日本を代表する温水洗浄便座「ウォシュレット」を展開するTOTO。タンロンのハノイ工場は、同社の海外の衛生陶器生産の主力工場。田村信也社長が目指すのは、ベトナムで「本当のトップブランド」になることだ。

ベトナムでのウォシュレット 新築ホテルで積極展開

代表取締役社長 田村 信也

―― ベトナムでの事業とは?

田村 便器・洗面器などの衛生陶器の製造と販売です。また、水栓金具などの水回り製品も扱っています。衛生陶器は年間100万個を超える生産を行っていて、ベトナム国内での販売の他に多くを輸出しています。その多くは日本向けで、それ以外はアフリカを除く世界各国へ向けています。

昨年は日本で消費増税前の駆け込み需要があり、住宅の新築やリフォーム時の注文が増加し、工場がフル回転しました。

―― 主力製品のウォシュレットはいかがでしょう?

田村 ウォシュレットはマレーシア工場などから輸入して、国内生産した便器と組み合わせて販売しています。ただ最近では、「ネオレスト」のようなウォシュレットが一体に組み込まれた便器を輸入する場合もあります。

―― 新築の大型ホテルなどでの導入が進んでいるようですね。

田村 はい。最近ではオープンしたばかりの、ロッテハノイホテルさんのトイレが全室ウォシュレット付きです。ただ、ベトナムでのウォシュレット販売は難しいです。まず、トイレ内に電源となるコンセントがない。また、大抵のトイレにはハンドノズルの小型シャワーがありますが、これでトイレ掃除をする人もいます。水浸しになるため、電気製品を安心して置けません。

―― 一般家庭での利用にはハードルが高いと。

田村 昔の日本も似たようなものでしたから、ベトナムはこれからの市場と考えています。とはいえ、待ってもいられませんので、弊社では電気工事不要の「エコウォッシャー」を作りました。水圧で洗浄水を出す仕組みの、いわば東南アジア向け簡易型ウォシュレットです。すでにインドネシアで大ブレイクしていまして、現地ではウォシュレットより多く販売されています。

価格はウォシュレットの1/5程度と割安なのですが、電気を使いませんので温度は上がりません。ただ、日本では寒くて使えませんが、ハノイぐらいの気温であれば十分にお使いいただけると思います。さらに、ホテルではコンセントを含めて導入を進めています。

大切な「職人」の定着が課題

タンロン工業団地内にあるTOTOのショールーム

―― ベトナムでのご苦労とは何でしょうか。

田村 苦労は日本にもどこの国にもありますが、日本と異なるのは退職者の多さです。弊社の工場でも、2012年には1ヶ月に約200人もの人が入れ替わった月があります。この年はどこの会社も多くの転職者が出たのではないでしょうか。今ではそれは10人程度に落ち着いています。

―― 退職者が出ると、具体的にどんな点が困りますか?

田村 弊社には単純労働者ではなく職人が必要です。陶器は型に素材の粘土を流し込んで作り、それを焼いて便器にしていきます。その過程で圧縮されて小さくなりますから、それを見込んで最終的な形作るためには、湿度などに合わせた調整や加減が不可欠です。

失敗すると捨てることになるため、それまでの工程がすべて無駄になります。そのため合格率がなかなか100%とはいかないため、経験の浅い従業員が多いと合格率も下がり、コスト高になりますので、入社数年で辞められるのがきついですね。

―― そのために努力されていることはありますか?

田村 スタジアムを借りて、「TOTO」の人文字を、全従業員で描いたことがありました。ピタッときれいに決まったのですが、その時は観客席に彼らの家族、あるいは恋人を呼んでもらいました。従業員の「雄姿」を家族に見せたかったのです。このようなことで少しでも定着率を上げようとしています。

「なくては困るブランド」 の1位を目指して

スタジアムで描いたTOTOの人文字

―― 今後の目標は何でしょうか?

田村 弊社はシェアがまだ低いので、今の事業を継続させて、ベトナムでのトップブランドになることです。ただ、弊社の「グローバルNO.1」の定義は、トップブランドとは必ずしもシェア1位や売上1位を意味せず、エンドユーザーが「この国からなくなったら困るブランド」と感じる製品の1位だとしています。そのためには、商品の品質やアフターサービス、従業員の質もさらに改善しなければなりません。

入口が石という天然素材で、出口が便器という最終製品であるモノづくりは珍しいと思いますし、そこが面白い。また、便器には様々な種類があって、それによってトイレの雰囲気が大きく変わるんですね。そんな仕事が私は大好きですから、赴任して3年半が経ちますが、もっとここで頑張りたいと思っています。

TOTO VIETNAM CO., LTD
General Director 田村 信也

1967 年生まれ。福岡県出身。大学院修了後、1991年にTOTO 株式会社に入社。海外向け製品の技術サポート、ウォシュレットの開発、アフターサービス、営業戦略本部などを幅広く経験し、2011 年4 月にベトナムに赴任して現職。