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自己勘定売買は避け、業務はブローカーと投資銀行へ

 

ホーチミン市証券

Ho Chi Minh City
Securities Corporation
CHIEF EXECUTIVE OFFICER
Mr. Johan Nyvene

ベトナムに証券取引所が開かれて14 年。2003 年設立のホーチミン市証券(HSC)は証券バブル崩壊の波を乗り越えて、シェアトップにまで上り詰めた。2007 年の着任以来、同社を牽引してきたのが、CEO のニーベン(Nyvene)氏だ。

2007年のバブル崩壊を経て回復基調のベトナム株式市場

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撮影/大木宏之

「2006〜2007年、ベトナムに証券会社は100社以上ありましたが、市場規模に対して数が多すぎた。2007年にバブルが崩壊して株価が暴落すると、サバイバルが始まり、質の悪い証券会社は休眠するか倒産していきました。弊社は2007年には業界2
0位にすぎませんでした」

2007年はNyvene 氏がCEOとなり、仲間を招聘して同社に着任した年。アメリカの銀行に8年勤務し、ベトナムのHSBCで8年働いた後の転職だった。業績は徐々に向上し、2013年通年の証券市場取引シェアで12.2%と総合1位になった(ホーチミン証券取引所1位[13.2%]、ハノイ証券取引所1位[9.2%]﹈ 同社調べ)。

同氏によれば現在ベトナムの株式市場は好調継続とのこと。そのピークは2007年で、VNインデックスは1200ポイントまで上がったものの、2008〜2009年に暴落して260ポイントまで下落したのち、現在は600ポイント強まで回復してきた。こうした上昇基調にあることが好調な理由のひとつだという。

もうひとつの理由は、ベトナムは新興国マーケットであり、成長を見込める企業が数多くあること。ベトナムのGDPは過去5年で平均5〜6%伸びており、2013年の名目GDPは日本円で17兆円ほどになる。

「一方、証券市場の時価総額は6兆円ほどでいまだに小さい。一般的には、時価総額は名目GDP額に近づくとされているので、まだまだ伸びしろがあります。また、ベトナムの上場企業は700社ほどですが、大型株には民営化された国営企業が多い。今後もこうした民営化企業の増加が見込めるので、市場拡大が期待できます」

外国人投資家を呼び込むため今年4月に訪日

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HSC の社内の様子

ベトナムの証券会社には大きく3つの業務、顧客の証券取引をするブローカー業務、自己資金で株式の売買をする自己勘定売買業務、顧客企業の買収・合併などをサポートする投資銀行業務がある。Nyvene 氏が経営者として最も大切だと感じているのはブローカー業務で、実際に同社の総収入のうちの約50%を占めている。

逆に極力避けようとしているのが自己売買業務であり、収益の2本目の柱でありながら約15%に留まっている。3本目の柱は信用取引であり、その貸付金が収益となっているという。同社には国内個人顧客の口座が約3万口座あり、そのうちの1万口座と信用取引をしているそうだ。

その次の柱は、投資銀行としてのM&Aアドバイザリー業務だ。手掛けている案件には、ベトナム企業を買収しようとする日系企業も含まれているという。

「今年4月にベトナムの財政省、国家証券委員会、ベトナムの国営有力企業などと共に日本を訪ね、法人投資家向けのカンファレンスを開催しました。ベトナムでは今、官民一体となって海外投資家を呼び込もうとしています」

ベトナム上場企業の外国人投資家の株式保有率上限は、一般企業で49%。政府はこの枠を拡大しようとしており、法整備や調整が続いている。2009年にホーチミン証券取引所に上場した同社の外国人株式保有比率は、現在49%で上限いっぱいとなっている。

最も信頼される証券会社を目指すための努力

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HSC の社内に写される株式の情報

現在、ベトナムの証券市場取引シェアは同社とサイゴン証券が12〜15%で争っており、第3位を大きく引き離して「2強」となっている。ホーチミン証券引取所のVN30インデックス銘柄リストに入っているのも、証券業ではこの2社だ。

「上位10社でシェアの約60%を占め、残り40%を70社ほどで分けている状態です。私は今後、上位30社程度のみが生き残っていくと考えています」

その中で、同氏が考える今後のコアビジネスは、ブローカー業務と投資銀行業務だ。顧客は国内の個人・法人、海外機関投資家の3つに大別されるが、これらに対して積極的に攻めていくという。また今後、機が熟せば、日本の大手証券会社など海外パートナーと提携関係を結び、ビジネスを拡大させていきたいと語る。

そのためにも目指すのは「最も信頼される証券会社」だ。注文を受けるときに取引の安全性をチェックしたり、きちんとしたオペレーションを徹底するのはもちろん、社内監査や自己資本の充実にも意欲的に取り組んでいる。

「この3〜4年で投資家は、ベトナムの証券会社に対して神経質かつ消極的になっています。その理由は証券会社の業績悪化や、証券会社への不信感もあると思います。一貫して国際金融に携わってきた私にできることは、これまで得たビジネスの経験と感覚を、ベトナム国内で活かすことです」