世代の家族全員で夕食を囲むのがベトナムの美しい伝統ですが、インフレが進み、買いたい物が街にあふれる現状では、通常勤務日150%以上、週休日200%以上、祝日300%以上となる残業代への期待もまた大きくなります。

ベトナム労働法は、日本の36 協定のように労使が合意して残業時間数を決めるのではなく、原則として1日4 時間、月30 時間、年200 時間までに制限する明文規定を置いています。

その例外としては、国防・安全保障・自然災害時などの緊急時を除くと、政令が定める特定の業務(繊維・衣料・皮革・靴の生産・輸出向け加工、農林水産物の加工、電力、通信、石油精製、上下水道、その他緊急を要する作業)について年300 時間まで認められる場合に限られ、労働者の同意があったとしても、法定の残業の上限規制を超えることはできません。労働法が生産ラインで働く工場労働者を想定しているため、ホワイトカラーを対象とするフレックスタイムや裁量労働についての規定は置かれていません。外国人労働者に対しても同じ規制が適用されます。

残業の上限規制に違反した雇用者に対しては、2000 万VND 以上2500 万VND 以下の行政罰金が課せられますが、従業員が当局に通報する場合を除くと、摘発されるケースは多くないようです。

労働時間規制は労働者保護の大きな柱ですが、厳格すぎる規制が逆に法令無視の違法残業を誘発しかねません。一方で、労働法の限度以下まで残業を減らしたところ、景気後退の影響か、労働者が手取り額減少分の賃上げを要求して、労使対立に発展したケースもあります。現場の労働実態に即した柔軟な法制度設計が望まれます。

小幡 葉子
Obata Yoko
TMI総合法律事務所ハノイオフィス勤務。日本国弁護士・ベトナム外国弁護士。1992年より雨宮眞也法律事務所にて企業法務を担当、JICAベトナム法整備支援長期専門家などを経て、2013年4月より現職。
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