撮影:大木宏之、大池直人、勝恵美

世界中のガソリンバイクを電動バイクに変える
テラモーターズ・ベトナム

 

2010年4月に設立されたテラモーターズ。大学時代から参画していた林氏は、入社3ヶ月で同社の要となる拠点、ベトナム支社の立ち上げを任された。3年半が経った今、飛躍の時がやって来た。

代表取締役 林 信吾氏(27歳)
早稲田大学在学中に1年間休学し、海外を旅行。バングラデシュのグラミン銀行にインターン。その後、フィジーで3ヶ月間の語学留学をする。帰国後の2010年からテラモーターズのインターン第1号となり、卒業後の2011年4月に入社。3ヶ月後の7月にはベトナム支社の立ち上げを任される。テラモーターズ・ベトナム代表取締役社長。

 

ベトナムが魅力的な理由

 

電動バイクの開発、生産、販売、アフターサービスまでを行うテラモーターズ。そのベトナム支社を立ち上げるため、林氏は2011年夏に一人で来越した。ほぼ独力で法人の設立、労働ビザの取得、部品の調達、代理店の営業などを続け、日本の開発部隊とは毎日スカイプで連絡を取ったという。

「最初の1年半は、スタッフがおらず、事務所もなく、アパートの近くのハイランドコーヒーが実質的なオフィスでした(笑)」

こうした努力が実り、昨年はホーチミン市2区に生産工場を竣工、ハノイに国内第1号となる代理店を作った。代理店は3月までに国内で合計15店を展開する予定だ。同社の拠点は日本、ベトナム、フィリピン、インド、バングラデシュなどにあり、代理店は約10ヶ国にあるが、中でもベトナムは重要な位置を占めるそうだ。

「ベトナムは生産拠点であり、メインマーケットです。メインマーケットの理由は、バイクでの移動が根付いた国というほかに、航続距離があります」

1回の充電で走れる電動バイクの航続距離はさほど長くなく、同社の製品では50~60㎞程度(車種により異なる)。例えば、都市サイズの大きなジャカルタだと難しいが、比較的規模の小さなハノイやホーチミン市では十分な航続距離になるという。また、ベトナムの二輪市場は頭打ちとも言われるが、値段の高い高級スクーターの売れ行きは伸びている。

「インドネシアなどより大きな二輪市場はありますが、多くの国では自動車への移行が進んでいます。部品の調達や人材コストなどの面もありますが、ベトナムの一番の魅力は市場です」

同社では一般の電動バイクのほか、業務用二輪車、シニアカー、屋根の着いた三輪バイクなどを世界展開しているが、ベトナムでは主力商品の「A4000i」を発売。現在は月に100台程度生産しており、昨年12月にはダナン店で、A4000iの廉価版である「A2000」を発表。「市場を取りに行く」ために価格を思い切って下げたという。2015年度は合計で3~5万台の生産予定だそうだ。

 

エコでなくフィーリング

 

電動バイクの「A4000i」
電動バイクの「A4000i」

テラモーターズは様々な場所から部品を調達して組み立てる、アセンブリ会社だ。開発やデザインは日本で、あるいは日本人が行い、部品はベトナム、中国、台湾、日本などから調達し、ベトナムで組み立てている。

「コンセプトを作っていると思っています。どこの誰に、どんな価格で、どんなデザインで。そのコンセプトを社内外のパートナーと組んで、モノづくりをする。いわば、人と人とを組み合わせるビジネスであり、プロジェクト単位でアセンブリをしています」

安全性にも力を入れている。設計は日本仕様、部品は大手メーカーが発注しているサプライヤーのみに依頼し、組み立てるワーカーは選抜する。新モデルの立ち上げ時には、同社の顧問である大手日系メーカーのOBが来越するという。

A4000iの「売り」は、ガソリンバイクに比べて約1/10という燃費、走行性能、長寿命バッテリー、iPhoneとの連携などがあるが、林氏が主張するのはフィーリングだ。

「電動だからと『エコ』を訴えたりしたくない。乗ってもらいたい一番の理由は、スマート、クール、エキサイティングなどの言葉で表したくなるフィーリングです。私はいつもこれに乗って通勤や移動をしていますが、交差点で止まると注目され、『そのバイクは何だ?』とよく聞かれます。これがものすごく気持ちいいんです」

 

若者は西へ行け

 

この1年でベトナム人スタッフは急激に増えた。その多くが大手二輪メーカーの出身で、工場の生産管理、営業、サービス対応などを担当している。皆、前の会社と給与は同じか下がったはずだが、夢に共感してくれているという。そんな会社作りについて、林氏は…。

「ベンチャーには知識と経験以上に、フットワークの軽さとスピード感が大切だと思います。弊社の海外拠点の社長は全て20代で、皆、フットワークには自信があります。大事なのは、社長が汗をかいて、一番大変なことを自分でやる姿を見せること。私は雨が降っても荷物をバイクで運びます。すると、タクシーを使いたいと言っていた従業員も自然とバイクに乗るのです」

経営者の明確なビジョンも重要という。同社のビジョンは「世界中のガソリンバイクを電動バイクに置き換える」だ。こうした会社であれば、資金がなくても、オフィスがなくても、人もお金も集まって来ると林氏は言う。最後に、これからベンチャーを興す人へのアドバイスを聞いた。

「戦略を持った中年層の起業家なら、ベトナムはいい国だと思う。ただ、ゼロから始める若い人なら『西へ行け』と言いたい。アフリカでもどこでも、日本人のいない土地に行って勝負して、やりたい放題やればいい」