがるけど、基準がないのが基準という場合もあるから。
フォン 大阪の人は笑いのネタを探して話すけど、ベトナム人はそんな笑いの訓練を受けていない。だから以前、通訳が終わった後に、「私の通訳が終わったら笑ってください」と付け加えて、相手が爆笑した。大阪の社長は満足していたが、私の「仕掛け」はわかっていたようだった。
フィー 日本人に限らず、気を付けてほしいのは態度。社長が現地社員を見下すと、それは言葉にしなくても伝わるもの。当たり前だけど相手は人間、それなりのセンサーは付いている。
通訳という仕事
フォン 普段の自分からは出ないような的確な言葉が出てきた時は、「通訳の神様が降りてきた」と感じる(笑)。例えば、「仕事によって担当者が違う」という日本語をベトナム語に訳した時、仕事を「ダウヴィェック」(đầuviệc)と訳した。これは行政管理の人が使う単語で、通訳者人生の中で初めて使ったのだが、相手のベトナム人が大きくうなずいていた。やっぱり、皆が揃って最後にうなずいてくれたときなど、「やった!」と思う。
フィー 個人的には自分を無視してもらっていい。通訳者は空気のような存在になってほしいと思っている。道具として使ってもらってよいけど、ただ、正しく使ってほしい。
ディン 私は道具は嫌だな(笑)。対等に扱ってほしいし、パートナーとして気持ちよく仕事がしたい。
フォン それにしても日本語は難しいね。発音の数が多いし文法、特に助詞だと「が」と「は」、「に」と「へ」で微妙な違いがある。「やっぱり」と「やはり」では語感が異なる。空気を読むのも難しい。他の外国でも同じだけど日本は特殊で、まさに「空気を読む」という言葉があるくらい。
フィー 社内通訳をしていたころ、工場に日本人の指導者が来て、ねじと設備の使い方を教えた。あるベトナム人は使い方がわからずに質問した。翌日の朝も同じことを聞いて、その夕方にも聞いた。3回説明してもわからない。さすがに嫌になって「同じことをしろ」と伝えたら。日本人から「こいつがわかっていないことは俺がわかっている。きちんと通訳しろ」と怒られた。通訳の大切さを教えられた思い出かな。
フォン 失敗談ならありますよ。同時通訳で個室にいて、録音機も付いていた。休憩時間に「あの人は話がつまらなくて嫌になっちゃうな」などとつぶやいたら、その声がマイクから流れていて、おまけに録音もされていた。
そうしたら担当の日本人が謝ってきて、後日、メールでも謝罪がきた…。今考えても背筋がぞっとする!
ディン あるとき、労働紛争の通訳依頼を受けたのですが、私は案件の深刻さや、当事者間の利害関係と緊張感を十分に理解していませんでした。そのため、堂々とした態度にお客さんが不満を持ったようです。当事者の感情なども察知することが必要なのだと、勉強になりました。
フィー だから通訳は大変だし、その分だけ、やりがいはあるよね。いい終わり方でしょ(笑)。
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