Thousand Crane Vietnam Co., Ltd.
若者向けの福利厚生で心をつかむ

2012年9月に進出したサウザンドクレインベトナムは、データ入力サービスを事業とする。
若い従業員に合わせた福利厚生を展開することで、かなり高い定着率を実現している。

 

メイク教室やうどん作りも

 

取締役 黒田正人

手書き文字をデータ化するデータ入力サービスは、人件費の安い海外で行うことの多いビジネス。サウザンドクレインはその拠点をベトナムに設立した。親日的な国民性や治安の良さなどから決めたというが、日本語の難解さや手書きの読みにくさから、入力作業には一定以上の語学力が求められる。

そのため、同社の従業員は大学で日本語を学んだ人がほとんど。新卒採用が基本で、日本語学科を持つ大学と連携しているのだが、学生たちの日本語力には当然差がある。
「入社後に研修期間を設け、10段階のテストを受けてもらいます。全てに合格してから実作業に入ってもらうわけですが、それまで早い人で2週間、遅いと2ヶ月かかった人もいます」

こうした期間は戦力にならないため、「だからこそ離職率は意識しています」とのこと。同社は設立して2年半の間に、従業員数が徐々に増え、現在は約85人。平均年齢は24~25歳で、約9割は女性。そのため、福利厚生は若い人向けで、女性を対象としたものも多い。

例えば、「国際婦人デー」と「ベトナム女性の日」には、女性従業員全員に花束がプレゼントされる。また、日本人の女性従業員が日本風のメイクアップ教室を開催しているという。

「毎週金曜日に日本語の勉強会を開いており、検定試験前には対策を練るなどしています。その後に研修があるのですが、メイク教室はその一環です。研修といっても堅苦しいものではなく、先日はトランプマジックの研修でした(笑)」

月に一度あるのが、ボウリングなどのレクリエーション大会。費用の半額を会社が負担する。中でも好評だったのが「うどん作り」で、素材から作る本格的なものだったそうだ。日本人社員の駐在員住宅に従業員が集まり、練った小麦粉をビニールで包んで、足で踏むなどもした。

「高松市出身の社員がいまして、うどんの作り方を知っていたのです。皆がはしゃいで楽しみましたが、私もうどんを作ったのは初めてでした」

「日本語熱」の高い従業員

 

レクリエーション大会のうどん作り

サウザンドクレインの主業務はコールセンター事業。顧客に通販会社が多いことから、ニーズを受けてデータ入力事業に参入した。そのために設立されたのがベトナム支社だ。

返信用はがきやFAXといった、顧客の紙の情報を日本本社でスキャンし、ベトナムに専用サーバーでデータを送る。従業員はPCでその画像を見ながら日本語を入力し、エクセルなどでデータベース化していく。その作業は迅速で、変換ミスもないようだった。通販会社をメインに開始したサービスであったが、自治体の仕事をはじめ、現在では幅広い分野の入力サービスを行っている。

「毎日のことなので感覚的に文字がわかってくるようです。手書き文字の癖も覚えていきますし、上達が早いんですね。日本語を学びたいという彼らの気持ちも、大きな理由だと思います」

日本語能力試験(JLPT)N1~N3の取得者も多い若い従業員にとって、同社の仕事は日本語のスキルを活かせるだけでなく、レベルアップの機会にもなっているのだ。
ただ、どうしても作業は単調になりがちなので、モチベーションを上げるための研修もある。入力内容には郵送者などの住所が多いので、日本の県や市町村などを紹介しているのだ。自分たちの接している住所が日本のどこにあるのか、その場所はどんな文化や風土を持っているのか。日本に興味のある人ばかりなので、興味を持って聞いてくれるという。

 

退職者は月に0~1人

 

女性従業員への花束プレゼント
女性従業員への花束プレゼント

毎月発表されるのが「月間MVP」。従業員にはメンバーの上に10人のリーダーがおり、彼らと黒田氏など日本人従業員が話し合って、受賞者を決めている。

「弊社の模範となる人を選んでいます。仕事はもちろんですが、『忘年会を盛り上げた』なども理由になります。賞品は豪華ランチで、私が食べに連れていきます」
年に一度は「年間MVP」が選ばれる。会社への貢献度、責任感や納期厳守といったプロ意識が評価の対象だ。例えば、日本の本社や顧客企業と電話でやり取りする場合もあり、そこでうまく対応できた人などが受賞者となる。昨年の受賞者は、年に一度ある本社での説明会に同行した。

「日本語を学ぶ彼らにとって、日本に行くことが夢のひとつ。とても喜んでくれます」

同社の離職率はかなり低く、退職者は月に0~1人とのこと。その理由も日本留学が多いというから、会社が原因ではなくなる。ふんだんにお金を使った福利厚生でなくても、ベトナム人従業員の心をつかみ、定着率を高めることはできそうだ。